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無謀と希望の隠蔽大作戦

 あれはひと月ほど前のこと。京都駅近くのうどん屋さんには行ったら、映画のポスターとサインが飾ってあった。『ロケで、来てくれたんですよ』と店のご主人。時代劇のような、現代劇のような人物配置。センターには中井貴一氏。一見堅物そうに見えるけど、だからコミカルな演技をするとそのギャップが面白い人、という認識。これはたぶんCMの影響が大きいかもしれない。大阪、京都を舞台にした贋作バディ物『嘘八百』の飄々として胡散臭い古物商役は実にハマっていた。最近の邦画にしては珍しい、原作のない映画オリジナルの作品で、『トラック野郎』のようなシリーズ化もありなのではと思うのだが、まだ二作目でストップしているのが惜しい。

 そんな中井氏が主演した最新作『大河への道』である。コミカルな中井貴一、そして時代物? ということで朝一で見に行くことにした。

 千葉県香取市の有名人、伊能忠敬を大河ドラマの主人公にして観光を盛り上げるプロジェクトが立ち上がる。しかし、調べていくと、忠敬は日本地図を完成させる前に亡くなっていることが判明。なぜ、どうして? 映画は大河ドラマ誘致に奔走する市役所職員と、忠敬の死後、地図完成のために奮闘する弟子たち、伊能隊の姿を交互に描く現代と江戸時代が交差した面白い構成。現代編のキャラがそのまま江戸時代編でも別の役を演じているので、実に分かりやすい。現代ではお堅い北川景子が江戸編ではいなせなお姉さんだったり。OLと忠敬の弟子を演じる岸井ゆきのがもう30歳って、パンフ見て知った。また二十代前半かと思った。幕府に忠敬の死を伏せたまま測量を続け、隠し続けて3年後に地図は完成する。その間、隠密の探査を誤魔化す策がコミカルに描かれていく。原作が立川志の輔師匠による落語、ということもあるし現代編を含め、もっとポップにコミカルに描いてもよかったのでは? と思ったが、それは自分の期待が過剰過ぎたからかもしれない、今のままでも十分面白い。映画は全体的に淡々としたトーンで、その中にくすぐるような笑いのシーンが挿入されてる印象。やっぱりもっとドタバタしてもいいのかも、と思ってしまうのは、配給の松竹が『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』と大人が見ても楽しめる喜劇を作ってきたイメージが強いからかな。

 しかし、50を過ぎて日本地図作成のため全国を歩き続けた伊能忠敬という人物、普通なら隠居してもいい年だと思うのだが、その行動力には驚かされ、『自分もまだまだいけるかも?』と全国のおじさんたちを勘違いさせるに十分なキャラではとおもう。そんな伊能忠敬を軸に置きながら、本人が全く出てこないという構成がユニーク。調べれば調べるほど、伊能忠敬よりも彼の弟子にスポットが当たっていく流れも面白い、それじゃあ町おこしの大河ドラマ誘致にならないじゃないか。だからラストの中井氏の行動は、自分含めおっさんたちには希望が持てるものではあるけど、やっぱり何度調べても伊能忠敬が地図完成させてないから、それはちょっと思うのだけど、それでも挑戦するのに年齢は関係ない、という希望だけは与えてくれました。

 


そして映画館の売店でパンフレット……が入荷していなかったので、シン・ウルトラマングッズを。パンフは帰り道、別の映画館で購入。公開から一週間、シン・ウルトラマンを再び見たいとは思うけど、他にも見たいものがたくさんあるのですよ。


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