魔法少女だという親友の話を流してたらめちゃくちゃになった話 - 1


「あたし、実は魔法少女だったの!」
 そう、私のベットの上でもちもちのクッションを抱きしめながらくつろいでいる親友、りんが言った。
「え?」
 こちらもベッドに腰かけて漫画を読んでいたので、突拍子もない告白を聞き返してしまった。
「だから!あたし魔法少女なの!」
 もう一度主張される。何を言っているのだろうか?りんは疲れているのかと思い今日の出来事を振り返るが、特に何でもないただの一日だとしか思い出せない。レアリティをつけるなら☆1、ノーマルだろうか。何か親友をおかしくさせる出来事なんてこんな日には……ああ、そういえば一つだけりんが大声を出していた時間があったような気がする。
「もしかしてテストの点が悪かったからって現実逃避しようとしてる?あれとんでもなかったもんね」
「それはそうだけど違う!適当に流さないでよ~!」
「何、本気で言ってたの?私達高校生になってまだ魔法少女ごっこするつもりだったの?」
「ごっこじゃなくてほんとの魔法少女だって!知っててほしかったの」
 私は全然ノリ気ではないがりんはもう魔法少女ごっこを始めてるつもりらしい。勝手に始められても困りすぎる。そもそもりんがやりたいのはどういうお話なんだろうか。魔法少女だと告白するシーン……?
「あ、あ~……そうかわかった、これから最終決戦的なのに行くやつ?もう会えないからお別れを言いに来たってとこかな」
 昔見ていたアニメでそんなシーンがあった気がする。これからどうなるかわからないから親しい人を集めて、魔法少女だと告白をして、旅立つやつ。その後大体ハッピーエンドになるが、なぜわざわざそのシーンをりんはやりたがっているのだろうか?
「そんな物騒なこともうしてないよ~!痛いことして解決するのはお互いイヤってなったから戦いなんて今はしてないよ!」
 りんの世界の魔法少女はどうやら話し合いで世界が収まる素晴らしい世界のようだ。なんだそれ。そんなバトルものみたいなことしようとしていていい子ちゃんテレビの教育番組か?
「戦いがないならりんが魔法少女になる必要なくない?何のための魔法少女?」
「えっと……戦いはなくなったけどいつ裏切って悪さしてくるかわかんないから魔法少女がいる必要はあるみたいで」
「ふーん」
 まあ納得はいくか。牽制するための魔法少女。役割としては要りそうなやつだ。……いや、りんは一体何ごっこをしたいんだろう?だんだんどうでもよくなってくる。
「りんの魔法少女妄想はよーくわかった、それじゃあお菓子でも食べよっかな~」
「あっ、ねえ!信じてって!流さないで!あとお菓子はあやかがあたしの分も全部食べちゃってもう全部ない!」
「そうだった、全部食べちゃって悪いしお開きにしよっか」
「魔法少女って信じてもらうまで帰らない!」
 ……本当に今日はどうしたのだろうか?いくらなんでも引き下がりが悪い。
「そもそも私がりんのこと魔法少女だって知って何になるの」
「それは、あやかに隠し事をしたくなかっただけで……ずっと一緒に生きていくのに教えてあげないなんてなんかダメかなって」
「うわ……」
 なんだそれ、ごっこ遊びの途中に突然ドキッとすること混ぜないで欲しい。言葉にすると意識してしまったり、頭の中がそればっかりになることだってある。いままでずっとりんと一緒に過ごしてきて、これからも変わらず隣にいるんだろうけどやっぱり言葉にすると恥ずかしい。
「あやか、顔まっか」
 やっぱりか。
「うるさいなあ!恥ずかしいものは恥ずかしいの!」
「で、これが魔法?私を恥ずかしがらせてあやかがリンゴになりました~ってこと?」
「うーんこれはちょっと考えてなかったかも」
 どうやらただただ自分が恥ずかしがって自爆しただけのようだ。うわうわ、顔合わせられない!
「ごめん、ごめんね?お菓子出してあげるから許して?」
 クッションに顔をうずめながら返事をする。
「私が食べたので今あるお菓子は全部なんだよね」
「だからあたしが出してあげるの!あやか見ててね、ミラキラステッキ!」
「は?」
 りんが手を空に向け、そう唱えるとどこからとこもなく仄かに全体が光るステッキ?が現れた。それはりんの手にタイミングよく捕まえられ、まるでいつもしているかのように決めポーズを取り出した。
 一体どこからそれは出てきたのだろうか?あんなにキラキラ光っているもの、隠し持っていても絶対に見えるはず。
 私がコメントを何も出せずにいるがりんは気にせず私に問いかける。
「お菓子、ドーナツ……そうだなあ、チュロスとか食べたくない?」
「え、あ、うん、食べたいね、チュロス」
「わかった!ミラクルキラリクル!お星さまお願い、いちごチョコのチュロスが食べたい!」
 机に向かって振りかざしたステッキに動いた軌跡が空中にきらきら光って残っている。ステッキをかざした先には、やたら眩しく光る謎の光球が現れ、金平糖をばら撒きながらシャボン玉みたいに割れた。その中には……
「はい、チュロスでたよ!いちごチョコがけ、あとハート型!」
「??」
 な、なに?これ、新種のプロジェクションマッピングみたいな?それにしてはあまりにも立体的すぎるし、机の上にりんが出したと思われるチュロスはどうみても本物だ。
「……わかんない、え、どういうこと?なにこれ?」
「魔法でチュロス出したよ!一緒に食べよ!」
 魔法でチュロスとは?手品の一種ではなく、魔法?私の現実の辞書に本物の魔法なんてのはない。
「あ、でも一緒に食べるんだったらハート半分こすることになっちゃうね!?ハート半分やだ!食べれないよ~!」
「これ、本物?食べられるの?食べていいの?」
 錬金術とはそういうものではない、どうみても何もないところから現れた。いや、金平糖はたくさんばら撒かれたからそれを変化させた?どっちにしろ超常現象であることは間違いない。ああ、金平糖、片づけなきゃ。はは、りんは細かいことが苦手だなあ。
「食べれるけど……? もしかしてチュロス嫌いだった?」
「チュロスはきらいじゃないけど……」
「よかった~!食べよ食べよ!まあ、仕方ないし半分に割っちゃおっか、はい半分あーん!」
「んム」
 得体の知れないチュロス型のそれはいちごの味がした。そしてかみ応えのあるギザギザの生地もまるでチュロスのようで。つまり、それは甘いチュロスで間違いなく、拒絶することなく喉を通ってしまった。
「えへぇ、おいしいねえ、あまあまだねぇ」
「??夢?これ現実?」
「おいしい?あやかそんなチュロス好きだった?」
 あ、あはは、そうだよ、夢なんだよこれ、私気づけちゃったな、明晰夢かな、ほら、手のひらに指を突き刺せば、……通り抜けない。残ってるチュロスを机に残してよろめきながら立つ。ほら、タンス開けて、鏡を見たら私が、……映ってる、けど、けど、え?
「あやか~?どうしたの、大丈夫?」
 ここは何?夢ではなく、私の知っている現実ではない。私は別の世界にワープしてしまった?あっどうしよう勝手に涙が出てくる。
「帰りたい、帰りたいよう……りん、本物のりんどこぉ」
「あたしはここにいるよ?」
 りんかもしれない目の前の人が手を握ってくる。不安そうな顔をしている……。不安?不安なのは私の方だ。突然世界から突き放され、知らない人に弄ばれている。
「私のりんは魔法なんてつかわない!!!!」
「ひゃ!」
 やたら暖かかった手を突き放して前に押す。知らない人はしりもちをついてしまって痛みで顔をすこし歪めた。ははは、ざまあみろ、私で遊ぶからこうなるんだ。
「あやか押さないでよ、チュロスまだあるしたくさん出してあげれるよ?」
 どうやらさっきの攻撃は効かなかったようだ。こいつはこんなにしても私を安心させようとしてくる。懐柔させて遊ぼうとしているんだろう。その手には乗らない!
「いらない!もう帰る!ほんとのりんの所にいく!偽物のいるところなんてもう嫌!わかんない、わかんないってば!」
「ん~……」
「そっかぁ、じゃあ冷たいソフトクリームとか食べよ?」
「食べないってば!そういってんじゃん!」
 偽物はまだ私を弄んで遊ぼうとしているらしい。さっきはお菓子を食べてしまったが次はそうはいかない。あれは異世界の食べ物だから私が食べてはいけないんだ。食べたらどんどん狂ってしまって戻れなくなってしまう!そしてゴミになって価値のなくなった私をお菓子に変えて食ってしまうんだ!そうに違いない。「"あやかはソフトクリーム食べたい"よね?何味食べたい?」
「うるさい!いらなソーダ味のが食べたい……」
 こんな暑い日にはソフトクリームが食べたいな。今日は暑い日だったか?わからないけど体がすごく暑いので冷たいものを食べたい。そうだ、ソフトクリームを食べたいな。あ、ソフトクリームを食べたい。
「わかった、ミラクルキラリクル、お星さまお願い、ソーダ味のソフトクリームが食べたい!」
 偽物はどうやらソフトクリームを出してくれるようだ。私をゴミにしようとしてるくせによく気が利くと思う。ああソフトクリーム食べたい!
 きらきら光るステッキ、動いた跡から金平糖がはじける、偽の偽のりんの手の中にひかりがあって、それもはじけると中にお菓子が現れる。
「はい、ひんやりソーダソフトクリーム!」
「なにこれ」
「ソフトクリーム食べたいんじゃないの?」
 違う、私はソフトクリームなんか食べたくない、でも食べたくて、りんからソフトクリームを受け取ってしまう。確かに言われた通り、ひんやりしている感じがつかんだ手の上の方からわかる。
 目の前にすると我慢ができなくなる。食べたい!早くあの甘酸っぱさを感じたい。こいつの出すお菓子なんて何一つ要らなかったはずなのに。どうしてもその食べたい感情ばっかり出てきてしまう。どうしてだろう。食べたくてしかたない。だが恐怖が拭いきれず、またさっきの初めて見た時の意味不明が出てくる。
「食べたい、けどこれ知らない、だってソフトクリームじゃない!おいしそう。だっていきなり出てきて、わかんなくて、早く食べたくて、ぜったい、テントウムシと宇宙人をまぜたスライムで、ああああ」
「あやか~?ねえ、"あやかは落ち着いている"、ね?」
「あぐっ!?あ、うん、何?」
 突然湧き出ていた不安が消えうせる。上がっていた気分が地面に急降下した。突然すぎて興奮していた時の息遣いが残っているが、なぜだか頭はとてもすっきりしている。
「ソフトクリーム食べよ?はい、あーん」
「んぐ」
「あ、冷たい、甘酸っぱくておいしいね」
「よかった~りんの魔法すごいでしょ?信じてくれた?」
 今食べたソフトクリームは私の記憶のものを完全に一致をしていた。どうやら今日見せられていた摩訶不思議な出来事ももう信じるしかない。なぜなら私は落ち着いているから!
「私の感情をどうでもよくしてくれてありがとう、なんだかすごくすっきりしていて、それがりんのおかげなのはよくわかったし、おいしいお菓子もりんが出してくれたから、信じてもいいかなって」
「やったあ!あやかが受け入れてくれなかったら、あたしあやかのこと捻じ曲げちゃうところだったよ」
「ん?」
「ちゃんと全部見てくれないと嫌だもん!あやかもそうでしょ?ずっと一緒に生きるんだからお互いのことちゃんと知ってなきゃダメだもんね!」
「あ、でも。怖がられちゃうのはよくないなあ……」
「りん?ちょっと待って?」
 どうしてりんは私に向かってステッキを振りかざそうとしている?私はこんなに落ち着いているのに、りんは私をまだ弄ぼうをしている?やだ、私は今のままでいたい。
 さっきまでころころと思っていたことが変わっていたのを思い出す。ソフトクリームがどうしても食べたくなったり、ただただ透明になって落ち着いたり、また勝手に思っていることを変えられてしまうのだろうか?怖い、もしかしたら今の自分はここで消えてしまうかもしれない。やだ、りんとずっと一緒に居たい!お菓子になりたくない!やめて、こわいこわいこわい
「あやかは"今日怖かったことを忘れるよ"ね?」
「ひっ!?あ、あたまっ、何か抜けてく、うあ、ああああああああ」

  ◇ ◇ ◇

魔法少女ぷろふぃーる

なまえ:りん
かた:非戦闘型
とくいまほう:変化魔法、感情操作

停戦状態を維持するために新たに選ばれた魔法使い。
あくまで再び戦いが始まらないように見張っておくストッパーの役割のため戦闘能力は持たせていない。
普段持ち歩いている金平糖を様々なお菓子に変える変化魔法を楽しんでいる様子。お菓子を生み出すことが得意なように見受けられ、平和な魔法少女に思える。
ただし当魔法少女の感情操作が非常に危険。
発する言葉で魔法が発動され、その言葉通りに感情が縛られてしまう。
感情を縛ることにより、思考や行動を操ることもできてしまうようだ。
効果が適用される範囲や持続時間はわかっていない。
クラスIV警戒魔法少女。

かわいそうな人ぷろふぃーる

なまえ:あやか
かた:ただのひと

察するに、りんの親友だと思われる。
一緒に過ごしている時間が長いらしく、お互い離れたくないと思っているようだ。
りんが魔法少女だということはつい最近教えてもらった様子。
魔法によりおもちゃにされているかわいそうな人物として研究機関は認識中。
りんに直接殺傷能力はないが、日常生活が困難になるほど精神が破壊されないか気がかりだ。
保護対象検討中。

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