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NONA REEVES「QUICKLY」(1997年)ライナーノーツ

※この記事は2014年にリリースされたNONA REEVES「QUICKLY」再発盤CDのライナーノーツを再掲したものです。アルバムのオリジナル音源は各ストリーミングサービスで聴くことができます。

「QUICKLY」は1997年8月25日にUNDER FLOWER / GIANT ROBOT RECORDSからリリースされた、NONA REEVESのインディーズ2ndアルバム。

1stアルバム「SIDECAR」の高評価を受けて、バンドはすぐに2ndアルバムの制作に突入。前作から約8カ月という短いスパンでリリースされたのがこの「QUICKLY」だ。本作は発売直後から前作を上回る話題を集め、NONA REEVESの名前をさらに多くの音楽ファンに知らしめることとなった。

しかし勢いあふれるバンドの状況とは裏腹に、このアルバムを包み込むのはどこか寂しげなムードだ。「MOTORMAN」や「Mr.HOY TRIBUTE」といった明るいナンバーがアルバムを彩る一方で、いくつかの楽曲からは不穏な空気を感じ取ることができる。この奇妙な作風はいったいどういうことなのか。

西寺郷太(Vo)は「必ずしもそれだけが理由ではないと思うけれど」と前置きしつつ「レコーディング中にメンバーを5人から、今の3人体制にシフトする決心が固まってたからかもしれない」と当時の状況を振り返る。この時期のNONA REEVESは西寺郷太、小松シゲル(Dr)、奥田健介(G, Key)、師岡忍(G)、小山晃一(B)の5人体制で活動していたが、バンドの活動規模が拡大してゆく中で郷太はメンバー間の目指す理想とテンションの違いを感じ始めたという。「自分たちがプロとして10年、20年やっていくことを考えたとき、今の3人じゃないと無理だと思ったんです。辞めた2人は本当に天才的なミュージシャンだった。でもやはりインディーズ期のノーナは学生時代終盤の混乱した空気と、当時の『下北ギターポップ』ブームの中で、なんとなく形成されていった『運』だよりの部分もあった。目指している音楽を実現するためには、俺と奥田と小松との3人でやらなきゃならないと思った」(郷太)。

そうしたバンドのムードを反映してか、このアルバムでは奥田が作曲およびアレンジ面において前作以上の活躍を見せている。「郷太と一緒にリハスタに入って曲を共作するようになったんです。俺は今みたいにメロディを書けるタイプじゃなかったし、郷太もコードに関してはわからないことが多くて、お互いの足りないところを補い合って曲を作っていくのが楽しかった。俺と郷太の音楽性や得意な分野がまったく違ってたんでこれはやる意味があるなって」(奥田)。

本作のレコーディングは都内の複数のスタジオを使って行われ、彼らはサウンド面でもさまざまな実験を導入。奥田は「この時期はいわゆるゴージャスな音が嫌いで、ギターのカッティングもラインで録っていました。太い音を避けてちょっと情けない音を選ぶクセがあって」とアルバムのサウンドについて解説する。また歌詞の面でも「MOTORMAN」や「MELLOWPAM」で初の日本語詞に挑戦するなど、バンドがさらなる好奇心と向上心のもと、高いモチベーションで制作に取り組んでいたことが伺える。

小松は「どインディーだった自分たちが音楽を通してたくさんの人と出会って、メジャーレーベルからも声がかかったりして、この頃は本当に激動の時期だった」と当時の状況について語る。そして本作のリリース後、NONA REEVESはワーナーミュージック・ジャパンと契約し、メジャーフィールドを舞台にさらなる飛躍を果たすこととなる。

なお本作はCRYSTAL CITYから2004年8月にもリイシューが行われている。

(大山卓也)
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※西寺郷太の自伝的小説「'90s ナインティーズ」文藝春秋digitalにて連載中
※「西寺郷太のPOP FOCUS」音楽ナタリーにて連載中

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