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声は届かなくて、思いは伝わらなくて~過ぎつつある第5波を振り返って~

最近は日に日に新規感染者数が減ってきてました。

でも何故か自分の病院のコロナ患者は、全然減っていません。
ですが日々陽性者が減ってきているとの報道が、
「ここさえ頑張ればきっと!」
と元気にしてくれます。

そして最近は、
過去を振り返った話もできるようになりました。

そんな我々が話していることがあります。
「やっぱりまた冬に、医療崩壊するんだよなぁ」

やっと第5波が過ぎつつあります。
そして薄々感じていることがあります。
それは「第5波を抑え込んだのは結局、医療崩壊」
ということ。

またこの冬に確実に来る第6波。
きっとその波も、医療崩壊するまで収まらないこと。
医療体制の拡充をしても、
活動制限の法整備をしても、
また医療崩壊は避けられないという予感・・・

とすれば結局、
今から我々医療従事者が努力しても無意味ではないか?
想いを巡らせています。

1.第5波の医療崩壊は、医療機関の準備不足なのか?

コロナはもともと冬の病気です。
だから、夏はやっと休めるか・・・と思っていました。
その中で想定外のデルタ株!
結果、第5波が襲来しました。

ネットニュースをみると、
「医療機関の準備不足」
「助成金だけもらって、コロナを受け入れていない」
とのコメントを目にしました。

助成金の問題はともかく(ちなみに自分はコロナを診ていますが、コロナ前に比べて年収は20%以上ダウンしています、決してコロナで儲けているわけではありません)、病院はそれなりに準備はしていました。

感染拡大に向けてワクチン接種に人員を割き、
感染に対応できる病床も増やしています。

東京都の医療施設の使用状況をみても、
第1波や第3波の頃に比べて第5波は、
軽症~中等症の病床は1000→3000→4000床へ、
重症の病床は100→150→300床へと増えています。

自分の病院も第3波の頃に比べて、病室の感染対策を強化していました。
看護師の退職がありながらも、第3波以上の数を診ていました。

にも関わらず結果医療は崩壊、
「準備不足!」「今まで何をやっていた!」
と非難する声が上がりました。

2.結局、第5波をとめたのは

東京ではデルタ株の感染拡大に伴い、
6月下旬から新規感染者が増加に転じました。

罰則規定がないものの、対策は迅速に打たれました。
6月21日から東京が蔓延防止等重点措置地域に指定、
7月12日から緊急事態宣言が発令、
ですがほとんど効果はみられませんでした。

やがて世間では政策の批判、五輪中止の声があがり、
それにも関わらず五輪が開催されると、
コロナを忘れたかのように世の中は歓喜に包まれました。
その間に感染者は勢いよく増えていきました。

そしてその五輪も8月8日に終了。
するとニュースは医療現場の報道を始めました。
医療が崩壊して入院が必要でもできなかったり、
酸素や薬が必要でも届けられない現状を訴えました。

暗い報道が続く中、程なくして新規感染者が減少しました。

そして9月には感染のリスクが叫ばれながらも、学校も始まっています。

3.人の心に届くのは・・・

国が規制の手をうっても、
我々が医療が危ないと叫んでも、
なかなか伝わらない声、思い。
結局いつも、犠牲者が出ないと届かない。
なぜ・・・?

それは先日、Web講演を観ていて何となく分かりました。
その講演の演者は、HPVワクチンを打ってもらうことに真摯になっている先生でした。

HPVワクチンは2013-2015年に、ワクチン接種後に体調不良をおこした方が大々的に報道されました。
ですが調査の結果、ワクチン接種との因果関係がないとの結論が出ました。
ところがその後、日本にはHPVワクチンに対するワクチン忌避が強く残ってしまいました。

というのも、一般の方が接種をしようと思ってググると、
・重大な副作用がある!
(昔の記事ですが、みなさん記事の日付まで確認しませんよね)
・実は重篤な副作用との関連性はなかった!
(重篤な副作用という記事がヒットするだけでイヤですよね)
なんていう記事がヒットしてしまうんです。

それをどうやって、注射を受ける子の親に説得してゆくか。
2014年に米国の文献で、何をしても無駄!むしろ逆効果だよ!!
と結果が出ているこの内容を、日本のある先生が研究していました。

 3-1.国の声は、信じてもらえない

まず厚生労働省が、接種をする意義と副作用、そして世にいわれている重大な副作用は注射と因果関係はないこと、救済措置などの内容を盛り込んだパンフレットをつくっています。これをつかって親に説明しました。
ですが多くの親は「国はすぐ隠ぺいとかするから、信用できない」と注射に同意してもらえなかったとのことです。

 3-2.医者の声も、信じてもらえない

次に、毎年の子宮頸がんの患者数、予防接種によるその予防効果、副作用のリスクを、先生みずから紙に書いて口頭で説明してみたそうです。
でもこれも親からは、あまり注射に同意して貰えなかったとのことです。理由は「製薬会社と癒着しているんではないか」という意見が最も多かったそうです。

 3-3.ならば、誰の声なら信じてもらえるのか?

次に、子宮頸がんで闘病されている方、がんの手術で子供を産めなくなってしまった方の体験談・闘病記を見せました。そしてこうなるリスクを減らす事ができると説明したそうです。
結果これが一番効果がありました。「こんな事になってしまうの? なら予防接種を打とうかしら」とワクチンを打ってもらえたそうです。

ここから分かることは、結局国がすすめても、我々医師が説明しても、多くの方はワクチンを信用してもらえないということです。実際に病気をして苦しんでいる人の声を聞かないと、思いは伝わらないわけです。
状況や理由を伝えてもダメ、感情に働きかけないと、行動してもらえないという事です。

4.我々が頑張るのは何のため?

とすると結局、第5波が終息したのは、
コロナでも入院できず、自宅で苦しんだり亡くなったりする報道がされて、
それでようやく事態が伝わって、行動にうつしてもらえたからな訳です。

第1波は3月末に、芸能人が犠牲になってようやく終息。
第3波は正月明けに、医療崩壊の犠牲者が報道されてようやく終息。
第5波は五輪明けに、医療崩壊の犠牲者が報道されてようやく終息。

とすれば第6波は・・・

医療の拡充は無駄な努力でした。
緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置も効果ありませんでした。

我々が頑張って頑張って準備しても、
結局最後は医療が崩壊して、
その犠牲者が出ないと、気をつけてもらえない。

頑張って頑張って病床を増やしても、
医療崩壊の数日間の延命効果でしかない。

もう頑張る意味が、みつけられません・・・

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