大丸拓郎

NASAジェット推進研究所 (JPL) エンジニア。火星サンプルリターンや次世代ミッシ…

大丸拓郎

NASAジェット推進研究所 (JPL) エンジニア。火星サンプルリターンや次世代ミッションの研究開発に取り組んでいます。宇宙開発の現場で感じたことなどを書きます。https://takurodaimaru.com

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日本人がNASAで働くには

このnoteは日本の大学を卒業した筆者が、コネクションゼロの状態から、アメリカの大学への留学を挟まずに、NASAへの就職を果たした過程を記録したものです。これからNASAを目指す人、また夢を叶えようと努力している人の考え方のヒントになれば幸いです。 一度きりの人生をかけてこれをやる2012年の夏、NASAの1機の探査機が火星に着陸した。キュリオシティという名のその白いローバーは、胴体からまっすぐに伸びた首の先に大きな目玉がついた頭を持ち、足についた6つの頑丈な車輪で火星の荒

    • 働くことを通してどう生きるかを考える

      「NASAをやめて、自分でスタートアップを立ち上げようと思っている。」 これまで長年、研究開発にともに携わってきた同僚に先日打ち明けられた。彼とは僕がインターンだった頃から一緒にやってきた仲で、一番身近にいる兄のような存在の先輩だった。いつまでも一緒に働けると思っていたので、ショックだった。 しかし、「そのほうが自分が開発してきた技術を宇宙開発だけではなくて、電気自動車や環境問題とか他の分野にも応用できるし、スピード感も早い」という彼の考えには納得させられた。それに、自分

      • 僕が宇宙を仕事にする理由

        「自分にとって大切なこと」とは何だろうか。 僕にとっては「なぜ宇宙をやるのか?」その理由が答えだろう。 3日前、僕が初めて開発に携わった探査機「パーサヴィアランス」が火星へと降り立った。 開発は決してスムーズではなく、苦労も多かった。スケジュールに間に合うか何度もヒヤヒヤさせられた。だけど、つらいときもこの瞬間をイメージできたから頑張ってこれた。 僕が宇宙開発に携わる上で、原動力となっているのは「人類が外の世界を知ろうとあがく力の一部になりたい。それに一度きりの人生を

        • NASAの火星ローバーは人の心で走る

          このnoteではNASAで働く日本人エンジニアの筆者が、2020年に打ち上げられる火星探査機の開発現場で感じたことを言葉にしています。 人類が初めて手にする火星の土2020年、NASAは火星に向けて新たな探査機を打ち上げる。「Mars 2020 Rover」という名のそのミッションは、火星にかつて生命が存在できる環境があったのか調査し、生命の痕跡そのものを探す。7月に地球を出発し、2021年2月に火星に到着する。 いま火星では2012年に着陸し、岩石の中から初めて有機物を

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        日本人がNASAで働くには

          火星ローバーの運用効率化─サーマルエンジニアの視点から

          こんにちは。NASAジェット推進研究所(JPL)の大丸拓郎です。探査機の熱制御を専門とするサーマルエンジニアとして働いています。 僕は大学生の時に火星ローバー「キュリオシティ (MSL) 」の火星着陸に衝撃を受けて、日本の大学からNASA/JPLを目指したのですが、現在はそのMSLにそっくりで2020年に打ち上げ予定の探査機「Mars 2020 Rover (M2020) 」の開発に参加しています。今回はM2020の開発では一体どんなことがチャレンジングなのかお話したいと思

          火星ローバーの運用効率化─サーマルエンジニアの視点から

          世界で活躍するための鍵は「自分だけの武器」

          「どうやったら海外で働けますか?」 という質問をよくもらう。たしかに海外で働く人の姿はかっこよく見えるかもしれないし、日本の外に目を向けることは選択肢を広げてくれるから大切だ。しかし、海外で働くということはあくまで手段でしかなく、それをはき違えて目的にしてしまわないように注意したい。 むしろ深く考えるべきなのは、その目的のほうだ。一度きりしかない人生で自分がやりたいこと、成し遂げたいことは何なのかをじっくり考えたい。 その一方で、日本だけに縛られているのはさらにもったい

          世界で活躍するための鍵は「自分だけの武器」

          アポロとJPL、アルテミスで演じる役

          1969年7月20日。アポロ11号が月面に着陸し、ニール・アームストロングが人類で初めて月の地に降り立ちました。今年はそれからちょうど50年の記念すべき年です。ここNASA/JPLがあるパサデナでもアポロの偉業を祝うイベントが催されています。 しかしながら、JPLをご存知の方は「JPLってロボットを使った探査が専門でしょ?宇宙飛行士関係ないじゃん。アポロのとき仕事してたのかな?まさか休暇だったんじゃ…」と思われているかもしれません。 このnoteでは、普段あまり語られるこ

          アポロとJPL、アルテミスで演じる役

          SEND YOUR NAME TO MARS

          こんにちは。NASAジェット推進研究所(JPL)の大丸拓郎です。宇宙探査機を開発するエンジニアとして働いています。 先日NASAが、2020年に打ち上げられる火星探査機「Mars 2020 Rover」に一般の方々の名前を載せて火星に送る「SEND YOUR NAME TO MARS」キャンペーンを開始しました。 Mars 2020 Rover(マーズ トゥエンティ トゥエンティ ローバー)僕たちはM2020や2020などと呼んでます。 このキャンペーン、サイトから登録

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          今を作るか未来を創るか

          僕が働くNASAジェット推進研究所(JPL)には大きく分けると2種類のエンジニアがいる。現在の探査機を開発するエンジニアと将来の探査機のための技術を研究するエンジニアだ。ターゲットにしているのが現在の探査機か少し未来の探査機かという意味では、今を作るエンジニアと未来を創るエンジニアとも言えるかもしれない。 今を作る仕事現在の探査機を造る仕事では、コンセプトを設計し、図面を引き、パーツを削り出し、組み立て、試験する。設計の段階では現時点で実用段階にある技術のプールから最適なも

          今を作るか未来を創るか

          日本人がNASAで働くには〜正職員になるまで〜

          火星ローバーに魅せられてNASAジェット推進研究所 (JPL) を目指した筆者。夢が叶い職員として働けることになりました。しかしこのときは任期付き職員としての採用で、JPLで正職員のポジションを獲得するためにはさらなる試練が待ち構えていました。 ジェット推進研究所(JPL)はNASA の中でも無人宇宙探査ミッションを担当していて、太陽系のすべての惑星に探査機を送り込んだ世界唯一の研究機関です。代表的な探査機には現在も火星で探査を続けているローバーのキュリオシティや星間空間に

          日本人がNASAで働くには〜正職員になるまで〜