花便りは遺書 - SS


個人的な解釈の多いSS群です 本物の物語ではないのかも 注意

摘芽の痛み

ごきげんよう。
最近は「あたし」が育ってきて、それらしく何もしない動かない時間が増えてきています。
どうやら今回は随分長い時間ぼーっとしてしまってたみたい。机の上の蝋燭の火が消えて、煙を吐いてしまってる。ゆらゆらして吸い込まれそうな火があたしは好き、好きだけど、まだ好きだけど。でも、空に連れていかれそうなこの白くてくねくね昇っていく煙も嫌いではない。なぜだか目に見えるそれはおいしそうにも感じる。なぜなのだろう。
本能に気づくのが嫌だな、と思って蝋燭のおいているテーブルから離れることにした。
椅子から立ち、動かずにいて固まった体をほぐすために少し伸びてみる。あたしから生えているそれも連動して揺れ動く。

……、何か違和感がある?
あたしの成長した部分から剥がれてきたささくれのような不快感がある。
それの出所を探ってみた。茎と枝の間に新しく芽ができているところが見つかった。
名前は忘れてしまったけど、植物に成長を妨げる邪魔な芽と本で読んだことがある。
不快に感じるということはあたしは無意識に成長したがっているということなの?
どんどん染まっていくのが本当に嫌だ。
不快に感じるところがわかるのも嫌だ。もう神経がつながってるのだろうか?植物に神経なんてあるの?

なんだかイライラしてきた。不快に感じる芽も、だんだん進行していく病も……
せめて芽は摘み取ってしまおうかな、あたしの身から離されて枯れて腐るしかない芽を見れば少しは気も晴れると思ったの。
芽をつかんでみる。なんとなくつかまれている感覚がある……?触覚からくるなんでもない感覚だろう。あたしは、植物をただ背負ってるだけ、あたしはこれと同じじゃない……
止まっていた手を動かし、不快な芽を引きちぎってみる。

「い゛っ!? あっ、あああっ!?」
痛みが走った。
あたしではないものからこんな感覚が送られてくるとは思わなくて、思わず蹲ってしまった。
呼吸が早くなる。体が震える。傍から見てもわかるくらい。
痛みが引かない。
引きちぎった芽は落としてしまい足元の暗闇に消えてしまった。
傷口から何かが流れている。赤い……これは、あたしの血?
この植物はあたしだと証拠を見せられている。
痛い、痛い、ああ、イライラする! 不快感。
また気づいてしまった。まだ、芽が残っている……

あたしは衝動を抑えられずに……

染まる開花

久しぶりに外に出た。
普段絶対に屋敷の外から出ないと決めたのになぜか出てしまっていた。
最近意識が飛ぶことがある。寄生植物との融合が進んでいるのかな、きっともう手遅れなのだろう。最近はあんなに感じていた嫌悪感がなくなってきた。この植物はあたしの一部だ、ううん、あたし自身だとはっきり思えるように変わった。
これは促進剤の効果? それとも植物によるもの? あたしが勝手に思ってしまったこと?
……難しいことを考えても頭が回らない。もやがかかるんじゃなくて、考えようとすることを拒否してるような。植物に思考なんて存在しないものね。あたしもそうなるのだろう。
そうなったら日当たりの良い綺麗なお庭に生えていたいな。此処みたいな、太陽がおいしい、ふかふかした土の上で……
いけない、外に出ていると本当におかしくなってしまいそう。早く家の中に戻って、今日はもう寝てしまいたい。

家に入ろう、家に……足を動かして、あ……どう、動かすんだっけ。
そういえば裸足だ。根っことして地面に張り付いて、体を支える……違う、そうなりたいわけじゃない。まだ抗っていたい。
だんだんわかってきた。呼吸の仕方、足の動かし方、現実からの逃げ方。
ちゃんと人間に戻れたあたしはすぐに家に逃げた。
真っ暗な玄関、手持ちのランタン。
人工物の灯りを持って、土を踏んでいた足を洗おうと洗面所へ向かう。
ああ、後で床の掃除をしないといけない。めんどくさいな……

暗い洗面所で手触りがよくてお気に入りの小さいタオルを濡らす。
鏡に隈だらけの目と伸びきっている髪の不健康そうなあたしが映る。
そして、あたしの植物に、たくさんの花がついているのが見えた……

花言葉は、「必ず来る幸福」

あたしじゃない

体が痛い。うまく動かない。反応が鈍い……
あたしの症状が進行しているのだろう。
気づけばあたしの背中の[◆◆]も大きくなっている。
既にあたしの一部と化しているそれは独りでにゆらゆらと揺れている……
いや、あたしが揺れているから[◆◆]も揺れているだけだ。
軽い眩暈で平衡感覚が崩れてしまっている。わかるのは座っている面だけ。
あとは眩暈につられてゆらゆらしている。そよ風に当たっている植物みたい。
違う、そんなゆらゆらするために座っているんじゃない。
目の前の机の上にあるカプセルのお薬とシロップのお薬……、
どちらかを飲むためにあたしは座っているんだった。
でも、手を伸ばすとさらに強い眩暈と手が痺れて動けなくなる、それの繰り返しだった。
もう今日はいいやと思って椅子から立とうとしても、息が苦しくなり行動がまたできなくなる……
もはやあたしの体はあたしのものではなくなってしまった。
お薬を飲んで抑制や促進を促すよりこのまま座ったまま時が過ぎる方が●●らしいということなんだろうか。
ああ、でも喉は乾いたな……
そう感じたらあたしの体は勝手に目の前の机を無視して椅子から立ち上がり、台所へふらふら進み始めた。
あたしのもののはずなのに思い通りに動かせない体。
感情も[◆◆]に操られているみたい。
ねえ、あたしって何?

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