閑話休題 公益通報窓口担当として考えていたこと

消費者庁は公益通報者保護法の所管行政庁だけど、消費者庁が受け付ける公益通報は消費者庁の所管する法令に関するものだけ

 平成30年に消費者庁で特定任期付公務員として任用された際の私の役職は、情報公開・個人情報保護・公益通報担当課長補佐でした。
 平成31年(令和元年)になって、公文書監理官室室員、消費者庁全体の公文書管理担当も業務に加わり、公文書管理について業務を行いながら考えていたことについては、これまで記事で書いてきたとおりです。

 任用直後に、それまでの弁護士としての職務経験を発揮できたと思ったのは、国民の皆様からの消費者庁の公益通報窓口への通報・連絡の業務を遂行したときでした。
 私が在籍していた当時は、消費者庁の大代表電話番号に電話を掛けると、どこの部署への電話か確認があり、連絡する先が分かっている場合はスムーズに担当部署につないでもらえるのですが、電話交換の人に「公益通報を考えているのですが」と伝えると、電話交換の人はそれ以上のことを詳しく聞かずに、消費者庁の公益通報受付窓口に電話をつないでいました。
 そして、私が担当として話を聞くと、消費者庁に公益通報したいというのではなく、公益通報するとどうなるかが知りたいとか、公益通報先がどこだかわからないけど、公益通報と検索すると消費者庁が出てきたので電話したというようなこともけっこうありました。

 公益通報者保護法は令和2年に改正法が成立し、令和4年6月に改正法が完全施行されています。
 改正の前後を問わず、行政機関に対する公益通報というのは、通報された事実に関して適用される法令について処分等をする権限を有している行政機関に通報する場合をいい、また、改正法で通報者の範囲は広がりましたが、一定の範囲の人が通報する場合を、公益通報として扱う、ということになっています。
 公益通報者保護法については、誤解をおそれずにいえば、勤め先について通報したらその勤め先から不利益を受けるというような場合に、通報者を保護しようというのがもともとの法の趣旨なので、通報先と一定の関係にある人を保護の対象としている結果、不当表示をしている会社から物品を購入した人とか、インターネットで不当表示を見つけた人というのは、ご本人の意図としては通報なのでしょうけれど、公益通報者保護法の公益通報とはならないのです。
 消費者庁は、公益通報者保護法を所管している行政庁ではあるのですが、私が在籍していた当時の公益通報者保護法には、罰則も行政指導の規定もありませんでしたから、公益通報者保護法違反を理由とした通報がなされても、それは公益通報者保護法にいう公益通報にはならず、公益通報として受け付けるということができませんでした。

公益通報に該当するとどうなる?

 改めて説明しますと、公益通報者保護法は、通報される会社等と一定の関係にある人が、通報によって不利益を被らないように保護するための法律ですから、公益通報者保護法に定める一定の範囲にない人の「通報」は、行政機関に対する情報提供ということになります。担当しているときに多かったのは、エンドユーザーとか購入者、ウェブサイトを見た人というような公益通報者保護法に定める一定の範囲になく、また、自分の勤め先とか取引先のことを通報しようというものでなかったケースで、公益通報者保護法の通報には該当せず、情報提供として受け付けるということになってしまっていました。
 公益通報者保護法の「公益通報」となる場合には、通報した人が公益通報者保護法による保護を受けられるというのはもちろんなのですが、行政機関に対する「公益通報」であるならば、行政機関は、必要な調査を行い、公益通報に係る通報対象事実があると認めるときには、法令に基づく措置その他適当な措置をとる義務を負うことになります(公益通報者保護法13条1項)。
 そして、公益通報者保護法の行政機関向けガイドラインによれば、公益通報として受け付けたものについては、行政機関は、通報者から問い合わせがあった場合には、できる範囲で情報提供をする、ということが定められています。
 一方、公益通報でない、行政機関に対する情報提供であるという場合には、行政機関には調査を行う義務が生じませんし、また、通報者に対してその後どうなったかを説明する義務も生じない、ということになります。
 このように、公益通報となるかどうかで行政機関の対応が変わるという側面があるのです。
 また、公益通報者保護法にいう公益通報をした人として保護を受けるためには、公益通報者保護法の「公益通報」でなければならないので、同法の保護を受けるという点からしても、同法の要件を充足しているかどうかについては通報する側としても十分な注意が必要ということになります。

 公益通報の対象となる事実について,法律上行政処分や行政指導ができる旨の規定がなく,違反した場合の刑罰しか定められていないという場合,公益通報先としては警察になります。 詳しくは以下をご覧ください。

https://www.npa.go.jp/news/other/gaibu.pdf

令和4年6月改正後の行政機関への公益通報の解説

 公益通報者保護法が改正され、行政機関に対する公益通報をする場合には、以下の事項を記載した書面(メール等の電磁的方式でもOK)を提出することになりました(公益通報者保護法3条2号)。

  1. 通報する人の氏名又は名称及び住所又は居所(「及び」なので、氏名又 は名称だけ、あるいは、住所又は居所だけを記載しても、要件を充足しないので注意が必要です。)

  2. 通報対象事実の内容

  3. 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由

  4. 通報対象事実について法令に基づく措置その他の措置がとられるべきと思料する理由

 これらの内容は、従前行政手続法の36条の3の「処分等の求め」で要求されていた事項を踏まえ、公益通報者保護法改正で、行政機関に対する公益通報に一定の要件が課されることとなったものです。
 消費者庁の公開している逐条解説によれば、「法第3条第2号ロ及びハについても同様に、合理的な根拠に基づく客観的かつ具体的な記載が求められる。」、「単なる憶測や伝聞のみに基づく通報については、こうした補正の求めを受けたとしても、通報対象事実の内容を抽象的に示すにとどまったり、当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると考える合理的な根拠を示すことができなかったりするため、法第3条第2号ロ及びハに該当せず、2号通報としては保護されないこととなる。」と記載されていますから、対象となる事実が生じ又はまさに生じようとしていると思料する理由及び法令に基づく措置又はその他の措置がとられるべきと思料する理由については、合理的な根拠を示しつつ、客観的かつ具体的に記載すべきということになります。
 消費者庁の逐条解説の該当箇所は以下のウェブサイトでご確認ください。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/annotations/assets/overview_230315_0004.pdf

公益通報の際に気を付けていただいた方が良いと思うこと

 行政機関の公益通報受付窓口の役割は、各行政機関の内部分担の問題もあるものの、通報者の話す内容が所管する法令に関する事項かどうかを切り分けて、どの部署に話を持っていくかを検討することと、所管法令に関する事項でない場合、どこが通報先となるのかを検討して教示することです。
 私が公益通報窓口担当者として気を付けていたことは、通報者の問題意識がどこにあるかというところと、それは法的にはどの法律の問題なのかというところです。通報者の話の内容が所属行政機関の所管事項でないようでも、切り口を変えれば所管事項のこともあるので、事案を整理し様々な角度で考えるようにしていました。
 逆から言えば、公益通報したいという方は、消費者庁のウェブサイトで公益通報者保護法の対象法令の所管行政機関を検索していただくか、公益通報したいのだけど法令を所管する行政機関が分からないということで消費者庁の一元的相談窓口に相談していただいて、適切な通報先を探してから通報していただくと、その後がスムーズに進むと思います。
 また、公益通報したいという方の相談を担当されている方については、ご本人が問題だと思っていることがらについて、どういうところが何法の問題になるかということを区分けして、区分けした内容について、その法律を所管している行政庁へ通報するよう手伝ってあげていただければと思います。
 ちなみに、私が在籍していた当時のことではあるのですが、消費者庁の公益通報者保護相談ダイヤルに、「公益通報したいんです」とだけ話すと、消費者庁に通報したいと認識されて、消費者庁の公益通報受付窓口に回されてしまうことがありました。私がお話を伺って、その内容が消費者庁の所管法令に関しないことだと判断した場合には、法令を所管している他府省を案内していました。
 こういう点からしますと、公益通報を考えているのだけど、通報先がわからない、とか、公益通報を考えているのだけど、公益通報者保護法の要件を満たしているかわからない、とか、そういう風に伝えていただくと、保護相談ダイヤルの担当者で適切な対応が可能になります。
 なお、消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤルに一元的相談窓口と書いてありますが、先に記載したとおり、消費者庁で受け付ける公益通報は、消費者庁が所管している法令に関する内容だけです。一元的相談窓口は、通報に関する相談を一元的に受け付けているだけで、あらゆる行政機関への通報を一元的に受け付けて行政機関に振り分けるということをしているわけではありません。

 公益通報を受けた行政機関としては、公益通報以外にも情報収集をするなどして対応していきます。公益通報以前に様々なルートで情報を得ていて、調査している場合もあります。
 公益通報した方からすれば、企業の問題行動を止めたいという思いで動かれたのでしょうから、その後どうなったかということを気にされるのは当然だろうと思います。 一方で、行政機関が行政処分を行うというのは、処分などを受ける相手方にとっては不利益になるので、相当慎重に動きます。
 公益通報した方は、純粋にどうなったか知りたいだけであっても、行政機関としては、処分や指導に向けて動いている途中の案件について情報が外に出ると、当該相手方が証拠隠滅するなどしてしまう可能性があり、それを避けたいということがあって、なかなか状況の説明ができないということがあります。
 行政機関の調査権限には限界がある場合が多く、調査を拒んだら罰金などがある場合もあるにしても、強制的に立ち入って、強制的に証拠をもっていくという権限までは定められていない場合が多いです。 このため、調査はとても慎重に行っています。
 行政機関の動きが遅いというご指摘は、行政機関として真摯に受け止めて改善を検討していくべきと思いますが、限られたリソースの中で優先順位をつけながら個々の事案に対応しているというのが実情ですので、公益通報された方(される方)は、上記のような点もお含みおきいただければと思います。

行政機関の方から受けた質問で印象的だったもの

 私が他の行政機関から受けた質問で、「通報者本人がマスコミなどに情報提供したようで、マスコミから問い合わせがあったらどう対応したら良いか」というものがありました。
 私の考えですが、公益通報を受けた行政機関として考えるべきは、公益通報者の秘密の保護、通報対象事実にある関係者の風評被害の可能性、行政機関としての職務遂行における秘密保持、公表することによる公の利益、個人情報保護に関する法令及び情報公開に関する法令との整合性などの点と考えています。
 これらを総合して考えると、通報があった事実すら回答できないという場合が多いと思われます。