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 この世をさった人間と、常に、繋がっている気がした。どんなに、辛いことがあっても、死んだ両親が、見守ってくれている。そう思うことで、僕は、くそみたいな社会を、生き抜いていく。そう、決めたのだ。
「いったん、現在に、戻りましょう。目をつむって。ここでは、一瞬の気の緩みで、とてつもなく誤差が生じ、とんだ時の端くれへと、弾き飛ばされてしまいます。そうなったら、おしまい。2度と、元の世界には、戻れません。」
 瞼を閉じると、体が軽くなったみたいに、ふわふわとした感覚が、みなぎる。無意識に、水の中を泳ぐように、ただ、流れに、身をゆだねる。数分間、その状態が続き、あたりに、まばゆい光が差し込む。目を開けると、元いた、路地裏のビルの一室に、立ちすくんでいた。
「また、拙者が現れたとき、時のなかを彷徨うことになります。それまで、体調をしっかり、整えていてください。よく食べ、よく眠り、よく遊び。生活のリズムをきざむことで、歪みからの影響を、抑えることが、できます。それでは、また。」
 そう言うと、ミケは、そそくさと、街中の雑踏へと、姿を消した。
 しっかりと疲労が、溜まっていた。一息つくために、僕とつぼみは、レトロな雰囲気が漂う、喫茶店に、入った。入り口には、大きな観葉植物が、置いてあり、店内には、あまり馴染みのないジャズ・ミュージックが、流れていた。
「私は、ただの付き添いなのね。でも、それでも、いいわ。あなたにとって、本当に意味深い旅に、同行する。もっと、あなたを、知ることができる。観念的にも、実務的にも。」
「このまま、南へ、くだろう。そこに、なにがあるかは、分からないけど。目的なんて、ないんだし。」
 最寄りの駅から、南下していく。東京の、人で溢れる、ごった返した街に、少しの間の、お別れをして。

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