めりこゆれこら

駄目
内容はめっこちゃんに愛されてしまっている子のお話になる予定。

~〜本文〜~
 静寂を破る。そんなに難しいことではない。適当にアクションでも起こせばいい。大声で叫んだり、誰かにちょっかいかけてみたり、手を払ってみたり。でも平穏に生きたい私、るりは静かな世界を壊したくないのだ。もちろん変化も嫌い。今いるところが平和で幸せならもうそれでいい。お願いだから変わらないでほしい、私の世界。

 でも、残念ながらこの学校の朝のホームルームが始まる前の、授業も何もない私のハッピーランドは壊されてしまうのだ。ああ……どうしてそんなことをしてしまうの? まだホームルームが始まるまで30分もあるのに、この教室に来てしまっている超少数派の真面目ちゃん組も気まずそうな顔をして、みんな本とかスマホとかを見て私はここの世界にいませんいう意思表明をしている。私は? 私は……この空間にいない仲間として顔でも落としておこうかな。
 教室のスライドドアが乱雑な音を出した。無生物を乱暴に扱うあの人は……
 くすくすとした笑い声をいつも鳴らしていて、他の人と違うやたら目を惹かせられる金色の染められているけどきれいな髪、過剰に誘っているような着崩された制服、遠くにいても視線に気付いてしまうほど鋭い目……そんな不良のような彼女、柊木さんが、人を見下すような目で近づいてくる。私の方を……通り過ぎて。どうやら標的はまだ私ではなかったらしい。でも笑い声は鳴り止まなず、別の人へ向かう。静粛が破られてしまう? 怖い、時間の進みが遅く感じられてきて、不安がたまって、目の焦点が定まらなくなり、平衡感覚もなくなってきた。あの人は、私ではない他の人の前で止まっているようだ。いつもの人だ。それはつまり……

 ガタン!と大きな音が響く。
 「おはよー笹嶺サン、あはっ」
 机が蹴り飛ばされて倒れた。まだ使用者が来ていない後ろの机もろとも、今日は激しく蹴り飛ばしたみたいだ。いつもの標的、笹嶺さんの机も、もちろん横に倒れて、中身は衝撃で周りに散らばってしまった。笹嶺さん自身も衝撃を受けて、椅子か机にぶつかってしまい、足を抑えて痛がって顔を伏せている。でも彼女は何も言ったりしなかった。もう、これが起こるのは何回目なのか分からない。彼女は朝の静粛破りをずっと続けている。やめてくれないと悟ってしまったのか、諦めて受け入れてしまったのか……それでも今回は流石に痛かったのか、少し抵抗したかったのか、笹嶺さんは、伏せていた顔を上げ、柊さんを睨みつけた。
 「なんだよ、その目……黙って受けてりゃいいのによ!」

 柊さんは笑うのをやめて突然怒り出し、周りに散らばっていた笹嶺さんの教科書を投げ始めた。
 「痛っ……やだ、ごめんなさい、ごめんなさい!」
 笹嶺さんが睨んでた顔が泣き顔に変わり、許しをもらい始めた。でも、柊さんはそんなの無視して教科書を投げ続けている。自分よりも下にいる人を持てあそぶのが楽しいらしく、また柊さんは笑い始めた。
 ……よくない。元通りになれるなら私は別に良い。でも、攻撃して、痕が残ったりしたら……柊さんはどうなる? 良くて停学、悪くて退学、それよりもっと……? いやだ、柊さんにいなくなって欲しくない。じゃあ私が止めに? ここにいる人達は誰も見ていないフリをしていて、関わろうとしていない。巻き込まれるのは御免なのだろう。それなら私が……、私が、止めに行って、なんとかしないといけない?
 私はそんなに友達もいないし、話すのも得意じゃない。それでも、こんなのはよくない。体全部が震えてるみたいだ。なんだかもう何が怖いのかわかんなくなるくらいぐちゃぐちゃで、感情の処理ができなくなってきた。どうしようもなくなった感情が涙として目から流れ出ていく。それでも、いかないといけないから……

 「ひ、ひいらぎさん! だ、だめだよ、だめなの、あ、こ、壊したら……」
 あぁ……、震える声しか出なかった。何を伝えたのかもよく分からなかった。ただただ顔を突っ込んだだけになっちゃった。柊さんも、笹嶺さんも、固まってこっちを見ている。駄目だなあと勝手に自己嫌悪に浸っていたら、柊さんがこっちに使づいてきて……
 「ねえ、るりちゃんさぁ……ちゅ」
 「んぅ!? ん、う、ちゅ、ふぁ……!?」
 私は……何をされているのだろうか? 柊さんを止めに行ったらキスをされた? なぜ? ……嫌悪感は無い。抵抗もしたくない、受け入れたい。
 腰に手を回され、頭を抱かれ、口の中をかき回され……どうしようもなく幸せと快楽を感じてしまっている。

 「るりちゃんはさぁ、黙ってあたしに愛されてればいんだよ……何もしないで、座ってみてるだけでいいから」
 私を抱くだけ抱いて、愛すだけ愛して、最後に柊さんはるりちゃんのことはちゃんと好きだよ、と言って教室から出てどこか行ってしまった。すっかり力が抜けて、ふと横を見たら笹嶺さんが「なんなの……あんたら……」と睨んできていたけど、今の私にはどんな言葉も通り過ぎるくらい蕩けさせられてしまっていて。次に意識が戻ったのはチャイムが鳴った時で、自分の席にいた。おそらく無意識だったのだろうと思う。少し周りを見たら笹嶺さんの机とかは戻っていたし、柊さんも……戻っていなかったか、残念。
 一旦日常に戻ってまた力が抜けて、どうせまたつまらない授業が始まるのだろうと思い、私はまた眠ることにした。

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