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「問い」かけ「意味」をつくる|47キャラバン@和歌山

東日本大震災をきっかけに、食べ物付きの情報誌「食べる通信」を創刊し、生産者と直接やり取り押しながら旬の食材を買えるプラットフォーム「ポケットマルシェ」を立ち上げた高橋博之さん。東日本大震災から10年の節目を迎える2021年の3.11に向けて、改めて人間とは何かを問うために47都道府県を行脚する「REIWA47キャラバン」を開催している。
先日、高橋さんのtwitterで47キャラバンの和歌山でのレポート係を募集しており、和歌山に住む私が、「このチャンスは逃してはならない」とすかさず高橋さんに連絡し、キャラバンに同行させていただくこととなった。このnoteではそこで見たもの、感じたものをつづっている。


初対面

今回、高橋さんと会うのは初めてで、高橋さんが毎朝6時に開催する車座にも参加してこなかった僕は高橋さんがいったいどんな人なんだろうかととても緊張していた。ネットでリサーチすると岩手県で議員をされていたり、東北食べる通信の編集長をされたり、ポケットマルシェのCEOをされていたり、と調べれば調べるほどすごい方なのだと感じ、まともに話せないのではないかとかなり体がこわばっていた。そんな自分を落ち着かせるために持ってきたみかんを食べて自分を落ち着かせていた(この時期、僕はみかんの収穫に行っていた)。

車が到着すると、中からネット上、SNS上で見ていた高橋さんがリアルで現れた。体が最高潮にこわばった。おはようと声掛けられたので「よろしくお願いします。」とぎこちなくあいさつを交わすと、車に乗り、最初の農家さんへのところへと向かった。

「田舎でしか売れない味だ」

高橋さんと車の中で会話を交わし、少し緊張がほぐれたところで柿農家を営む一心農園さんに到着した。一心農園さんは元家さん親子2人で柿とぶどうを育て、柿は生産から、オリジナル柿アイスの製造、販売までを行う。まず、案内されたのは元家家が代々受けついできた藁ぶき屋根の家に案内していただいた。家の案内をしていただいた後、私たちはプレミアム柿アイスをいただくことになった。
ミルクベースのアイスの中にあんぽ柿が混ぜ込まれた上に、特製の富有柿ジュレを乗せた特製アイス。口に入れると柿の甘みとミルクの包み込むやわらかさが口いっぱいに広がり、とても幸せな気持ちにさせてくれるアイスだった。しかし、このおいしい特製柿アイスも出来上がるまではたくさんの苦労があった。柿はほかの果樹と違って加工が難しいようで、何度か試行錯誤して作った柿アイスを食べてもらっても「うーん、この柿アイスは田舎でしか売れない味だ」と辛口の評価しかもらえなかったという。

しかし、そこで火が付いた元家さん。なにくその精神で、どのようにしたらおいしい柿アイスができるのかと試行錯誤すること3年。ついに出来上がったのがこのプレミアム柿アイス。現在は和歌山県内の逸品だけが選ばれるプレミア和歌山にも選出されている。私はこのエピソードを聞いて、元家さん親子のとてつもないバイタリティーを感じた。そもそも、2人だけで柿の生産から販売までを手掛けているということを考えても、そのエネルギーはとてつもないものがないと成り立たないだろう。そんな苦労と、親子でつなぐ柿畑を続けていることに思いをはせて食べる柿アイスは、感慨深い味だった。

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親子二人三脚を支える仲の良さ

畑を案内していただいたり、お話を聞いていると、本家さん親子のバランスの取れた関係性が見えてきた。「本当に仲がいい親子ですね」と高橋さん。するとすかさず「いや、いっつもは喧嘩ばっかりですよ(笑)」「息子は結構やりたいことはどんどんやっていこうというタイプやけど、自分はお金のこととか心配して慎重になりがち。そこの違いでよくケンカをする。」とお母さん。しかしその言葉を聞いて、あ、だからこんなに仲がいいのか、と思った。お互いにそれぞれの違いについて認識して、それを受け入れている。それが上手にパズルの凸凹としてハマっているのだと、笑顔でその話を聞いていた息子の良輔さんを見て感じた。

一心

挨拶からエネルギーに圧倒される

一心農園さんを後にすると次は和歌山市内に向かい、柿、桃やみかんを1年を通して育てる山本農園さんへと向かった。到着するや否やそこを出迎えたのは山本農園の山本康平さんのほかに、新崎真緒ちゃんを筆頭とした立命館大学の学生3人が出迎えてきた。お互いに、あいさつを交わしたが、その挨拶の時点で、4人のエネルギーに圧倒されてしまった。一つ何かを話すだけでも覇気が違った。特に真緒。Twitterではよく目にしていたが、実際に合うとエネルギーが体からあふれ出ていた。そんなエネルギーに圧倒されながら、農家のベンツといわれる(?)リアカーに乗り、山本農園さんのもも畑に案内してもらった。

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農家としてのぶっ飛びが唯一の価値に

桃畑に案内してもらうと糖度30度を超えた桃のエピソード、なぜ農家を継いだのかについての話をしてもらった。すると、山本さんが紙を取り出し、急遽「途絶えさせんじゃねえぞ」というコーナーが始まった。というのも山本さんは農家もやりつつ、「よるののうかこうへい」という名前で、ラジオの配信も行っている。そのラジオのコーナーの一つが急遽桃畑のど真ん中で始まった。「おい!○○!」というセリフから始まり、ポケマルに対する思いや、高橋さんに言いたいこと、さらには○ネタまで、さまざまな視聴者さんから寄せられた「途絶えさせんじゃねえぞ」で締めくくられるメッセージを、康平さんが大声で叫ぶというコーナーである。まさかこんな畑のど真ん中でこんな大声で叫ぶとは思ってなかった。正直ぶっ飛んでいる。というかすこし怖かった(笑)。

しかし、「桃農家を営む人はごまんといる。でも、農家をしながらラジオ配信をする人なんかそうはいない。」と高橋さん。あ、山本さんがやっていることはこのような価値につながっているのかと感じた。農家さんはたくさんいても、それにラジオのコメンテーターを掛け合わせた人はいない。農家でそれをできるのは山本さんだけだと言う価値。実際、山本さんがこのラジオをやっているのは「農業に対して感じることや課題について、フラットに楽しく伝えていきたい」という思いからである。「おいこうへい!ふるさとを途絶えさせんじゃねーぞ!」。高橋さんが最後に言ったことばが今でも頭に強く残っている。

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疑問をもってのぞんだ講演会

農家さんへの場所を巡り終えると、夜は和歌山の県民施設であるビック愛で高橋さんの講演会となった。僕は高橋さんに「なぜこんなにも、熱意をもって一次産業に関わる活動をつづけたり、47キャラバンに出向いたりするのですか?」と質問を投げかけた。というのも僕よりも30歳も年上なのに、様々なところに自らの体で出向いたり、行動できるというのが非常に不思議に感じた。高橋さんを見ると「エネルギー」であふれていた。自身の想像していた大人の像と全く逆であった。高橋さんは「それは、次の講演会を聞けばわかるよ。」と言った。僕はその答えがとても気になり、講演会を最前列で聞いた。

気づきと、腑に落ちなかったこと


講演会を聞いて一番印象に残っているのが、「今の日本人、特に若者は、生きるという実感を感じられなくなっている。」「答えは畑にある」という言葉である。ここには強烈な共感と、腑に落ちない自分がいた。確かに、普段大学生として生活しているとただ淡々と、その日の課題をこなし、バイトをして何も考えずにカップラーメンを食べ、寝るという生活をしていた。まさに「食べることが、ガソリン補給」になっている状態である。しかし、実際に今日のように農家さんの場所へ出向いたり、畑に身を置いたりすると、心が自然と高揚する。あ、自分の居場所はここにあるのかもしれない、という感覚。この感覚は自分が1次産業にのめりこむきっかけでもあった。この心が生き生きする感覚が「自然」なことなんだ。自分が感じていたことは、間違ってなかったんだということをこの講演会を聞いて気づかせてくれた。

一方で腑に落ちなかったのは「死を意識することがないから、生の実感がわかない」という部分である。僕自身、死の意識に関してはとても敏感な方であると感じていた。過去にも足に腫瘍が見つかったことがあり、そこで、「これががんであった場合、余命宣告は本人にしていいか。」という同意書を突き付けられたことがある。そんな経験もあり、強烈な死を意識することはあった。そんな経験もあってか、いつも朝目覚めるとき「あ、俺は必ず死ぬんだ。」という思いとともに起きることがよくある。しかし、なぜか生きることに対しては実感を持つことができなかった。ここがどうしても腑に落ちない自分がいた。「生きる」とは何か、いつもこの問いを思い出したとき、自分が何なのかわからなくなる。でも、おそらく決まった答えはない。ただ、一つの大きなヒントをいただいた。「答えは自分の中にはない、他者とのかかわりの中にある」という高橋さんの言葉。これは、ぼくが「何かやりたいことを探すときの答えって、自分の中にあるのですかね」と質問したときのことばだったが、「生きる」というのも他者とのかかわりによって意識させられることなんだと感じた。

僕なりに見つけた質問に対する答え

また、前に投げかけていた「なぜこんなにも熱意をもって、47キャラバンをするのか」という質問。はっきりと答えがわかったわけではないが、自分なりの答えが出た。「生きるとは何か」「人間とは何か」という壮大なテーマに対して、「問い」を投げかける。それを自らの体で動き、「問い」を積み重ねて47キャラバンの「意味」を作っていく。それが高橋さんを突き動かしている原動力の一つになっているのかと感じた。たった1日であったが、同世代の大学生や、強烈なキャラを持った農家さん、そして高橋さんから刺激を受けまくった一日だった。

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