青本に学ぶカスタマーサクセスの基本

私は開発チームと一緒に仕事をすることが多いのですが、ユーザーに寄り添ったモノづくりをしたいと常々思っています。ただ、今でもユーザーテストをしながらUIを作り込んだりはするのですが、もっと根本的にユーザーが得られる価値に向き合いたいと言いますか、漠然と改善の余地を感じています。そこで、カスタマーサクセスについて勉強し、改善の糸口を探ってみることにしました。

青本と呼ばれるカスタマーサクセスの代表的な一冊です。本記事は私なりの本の要約と感想で書いています。内容を正確に知りたい方は本の購入をお薦めします。

カスタマーサクセスとは何か?

まずは基本の基本、カスタマーサクセスとは一体何なのか見てみましょう。カスタマーサポートと混同されることも多いみたいですね。

能動的なアクティビティ
カスタマーサクセスチームは、データ分析を用いて、どの顧客がアップセルの機会にあるか、もしくは解約のリスクにあるかなどを判断し、コミュニケーションを開始します。一方、カスタマーサポートは顧客からの問い合わせを起点にコミュニケーションを開始します。
売上のドライバー(契約更新 / アップセル)
カスタマーサクセスは契約更新やアップセルの直接的な要因となります。カスタマーサクセスチームが直接顧客の元に行って契約書にサインしてもらうことは稀ではありますが、カスタマーサクセスなくして契約更新やアップセルは実現されません。一方、カスタマーサポートはコストセンター(=直接売上を生み出さない)です。
攻めの指標
カスタマーサクセスは契約更新率、アップセル率、グロース率などを指標とします。一方、カスタマーサポートはコスト削減率などを指標とします。

端的に言えば「カスタマーサクセスチーム起点でコミュニケーションを始め、契約更新やアップセルに繋げる」ということですね。ただ、これを実現するにはタイミングが非常に重要だと思いました。顧客が困っている状態が続いていた場合、そこからコミュニケーションをしても既に満足度は下がってしまっているでしょう。一方で、コミュニケーションが早すぎれば邪魔になってしまいます。まさにデータに基づいてちょうど良いタイミングを予測してコンタクト出来るかが肝になりそうです。


カスタマーサクセスの方法

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次はカスタマーサクセスを行う手法を見ていきましょう。

ハイタッチ
カスタマーサクセス担当と顧客が1対1でコミュニケーションをするスタイル。オンボーディング、顧客への訪問、電話サポート、定例MTGなど実施します。
テックタッチ
カスタマーサクセス担当が多数の顧客に対してコミュニケーションをするスタイル。ウェビナー、動画説明、コミュニティ運営、サミット開催などを実施します。
ロウタッチ
ハイタッチとテックタッチの融合スタイル。ハイタッチの施策の頻度は内容を抑えて実施をします。例えば、オンボーディングはある程度パッケージ化してしまい、どの顧客にも共通して提供するなど。

ハイタッチの方が顧客に提供できる価値は高いですが、その分リーチできる数は少ないしコストも高いです。テックタッチは提供できる価値は低いですが、その分コストを抑えて多くの顧客にリーチできます。どのスタイルも一長一短がありますので、業種やサービス単価に応じて適切な方法を選択しないといけません。マーケットの特性に合わせてロウタッチのプログラムを作り込んでいくのが王道なのかなと思います。


カスタマーサクセス10の原則

この本の真骨頂はこの10の原則でしょう。複数の著者がそれぞれの実体験を基にカスタマーサクセスで守るべきポイントをまとめてくれていて、チェックリストのように活用することが可能です。

1. 正しい顧客に販売しよう
・組織全体で正しい顧客に販売することにフォーカスする
・正しい顧客像を定義して、組織全体で判断軸を持っておく
・間違った顧客への販売は先々の機会損失に繋がる
2. 顧客とベンダーは何もしなければ離れる
・解約の兆候をキャッチする仕組みを持ち、対策を取る
└サインアップ後の利用率の低下、顧客との音信不通、新機能/機能改善/値引きの要望、問い合わせ数の増加、など
3. 顧客が期待しているのは大成功だ
・顧客が成功を測っている指標を理解する
・その指標に基づいた時に、顧客が成功しているのか理解する
・顧客の成功に対して、自分達がどんな体験を提供しているのか理解する
4. 絶えずカスタマーヘルスを把握・管理する
・顧客の特性からカスタマーヘルスを測る手法を考え、定期観察する
5. ロイヤルティの構築に、個人間の関係はいらない
・一対一のコミュニケーションなしで関係性を構築する方法を確立する
※ハイタッチは除く
6. 本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ
・リテンション、顧客満足、スケール、その全ての鍵は製品
・顧客のフィードバックを活かし、製品を洗練させていく
7. タイムトゥバリューの向上にとことん取り組もう
・契約更新までにビジネス価値が出なければ解約になる
・オンボーディングの期間が短いほど更新率が高まる傾向がある
8. 顧客の指標を深く理解する
・サブスクリプション型ビジネスの指標(Churn、CMRR等)を理解する
9. ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める
・顧客とユーザーの行動の指標
└NPS、ログイン数、特定の機能の利用状況など
・カスタマーサクセスの行動の指標
└顧客とのやりとりの頻度、サポートチケットの数など
・事業の成果の指標
└リテンション、収益増加率、顧客満足度など
10.トップダウンかつ全社レベルで取り組む
・カスタマーサクセスは単なる組織の「部」ではなく、組織に浸透すべきマインドである
・プロダクト、セールス、マーケティングと、組織横断的にカスタマーサクセスに取り組む

10の原則を読むと、あらためて当たり前のことを当たり前にやることの難しさを感じます。文章にするとサブスクリプション型ビジネスのことを学び、顧客のことを学び、顧客のことをモニタリングし、定量的な分析をもって改善の仕組み化をし顧客の成功を支援していくということなのですが、これがなかなか簡単ではありません。
開発チームの視点では、顧客の成功の指標に対して適切な体験を提供できているかを定量的に評価すること、顧客のフィードバックをもとにプロダクトを磨いていくこと、テックタッチの仕組みを構築すること、辺りがまずは重要なアクティビティになるのではないかと思いました。

終わり

カスタマーサクセスは、比較的新しい概念ではありますが、すでに多くの書籍が存在しています。SaaSビジネスをしている企業は皆カスタマーサクセスに注力していますが、その中での差別化のポイントは業界特性に合わせてカスタマーサクセスのオペレーションを洗練化させていくところにあると思いました。次は自分が関わっている教育業界にカスタマーサクセスの定石を当てはめたらどうなるかというのを掘り下げていきたいと思います。

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