企業研究者が望む分野で博士を取れるか

研究好きな修士の学生が就活するか博士課程に進学するか迷うのはよく聞く話である。自分も迷ったが、結果として博士課程に進学し、その後就職した。

今振り返ると、決断時にいかに情報が不足していたかを強く感じる。よく就活で、修士卒で入っても会社で博士取れるよ〜、みたいなことを言っている社会人がいた。なんとなく取れる制度があるのだろうと認識していたが、実情はかなり違っているのだ。

企業研究者として望む分野で望む時期に博士をとるのはけっこう難しい

修士卒で就職する場合、大別して、研究職としての枠で採用される場合と総合職一括採用の場合の2パターンある。業界にもよるが、総合職一括採用の場合、研究職になれるかどうかも辞令がでるまで分からない。仮に研究職としてのポジションを得たとして、博士を取れるかどうかは自分の希望だけでは決められない。社会人博士と論文博士でかなり状況が異なるので、それぞれの場合を説明する。

社会人博士の中にも2パターンあり、①平日は仕事に取り組み土日だけ大学で研究する、②留学(国内、国外問わず)という体で職務として平日大学で研究する、というものである。①の場合、生活的にはかなりキツいのは言わずもがなである。特に実験系で量が求められる分野は3年で卒業することも困難となる。職場と大学の位置関係や家庭生活などケアすべき問題も多く、自由にやりたいことをやりたい場所で研究するのも難しいのが現実だ。

留学として大学に行き、博士を取るという選択肢もある。しかし、企業側は賃金を払う以上、現在力を入れている分野であることや、業務に直接役立つ研究内容であることなど、内容としてはかなり限定される。さらに、研究テーマの再編や整理等といった企業側の事情で中断する場合もあるため、あまり当てにできない仕組みである。

論文博士はまた事情が異なる。これは分野によって大きく異なる可能性があるので、自分の専門である創薬の探索研究での場合を紹介する。企業の研究ではアカデミアとは異なり、特許として発表するまではそう簡単にデータを外には出せないものである。しかし、博士を取る場合、論文として内容を公知としなければならない。その場合に、どのようにして企業の研究で論文発表するかというと、"もう公知にしてもいい研究"を使うのである。特許化したものや、様々な理由で終わったテーマを使って論文を書くのだ。博士を取りたい人が多い職場の場合、誰が論文化するかといった問題にもなるので、"結果の取り合い"のような状況が生まれることもある。ただ、博士という箔を付けることだけが目標の場合には、大学に通う必要もなく、コスパはいいという見方もある。(それが本質的に正しいか別として…)

一般的な課程博士は、内容も分野も自由に選択できるため、自分の方向性を決めやすい。そういう意味では、研究者としての人生において、自分の希望だけで方針を決められる最後のチャンスなのである。

課程博士における基本的な問題は収入である。基本的に収入はなく、DC1/2(約月20万)を取れるかどうかで懐事情はかなり変わる。取れたとしても学費や生活費を考えると、貯金などほとんどできないことは容易に分かるだろう。修士卒の友人たちが順当にお金を稼ぎ、大きい買い物をしたり家庭を作ったりしている話を聞くと、まともに資産形成できていない自分の将来に不安を持つ人も少なくはないだろう。そういう意味で、ある種の覚悟が必要なのかもしれない。

いろいろ書き殴ったが、結局自分で決めたいなら博士課程行きましょうねって話です。何でも興味を持ってその都度与えられた方向性でも楽しめる人は、修士で入っても楽しい研究者人生になると思います。お金は何とかしましょう。奨学金はなるべく借りずに。あると使っちゃうので笑 卒業時に数百万の借金かかえるのはほんと辛いですからね…

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