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muracoが黒くなったストーリー

皆さんこんにちは。muracoの村上です。最近思いもよらない方から「note読んでるよ」と言っていただくことが増えてきて、自分で書いておきながら少し照れくさいです。

さて、その「note読んでるよ」と言って頂いた、とある業界の、とあるナショナルブランドの一角の、とあるビッグネームの方から「muracoの黒い理由っていつ書くの」?と言われて、思い出したので、今回はその話を。

ビビッドカラーのテントサンプル


muracoは新規事業として事業企画をしていた時代から、アウトドアの総合ブランドを目指そうと決めていました。その中でテントの開発は必須でした。タープ用ポールの「NORTHPOLEシリーズ」や自在金具「CYLINDER TENSIONER」の開発と並行して、中国のテントメーカーと、テントの開発も進めていました。

僕は根っからのアウトドア好きで、テントを広げた時に漂うポリエステルやナイロンの匂いがとても好きで、色々なメーカーのテントを所持していました。そんな僕なので、もちろんブラックなんて色は想定しておらず、イエロー、オレンジ、グリーンなどでサンプルトライしていました。自然の中で使うものだから万が一何かあった時の為にビビッドな色が良いに決まっていると思っていたからです。

しかし、何度かのサンプルトライを繰り返しても、これでいいのかな・・・。とモヤモヤが消えないままでした。

muracoはミリタリー系に!

悩みに悩んだ僕は、埼玉県狭山市という土地柄を考えました。すると頭に浮かんだのは、聞き慣れたジェットエンジンの音。そうです。狭山市には航空自衛隊の入間基地があるのです。

そこに着想し、muracoはミリタリー系のブランドで行こうと決めました。ミリタリーは、一定のファン層がどの時代の変遷の中でも存在し、面白いと思いました。僕自身も幼少期からプラモデル作りが大好きで、今でも好きなレーシングカー(特にグループCカー)を超え、戦闘機、戦艦、戦車など軍モノプラモデルが最も多く作ったジャンルでした。

※ちなみに小学6年生の頃にそのプラモデル好きが講じて、先生に直談判し、プラモデルクラブを立ち上げた経験があり、当時母校最大のクラブとして語り継がれています。きっと。

そして、いよいよ最後のサンプル制作を目指し、陸上自衛隊の車両指定色の「グレーに近いオリーブドラブ」を中国のテントメーカーの担当者、Chenさんに伝えました。

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黒いテントとの事故的な出会い

「muracoはミリタリーで行く。このオリーブドラブでサンプルは最後にする。」と。そしてサンプル制作がスタートしてから約3週間、Chenさんから「Takuya! the final sample is ready! 」とメールが来ました。そしてそのメールにオリーブドラブのテントの写真が添付されていました。

添付ファイルのアイコンをダブルクリック後、僕のmacのディスプレイに映し出されたそのテントの色は・・・。

真っ黒。

(に見えました)かっこいい。衝撃的にかっこいい。

これが僕と、この後にBLACKBEAKと名前の付くテントとの事故的な出会いでした。しかし、黒は今までのアウトドアブランドのイメージとあまりにも違いすぎる。軟派なイメージが出るのではないかと非常に不安もありました。と同時にビビッドな色でサンプル制作を繰り返していた頃の、「フィールドで何かあった時にビビッドな色じゃないとダメだ」という感覚もあり決めきれずにいました。

しかし、それよりも何よりも、muracoは後発のブランドなので、既存のアウトドアブランドと同じようなカラーで商品を出しても差別化しにくい。macのディスプレイに映し出されたあの衝撃的なインパクトを信じようと決意しました。僕が感じたのと同じように感じてもらえる人が絶対に居るだろうと信じていました。

そして、そしてまだオリーブドラブでいくと思っているChenさんに「ごめん黒で行く。もう変えないから生産を始めて欲しい」的な内容のメールを送りました。そして数百万円ものキャッシュを、売れるかどうかもわからない真っ黒なテントの量産に注ぎ込みました。とても怖い決断でした。

黒いテントの発注と共に始まった暗"黒"時代

社内の厳しい反応
当時の社内はmuracoの事業に対して懐疑的な印象を持つ従業員が多く、「2代目社長が残業減らせ、経費減らせと言っているクセに、好きな事には平気で大金注ぎ込むんだ」的な空気がものすごく強かった時代です。

muracoの営業やイベント出展の為に20年落ちの60万円位の中古のバンを買おうと中古車屋に行く途中に、工場長から携帯に着信があって「社長、今は車買わないで欲しい、メンバーの気持ちが離れて仕事にならなくなる」と本気で止められ断念したこともありました。

黒のテントへの批判
一方でfacebookやInstagramなどのSNSに、muracoブランドのアカウントを作成し、ブラックで作られたサンプルの写真を掲載しました。するとコメント欄には以下のような辛辣なコメントが寄せられました。特にfacebookは酷かったです。

「蜂に刺されたら責任取れるの?」
「素人が開発するとだいたい色から入っちゃうよね」
「フィールドテスト絶対していないね」
「暑くて使い物にならないじゃんこんなの」
「カッコいいけどカッコいいだけ」

社内にも社外にも敵しかいないように感じられるようになり、新しい事をするということは、これほどまでに辛く大変な事なのかと感じました。精神的にもとても厳しい時期だったなと感じます。

その後とあるイベントで、僕が勝手に恩人と思っている方との出会いもありその批判を跳ね除ける形になりました。この話はちゃんと書きたいのでまた別途。

黒の魅力の再確認

さて、熱っぽい話になってしまいましたが、そもそも黒は生活の周りにとても多く使われていて、ファッション、工業デザインでも黒は一般的です。

またmuracoを「金属加工の自社工場を持つアウトドアブランド」として捉えたときに、機械、金属、工場などを連想させる工業的な色として、非常に親和性があり、素直にmuracoらしい色だと感じます。

機能としての黒
実はテントファブリックとしての機能面からも、期待通りの効果がありました。黒は、薄い色に比べて影がしっかりと濃く出ます。日傘と一緒です。

真夏の日中はそもそもどんな色でもテントの中は暑くて過ごせません。
真夏以外でも厳しい日差しの時には薄い色のテントの中は暑くて過ごせません。
逆に真夏以外で厳しい日差しを遮るには黒はしっかりと日差しを遮り、テント内はむしろ快適です。朝方、外はまだ涼しいのに、テント内の暑さと明るさで目が覚めた経験があるのではないでしょうか?結構この部分は緩和されます。

さらにキャンプにおいて、2ルームテント以外は日中テントに篭って過ごすことはあまり無く、テント内で過ごす時間は基本的には就寝前後の時間が中心になるでしょう。そうなるとむしろテントファブリックにおいて黒の優位性は高く、機能的にも優れていると言えます。さらにテントのフォルムをシンプルに表現でき、且つ生地の素材感なども美しく見えるのが黒の特徴でもあるでしょう。

金属系プロダクトと黒

我々のプロダクトは使用シーンに即した素材選びを行っています。アウトドア用品はその言葉の通り屋外での使用が大前提となる為、金属であれば錆びにくい非鉄金属であるステンレスや、軽いアルミ合金を主な材料として使用し、木や鉄は腐食、サビによる性能低下の懸念から、ほとんど使用しません。

アルミ合金は加工後も素地のままですと、紫外線などで劣化していくので、アルマイト処理を行います。アルマイトは様々な色に着色も可能ですが、コスト、色の均一化などの観点からmuracoでは黒色アルマイト加工をしています。

それだけでなく、素材に元々ついている傷を消す為、また使用時の手垢が目立ちにくくする為、科学研磨を施して表面を均一に荒らします。科学研磨はその名の通り、アルミ合金の表層を極々薄く研磨するような表面処理法で、大きな傷は消え、小さな無数の孔(コウ:小さなくぼみ)が均一に現れます。その後、黒色アルマイトをかけるとその孔に光が乱反射し、光沢感のある黒に見えます。また同時に手垢も目立ちにくくなります。

muracoの黒

黒いテントの開発以降は、僕らが開発する商品は黒やモノトーンを基調とした物が中心になっていきました。しかしそれはその色そのものに、機能が伴う製品であるべきと考えています。

商品開発だけではなく、ブランディングも含めて、黒を中心とした色的な制約はかなり大きく存在します。他社も黒のテントのリリースや、黒っぽいブランディングをしているところもありますが、アウトドア業界の黒のイノベーターとして、ここをmuracoの強みにできるようにしたいと考えています。


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