見出し画像

第三のオッサン殺し・大迫力大画面

 思えば36年前、確かに世間は熱狂し、それなりの大ヒットとなっていた。少し上の年代ならサングラスやジャケットで主人公気分を味わったはずだし、カワサキの同型のニンジャに乗っていたかもしれない。あれ、輸出仕様だから、そっくりそのままのものを購入するのは大変やったかもしれないですね。キロじゃなくて、マイルやし。さすがに戦闘機は買えないけど、音楽やファッションで一大ムーブメントを起こしていたのですよ、『トップガン』って映画は。映画見てなくても『デンジャーゾーン』『愛は吐息のように』の二曲はよくラジオや有線で流れていましたよ。昭和61年、その年の正月興行を独占していた『トップガン』を、当時全然見ていなかったのです。なんだか若手スターの恋愛パイロットものでしょ? 『愛と青春の旅立ち』見たい🄱なものでしょ? と勝手に思っておりました。自分は興味ないな、と。で、その時期自分は何を見ていたのかと調べてみたら……。

 『キングコング2』でした。これはこれで大事なことです。まさかの続編、ゴジラも1984年に復活したものの、続編の声を聞かない当時、怪獣好きにはたまらない、まさに『砂漠にオアシス』のような映画だったのです。内容とか評価はともかく、ですが自分にとってトムクルーズよりもキングコングだったのです。いくら戦闘機がカッコよくて強くても、怪獣映画の中ではやられ役じゃないですか。

 そして現在、何度目かの公開延期を乗り越えて『トップガン』が帰ってきたのです。長い年月を経てまさかの続編、という点では『キングコング2』に似てるような気がします。その間、トム・クルーズさんは数々のヒット作を作り、そろそろ落ち着いてもいい年なのに『ミッションインポッシブル』シリーズで人間の限界を超えたようなアクションに挑戦しております。納得いく絵作りのため撮影技術の進歩を待ったと言われるほど、前作を大事にしており、もはや俳優であり、クリエイターでもあるトムさんが満を持して送る『トップガン・マーヴェリック』も大ヒット。たぶん当時を懐かしむオジサン層や、いまだに人気衰えないトムさんの映画だから見に行った若い層が大勢駆けつけたかと思います。この現象、どこかで見たことあるな、と思ったら『シン・ウルトラマン』『機動戦士ガンダム・ククルス・ドアンの島』と根幹は同じなのでは? 昔流行ったコンテンツが今の技術で新しくなって来ている、もちろん旧作ファンへのサービスも忘れない作りで。これを個人的には『前作見なくても面白いよ、とか言われたら前作も見たくなってしまうやん映画』、略して『オッサン殺し映画』と呼んでます。

 ここまではやっているなら見てみよう。何よりほぼ同時期にやってきた『オッサン殺し映画』を二本見て、三本目を見ない手はないぞ。と、先日ようやく、激安価格だったので一応買っておいて長い間部屋に置きっぱなしにしていた『トップガン』一作目を見ました。

 なるほど。アメリカン学園もののフォーマットをそのまま海軍に置き換えた青春映画だ。他と違うのは戦闘機に乗ってソ連のミグを撃ち落とすぐらいか。80年代はまだ冷戦で当時ソ連は格好の仮想敵国だったなぁ。だからこの映画も『ランボー怒りの脱出』『ロッキー4』と同列のタカ派映画、なんて言われてたはず。トニースコット監督のMTV感覚な演出も実に軽薄な空気漂った80年代にぴったり。そらヒットするわ、と36年経ってから思うのでした。

 前作のおさらいもしたので、さあいつ『マーヴェリック』を見ようかと思案していたら、今度は知人から『IMAXで見なはれ』とお告げのようなメッセージが来ました。幸い、うちから30分程度の距離にはユナイテッドシネマ岸和田がある。仕事明けの日でも行ってみようかな、と雨の中車を走らせたわけです。

 

 『トップガン・マーヴェリック』はなるほど、前作を見てたほうが厚みが違うな、と思いましたね。前作のあんなキャラやこんなネタを丁寧に拾って組み込んでいる。プロデューサーのトムさんはじめ製作陣のトップガン愛がひしひしと伝わってきました。老いてなお空への挑戦を続け(そのたびに上層部に煙たがられてる)トムさんが、古巣のトップガンに戻って若手を鍛え極秘任務を遂行させるまでのお話。前作では教わる側だったトムさんも今度は教える側に。やんちゃ小僧が母校の教師になって戻ってきた、学園漫画のテイスト。もちろん学生たちも曲者ぞろいですよ。トムさんのこれまでの葛藤も含みつつ、青春映画のテイストもちゃんと残しております。もちろん50オーバー🄱なのに肉体が衰えないトムさん自身の青春でもあるのです、長い春やなぁ。

 最新鋭のF18の爆音が全身を揺らし、いつしか自分もコックピットに乗ってるような錯覚を覚え、そして9Gの圧力に思わず身をよじらせてしまうのも、IMAXの大画面だからこそ。知人がこの上映形式を勧めてくれた理由が高度10000フィート上空できりもみしながらわかりました。

 ならず者国家の秘密基地を爆撃するミッションは山間を低空飛行し、一気に登りあがって降下して攻撃、そして急な山の斜面を再び飛んで脱出するというもの。このフォーメーションは先日上映された『ゴジラの逆襲』のゴジラ雪崩攻撃とそっくり。偶然でしょうが、こじつければどちらも空の男のドラマで、宴会(パーティー)シーンがあるという共通点があります。

 

  懐かしさと最新技術でオッサンはじめ全年齢を震わせ、クライマックスでまさかの『旧型に乗って窮地を脱する、ついでに最新鋭機を倒す』というメカ好きにはたまらないシチュエーションがあったりで、最後の最後まで抜かりない、続編だけども『トップガン愛』に包まれた作品だなぁ、と思いましたね。莫大な予算を上回る『愛』の分量がものすごい映画なのです。それとやっぱりシンウルトラマンでもガンダムでもオッサンたちが喚起するのは『前の作品の楽曲』の使用だったりするのです。オープニングから朝日だか夕陽だかわからない、いわゆるトニースコット空の中、空母から出撃する戦闘機に流れる『デンジャーゾーン』とか、知ってる人は、たぶんあそこで泣いてしまうやろな。でもあのシーンにはトムさんいないから、本当にファンサービス以外の何物でもないんですな。

 映画を観終えて外に出ると雨脚はやや強くなっていた。岸和田港に停泊する船が、空母に見えた。というのは嘘です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?