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ずっと憧れ続けてきたもの 中編


12:00
さて
河口湖駅から7.3キロ先の目的地の河口湖飛行館へ向けて漕ぎ出した。街中を抜けると一直線に登り出した。最初は6%ぐらいの登り勾配だろうか。まあ何とかなる。

しばらくするとさらに勾配がきつくなった。鈴鹿サーキットの逆バンク先の7.8%登り坂勾配ぐらい。もう歩くようなスピードで息も絶え絶えである。なんでこんなにしんどいんだろう。

間抜けな自分はやっと気がついた。ここはかなりの標高なのである。そら酸欠にもなる。帰ってから調べたら河口湖駅が標高830メートル。河口湖飛行館のある地域は標高1.000メートル強だった。

12:40
河口湖駅から5.5キロほど登ると「富士すばるランド」という遊園地があり、入り口にレストランがあるようなので、食事と休憩をすることにした。

何も語ることはない。

再スタート。ところが全く体力が回復していない。富士スバルライン入り口を右折して、今度は別荘地のアップダウンを繰り返していく。しかもきつい登りは10%はある。スポーツランドSUGOの登りと同じぐらい。無理。押した。

14:00
やっとの思いで河口湖飛行館の入り口に着く。休憩込みとはいえ2時間もかかってしまった。

6年ぶりの河口湖飛行館
前回の見学時に胴体部だけだった隼2型は完成していた。そもそも隼はあまり好きな機体ではなかった。洗練されていないエンジンナセルに2枚プロペラや照準スコープが貧乏臭くて。でも隼2型は3枚プロペラになりエンジンナセルも洗練されて、もともとスリムな胴体に細く絞られた尾部とマッチして、とてもスマートだった。零戦よりスッキリしている。

隼2型 上に吊るされているのは隼1型


完成機2機とストリップ1機の零戦はやはりジャパンビューティーである。繊細な曲線美で特に尾部のスマートさはセクシーですらある。

零戦の尻尾

そして新しく始まった高速偵察機「彩雲」のリビルト。尾部の骨組みのみの展示だった。彩雲といえばこんなエピソードがある。

新造された彩雲の尾部

知り合いの開業医の叔父がラバウルの海軍航空基地に陸戦隊として赴任していた。厭戦感の強い部隊だったようで、何かと理由をつけて命令実現不可能としぶとく逃げ続けて生き残った。実際に生き残ったわけだから事実である。

南方戦線の戦局も絶望的になってきたある日。ラバウル航空隊は台湾に引き上げ、基地防衛の陸戦隊だけがラバウルには残っていた。そんなある日に突然彩雲が飛来してきた。3人乗りの彩雲に下士官パイロットがひとりで乗って。そして「おまえら今から最後の手紙を書け。つまり遺書だ。俺が本土に届ける」と。とはいっても、部隊全員だと運べる量の都合でひとり葉書一枚程度である。

そして皆の遺書を持った下士官パイロットは彩雲に乗り込んでラバウルを離陸した。あっという間に米軍の艦載機が集まってきたが、見事なテクニックで右へ左へ横滑りさせ弾をかわして俊足を生かして逃げ切ったそうである。

有名な彩雲の俊足エピソード「我に追いつく敵機なし」そのものである。

その後米軍はラバウルをスルーしてフィリピン攻略に移ったためラバウルの海軍陸戦隊は生き残った。補給は絶たれたため芋を作ったり自給自足しながら。最後は筏に乗って島伝いに日本に帰る事を考えていたそうである。

ちなみに彩雲が命懸けで運んだ遺書がどうなったのかは分からない。

桜花と母機になった一式陸攻

そしてロケット特攻機「桜花」
コードネームはBAKA BOMB、バカボンである。
機体の半分は1.2トンの弾頭で40キロの距離しか飛べないから、母機の一式陸攻へ吊り下げられて敵艦隊の近くで切り離される。時速800キロ近いため切り離された桜花単独の迎撃は困難で、ほとんどが母機ごと落とされた。敵も必死なのであった。

何とも悲劇的でセンシティブな機体ではあるが、美しいデザインで操縦性も良かったというのがせめてもの救いなのだろうか。

そして桜花の母機である一式陸攻

まるで空飛ぶアルミ缶である。
日本機はとにかくエンジンが非力で機体を極限まで軽量化して性能を補っていた。一式陸攻は双発機である。双発機は片肺つまり片方のエンジンだけでも飛行ができるのが常識なのだが、一式陸攻はそれが困難であった。
それでも一式陸攻は広大な海を渡りスタンレー山脈を越え、海面すれすれで命懸けで戦った。

雷撃中の一式陸攻
高度計はゼロを指していたという

展示物ひとつひとつに、少年時代に読んだ幾多のストーリーが思い出され、時代や国情に思いを馳せてしまう。

軍用機は兵器であり人殺しの道具である。そんなことはもちろんわかっている。ここの展示物は銃痕だらけだ。それでも零戦も隼も桜花も一式陸攻も彩雲も好きだ。それを弁解する気は毛頭ない。

そこに死ではなく強く生を感じてしまうのかもしれない。背反する生と死。死は生の一部でもあるのだろう。

続く

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