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Clubhouseでもいい音をとどけたい【技術的なあれこれ】

2021年1月末辺りから日本で爆発的に注目された音声SNS「Clubhouse」。詳しい説明は必要ないでしょう。Clubhouseは会話を楽しむのがいちばんの目的で、このアプリの開発者はアプリ内部の音声品質には高い技術を使っているようですが、集音や再生環境にはさほど力を入れるつもりはないように感じられます。しかし、私のように少しでも良い音で配信したいとか、凝った音作りをしたいというユーザーはある程度はいるでしょう。そんな同志のために、調査や実験から分かったことを紹介していきます。但し、Android端末については全く分かりませんので、Androidユーザーの方、ごめんなさい。

なお、本記事は音響機器やインターフェースの知識がある程度はある方を対象にしています。難しいと思う方は、初心者向けの「【音響初心者向け】Clubhouseでもいい音をとどけたい」をお読みください。

現状の一般的な聴き方、話し方

厳密に統計を採ったわけではないのですが、Clubhouseユーザーの通話の道具はiPhone純正のイヤホンのEarPodsが多いようです。EarPodsのマイクはコントローラーのおまけという印象しかありませんでした。しかし、舐めてはいけませんね。声を拾う目的であれば割と音がいいようです。iPhone内蔵マイクもなかなか上手くチューニングしていますね。それもあって、わざわざ外部マイクを繋いで音を良くしようというユーザーは少ないのかもしれません。

ルームでの居場所によって音質が違うという話もあります。スピーカーの方がオーディエンスよりも質の高い音で聴けるようです。また、自分がスピーカーの時に、とどける音の音質を選択できるようになっているので、高音質を選択するといいでしょう。

マイクの選択

音に拘らない人は、iPhone内蔵マイク、純正のEarPodsAirPodsを選択する人が多いでしょう。では、拘るとすれば何を選択するでしょうか。たとえばLightning端子に直接挿さるコンデンサーマイク、Lightning接続のラベリアマイク(ピンマイク)、ヘッドセットマイク、ビデオ用マイク、スタジオレベルのコンデンサーマイク等々考えらます。

Clubhouseで使えるかどうかは別にして、これらのマイクの音の違いを比べてみます。iOSの標準アプリ「ボイスメモ」で録音した音声をそれぞれお聴きください。(ヘッドホンで聴くと音の違いがよくわかります)

(1)iPhone内蔵マイク

非常に聴きやすい音にチューニングされています。

(2)EarPods

こもり気味ですがノイズは少ないです。

(3)AirPods Pro

ひどい音。マイクの性能というよりデータ圧縮のせいでしょう。

(4)ZOOM iQ5(Lightning直結の小型コンデンサーマイク)

高域がしっかり録れていますが、痩せている感じ。

(5)XINYING YC-LM10 II(Amazonで適当に見つけたLightning接続ラベリアマイク)

通称ピンマイク。正式にはラベリアマイクと言います。低価格なのになかなか良い音。

(6)RODE VideoMicro(ビデオ用小型コンデンサーマイク)

明瞭な音だけど、いまひとつ。iQ5に近いか。

(7)MXL V67G(ラージダイヤフラムコンデンサーマイク)

他と比べるとさすがに良い音。豊かさが違う。

マイクの接続方法

問題はマイクをどう繋ぐかです。以降の内容はLightning端子のみのiPhoneを前提としています。結論から言うと以下のとおりです。

・現時点(2021年4月末)、Lightningコネクターでのデジタル接続では、Clubhouseのアプリがマイクとして認識する物としない物とがまちまちでどれがどれだか試してみなければ分からない。
(これはどうも通信機能の影響の様で、一対一では認識されるけど二人以上と繋ぐと認識しないとか、他の音声アプリでも収録はOKだけど複数が聴取可能なライブでは認識されないなどの現象があり、OS側の制限と思われる)

・したがってアナログ接続が確実。ただし、マイク入力は接続する機器や接続の仕方によっては上手く繋がらない。

実際、どんな繋ぎ方が考えられるのか、いくつかのパターンを挙げてみます。ここで重要なのは、Clubhouseはラジオのような片方向の配信ではないので、iPhoneが受けた他の話者の音声を聴ける構成にする必要があるということです。

【構成1Lightning接続のマイク

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ZOOM iQ6などがありますが、Clubhouseアプリが認識しない物もあるかもしれません。ヘッドホン端子が付いているものを選びましょう。

<実験結果>
ZOOM iQ5 ×

【構成24極 3.5mmプラグ接続のマイク

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Lightning - 4極 3.5mm変換アダプター経由で接続します。該当するマイクはヘッドセットマイクなどでしょうか。

<実験結果>
CLASSIC PRO CPH700WH

【構成3プラグインパワーの3極 3.5mmプラグ接続のマイク

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Lightning - 4極 3.5mm変換アダプター、さらにヘッドホンとマイクを分岐する二股コネクター経由で接続します。

<実験結果>
RODE VideoMicro

【構成4USBマイク

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AKG LYRA などのUSBマイクをカメラアダプター経由でLightning接続します。しかし、Clubhouseアプリが認識しない物もあるかもしれません

<実験結果>
marantz Professional MPM-1000U ○(マイクとして認識はしたけれども、ヘッドホン出力がないのでClubhouseには使えない)

【構成5USB接続のオーディオインタフェース

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Steinberg UR22mkIIFocusrite Scarlett Solo など、iOS対応のUSBオーディオインタフェースをカメラアダプター経由でLightning接続します。しかし、残念ながらClubhouseアプリが認識しない物もあります

<実験結果>
Focusrite Scarlett Solo ×

【構成6】マイク入力 - 4極 3.5mmプラグ接続のオーディオインタフェース

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対象となるオーディオインタフェースは、IK Multimedia iRig Pre 2Saramonic SmartRig II などがあります。

<実験結果>
Saramonic SmartRig+

【構成7】マイク入力 - Lightning接続のオーディオインタフェース

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IK Multimedia iRig Pre HDSaramonic SmartRig Di などをLightning接続します。しかし、残念ながらClubhouseアプリが認識しないものもあると思われます

【構成8マイク入力とLINE出力のある機器→LINE入力 - 4極 3.5mmプラグ接続のオーディオインタフェース

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マイク入力のあるオーディオインタフェース、単体のマイクプリアンプ、ミキサーなどからLINEで出力し、IK Multimedia iRig 2Saramonic SmartRig II などのアナログオーディオインタフェースを経由して接続します。

<実験結果>
Focusrite Scarlett Solo → IK Multimedia iRig 2 ○

アナログ接続というやりかた

Lightningインタフェースはデジタルであり、この場合はClubhouseアプリの制限があります。Lightning - 4極 3.5mm変換アダプターを繋ぐことによりアナログでの接続になり、おそらくアプリ側からの制限は無くなるはずです。ただし、このアダプターを使うのはLightning端子のみのiPhoneの場合で、iPadの場合は事情が違ってきます。

4極 3.5mm端子がある場合
 直接アナログ接続ができる
USB-C接続(第3世代以降のiPad Pro)の場合
 Lightning - 4極 3.5mm変換アダプターの代わりにUSB-C - 4極 3.5mm変換アダプターを使う

iPhone、iPadの音声接続

iPhone、iPadのマイク入力の仕様

LightningやUSB-Cからの変換であれ、直接であれ、ヘッドホン・マイク端子は4極の3.5mm端子です。4分割されたプラグの先端から、L出力、R出力、グランド、マイク(DC電源重畳)となっているようです。

4極ジャック仕様

これを二股で分岐すると、ヘッドホン端子は先端から、L出力、R出力、グランドの3極となります。マイク端子も先端から、マイク(DC電源重畳)、マイク(先端と短絡)、グランドの3極となっているようです。ここで難しくなってくるのがマイクです。まず、先端とリングが短絡されているのだとすると、2極のプラグのものは動きません。おそらく想定されているのは3極で、電源が重畳された信号を受けられるプラグインパワーのマイクでしょう。

立派なマイクを使いたい

立派なマイクってどんなマイクですか? 30万円もするスタジオ仕様のコンデンサーマイクでしょうか。いえいえ、そんな高いレベルは想定していません。ここでは、PC用の3.5mm端子のエレクトレットコンデンサーマイクよりは高いくらいの性能の、XLR端子接続のマイクとしましょう。これらのマイクの性能を活かして使うには、それを受けるマイクプリアンプのちゃんとした機器を使うことになります。オーディオインタフェース、ミキサー、単体のマイクプリアンプなどです。

マイクプリアンプとは、マイクからの信号を受けてレベルを上げてやる機器、あるいは回路のことです。電気音響の世界では標準的にLINEレベルで伝送するのですが、マイクの信号は微弱なため、LINEレベルに増幅してやる必要があります。また、ただ増幅すればいいというものでもなく、デリケートな信号をいかに劣化させずに受けるかの重要な回路です。

マイクプリアンプを持つ機器のうち最も一般的なのは大抵のDTM屋が使うUSBオーディオインタフェースでしょう。iPhoneと接続する場合、iOS対応である必要があります。また、USB接続というのはホストとデバイスの関係でなければいけないのですが、オーディオインタフェースもiPhoneもデバイスですから繋がりません。これを解消するために相手をホストに見せかけるカメラアダプターというものを通して接続する必要があります。

つまり、前述の【構成5】の形態です。

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しかし、現時点ではLightning接続はClubhouseアプリが認識しないものもあります。その場合はアナログで接続しなければいけません。そのひとつが【構成6】です。

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使えそうな機器は、IK Multimedia iRig Pre 2Saramonic SmartRig II などがあります。ただし、これらはマイクプリアンプの性能が今ひとつかなと私個人としては思います。その程度では満足できないという場合には、性能のいいオーディオインターフェースなどで一旦マイクの信号を受けてからさらに別のオーディオインターフェースで4極アナログに変換する【構成8】になるでしょう。

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とはいえ、たかがClubhouse。【構成6】のシンプルなシステムでいいんじゃないかとも思います。あるいはClubhouseアプリがLightningに対応するのを待つかですね。


随分と書きましたがこの記事はマイクの接続までとして、続編は音楽や効果音をミックスしたり、エフェクトを掛ける方法についてご説明しようかと考えています。

続編 → ClubhouseでBGMや効果音をミックスしたい

以上


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