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密やかな結晶、そしてふくろうず


10代後半でとても好きになった
『ふくろうず』というバンドがいた。


音楽好きな先輩に
いくつかおすすめのバンドを
教えてもらって

その中のひとつがふくろうずだった。


リリースされたアルバムは
全て何十回、何百回と聴き、
ライブにも足を運んだ。


年齢を重ねて
考え方や価値観が変化して
好みの音楽が大きく変わっても


ふと
ふくろうずが
聴きたくなる日が
あった。

いつもあった。


私にとっては
ずっと、
エバーグリーンなものだった。



そんなふくろうずが、
10周年ライブの翌日
突然解散した。

それが5年前のクリスマス・イブ。


告知も何もなく、
ライブが終わった次の日に
解散します。
とだけ言って
ふくろうずは去った。


ショックな反面
らしい終わり方だな、とも思った。



解散発表をした当時、
ボーカルの内田万里が
『ホンシェルジュ』という本を紹介する
サイトで、


"終わりの物語"とタイトルをつけ

小川洋子の『密やかな結晶』について
コラムを書いていた。

『密やかな結晶』 小川洋子



この『密やかな結晶』は

鳥、帽子、切手、船、リボン、ハーモニカ、
写真、手紙、小説、オルゴール
など

日常の中にあるものが
一つ一つ人々の記憶から
"消滅"していく島の物語である。



一度消滅したものは、
もう二度とはっきりと思い出せない。


例えばそれが
自分が心から愛しているものであっても
一度消滅してしまえば、
曖昧な輪郭しか理解できず
もう二度と自分の心が動くことは
無くなってしまうのである。




時がたち、先日図書館で
『密やかな結晶』を見つけた。


あ。

と、5年前に読んだ記事を思い出して
借りた。



読み終わって、
ページを閉じると

2008年で時が止まった貸出カードが
出てきた。


私の財布に入っている
磁気タイプの
著書名、返却日が
機械で印字された
図書館のカードと見比べて


この紙の貸出カードも
『消滅』したのだ
と思った。


少なくとも
今手で触れるまでは
私の中から消滅していた。

こんなに愛おしいものだったのに。


本を閉じた後も
物語の世界が続いているようだった。



内田万里はコラムで

"わたしたちの作ってきた音楽も、いつかは「消滅」するんだと思います。
ビートルズの音楽のように、100年後も残っているとは思えません。
でも、完全に消え去ってしまうその日まで、ほんのわずかにでも良いから誰かの心の中でそっと輝いていて欲しい。
そう願っています。"

と書いている。

内田万里ホンシェルジュ


それから5年、
今も彼女は形を変えて音楽を続けている。


そしてたぶん、
内田万里は
音楽をやめない。


わたしは彼女のそういう
『意地』みたいな所が
大好きなんだと思う。

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