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「ほんとうの、優しさって何なんだろう?」
 僕は、光に、問いかける。
「きっと、その人のことを、自分の一部みたいに思うことじゃないかな。だから、失ったあとは、体が引き裂かれたみたいに、痛い。くっぽりと、空いてしまった空洞を、埋めようと、救いを求め、祈る。
 思えば、私たちは、大切な誰かを、なくした人だらけだ。悲しみを背負った人は、強い。なりふり構わず涙を流した後に、残る水色の宝石を拾い上げて、じっと、見つめる。そのとき、初めて、自分が自分になる。失うことで、完成する自我は、揺るぎない風になる。だって、もう、失ってはいけないものを、知っているから。」
「でも、再び、失うときが、やがて来る。そして、自分自身も、無になる。命って、不思議だ。僕が、こうして、光と居ることが、奇跡だと、思える。
 そうだ、君に会わせたい人が、いるんだけど。つぼみっていう、女の子。僕の大切な人。未来に立ち向かう勇気を、持っている人。」
 戦って、守らなければならないことがある。深海にいる人魚が、絶えず、歌声を絶やさないように。雲の陰に隠れている、竜の鱗が、剥がれないように。譲れない緋色の魂が、永遠に続くように。
 社会は、あなたは、何者であるかと、常に、問いかけてくる。だから、僕は、逃げてきた。あやふやな希望と絶望が交差する心の奥底を、隠すみたいに。疎かにしたくない独自の方法論が、暴かれたくないみたいに。
 自殺した、もう1人の僕のことを、思いはばかってみる。どんな、声をかけることができるんだろう。たどり着いた場所が、心地の良いところだと、嬉しい。せめて、ゆっくり眠れるような、安息の地に、降り立ったこと、願いながら、眠りにつく。その晩、僕は、事故で亡くした両親の夢を見た。彼らは、こう言っていた。
「あなたは、生きるべきよ。」
 その言葉が、風鈴をゆらすみたいに、優しく、響く。そこにいる、誰でもない、たった一人の僕に、届け。忘れることのない導として。

                完結

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