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オレ文集、あるいはゴミ箱

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#短編小説

短編小説「半身」

「下半身を一晩お貸ししてもいいわ」と娘は言った。小さな声が夜更たマンションの一室に響いた。私はゴクリと唾を飲んだ。飲み込む音が聞こえなかったろうか、喉仏の動くのが見えなかったろうかと気にかけながら、私は落ち着きを演じた。 「いいのかい」 「ええ、そのために来たのでしょう」  彼女は微笑って言った。ネクタイを緩めながら私ははじめて娘を直視した。椅子に座った女は、二十歳過ぎ、あるいは十代、二十歳前。私にとっては小さな違いだが、何れにしても娘と呼ぶに相応しい歳のようであった。短く切

短編小説「枕の母 〜 当直医が見た膝枕 第2話 〜」

この作品は、Clubhouseで多くの読み手によって読み継がれている、脚本家・今井雅子先生の小説「膝枕」を基にした派生作品であり、拙作「当直医が見た膝枕」の続編です。 当直医が見た膝枕 第2話 「枕の母」 眠い。このままでは眠ってしまう。当直室で大きな欠伸をしたのは桼谷だ。夜勤とは違って当直は補助的な役割で、巡回のほかは突発的な何かがない限りは待機しているだけだ。だが、それが却って眠くて辛い。彼は気分転換にとテレビを着けた。ちょうどやっていたのは深夜枠のドキュメンタリーだっ

「膝枕」外伝 短編小説「僕のヒサコ」

はじめにこの作品は、Clubhouseで多くの読み手によって読み継がれている、脚本家・今井雅子先生の小説「膝枕」を基にした派生作品です。原著作、朗読リレーのあれこれ、他の派生作品はマガジンに纏められています。本作は、原著作「膝枕」の前日譚に当たりますが、「膝枕」を先にお読みになる方がよいかと思います。 なお、この作品と並行して女の視点で書かれた「ヒサコ」があります。そちらもお読み頂けたら幸いです。どちらを先に読むのがいいのか私にもわかりません。 短編小説「僕のヒサコ」  

「膝枕」外伝 短編小説「ヒサコ」

はじめにこの作品は、Clubhouseで多くの読み手によって読み継がれている、脚本家・今井雅子先生の小説「膝枕」を基にした派生作品です。原著作、朗読リレーのあれこれ、他の派生作品はマガジンに纏められています。本作は、原著作「膝枕」の前日譚に当たりますが、「膝枕」を先にお読みになる方がよいかと思います。 なお、この作品と並行して男の視点で書かれた「僕のヒサコ」があります。そちらもお読み頂けたら幸いです。どちらを先に読むのがいいのか私にもわかりません。 短編小説「ヒサコ」 じ