閑話休題 行政文書管理担当になって勉強したこと(行政文書の管理等について) その2

行政文書の一生の始まり(作成・取得)

 公文書管理法、行政機関情報公開法の行政文書の定義は、基本的に同じで、「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(略)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」をいう(公文書管理法2条4項、行政機関情報公開法2条2項)わけで、行政文書(公文書)であるためには、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得するということが必要になるわけです。

 行政文書の作成といっても、アイディア出しのときのメモ書きから、最初の下書き、他の職員に確認・検討してもらう段階のもの、決裁に回す段階のものというような感じで色んなレベルの文書が作成されているので、その後ろの「組織的に用いる」とか「行政機関が保有している」という部分の要件が当てはまるかどうか、というところの検討が必要になります。

 ものの本で書かれているところだと、職員が個人的なメモ書きをしたものは行政文書でない、というような説明になっているところもあるわけですが、一般的には、個人的なメモ書きであれば「組織的に用いる」という状況にないので、行政文書でないということになるわけです。
 一方、形式がきちんとしていなくても、他の職員と仕事の関係で情報を共有するためのメモであれば、本人は個人的な覚え書きだと言ったとしても、「組織的に用いる」という状況にあるし、仕事の関係で作成されたものなので、行政文書になると理解されます。
 つまるところ、メモ書きかどうか、というところよりは、職務上作成された(取得された)か、また、組織的に用いるものであるか、というところがキーであろうと思います。
 「行政機関が保有している」という要件については、現実に行政機関が管理している状態にあるということを意味するので、すでに廃棄済みでこの世に存在していないというものや、他機関に管理が移行しているものを排除するという機能があるというのが私の理解です。

行政文書の管理の始まり

 行政文書を作成又は取得したら、次にすることは整理です。
 公文書管理法5条1項は、「長は」となっていて責任主体を行政機関の長にしていますが、私が消費者庁で体験したところとしては、実際には、内部の権限が各課・各室の長クラスに降りてきていて、当該長クラスが当該課・室の行政文書の管理を行い、行政機関全体の監理の場面では公文書監理官制度の下で監理する、という流れになっていました。
 つまり、実際問題としては、作成、取得した段階で、政令で定めるところ(かつ各行政機関の行政文書管理規則以下に定めるところ)に従って、担当職員が分類し、名称を付し、保存期間及び保存期間の満了する日を設定することになりますが、このときに、正しく保存期間及び満了する日を設定しなければなりません。
 各行政機関が行政文書管理規則と保存期間表を作成しているわけですが、その表のどこにあたるかというところを、まずは作成・取得の担当者レベルで考えて設定することになります。
 その設定が正しく行われているかについて、行政文書管理システムを利用するなどして、各府省の公文書監理官室がチェックして、誤りがあれば修正を求めるなどしていくという流れなのですが、前例踏襲であったり、そのほかの理由であったりというところで、保存期間表への当てはめが適切に行われていないということがままありました。

 設定の悩ましさというところについてご説明しますと、例えば、作成した文書(A文書とします。)については作成した日の属する年度の翌年度の始め(4月1日)を起算日として保存期間をカウントする、という仕組みなので、素直に考えれば、作成したA文書について保存期間を決めることになるわけです。
 一方、行政文書の管理については、単独で管理することが適当というもの以外は、相互に密接な関連を有する行政文書を一つのファイルにまとめることになっていて(公文書管理法5条2項)、保存期間もファイル単位になる(同条3項)ため、A文書が長期にわたるプロジェクトのために作成されたというような場合のように、相互に密接関連する文書ができるということがわかっていれば、A文書については起算日未定・保存期間未定としておいて、プロジェクトの行政文書ファイルにまとめ、プロジェクトが終わった段階でファイル全体の保存期間とその起算日を決めることになります。
 悩ましいのは、必ずしも相互に密接な関連を有する文書ができるか不明という場合、あるいは、後から相互に密接な関連を有することが判明したというような場合には、いったん保存期間を決めてしまうことになるので、仮に、後から行政文書ファイルにまとめられた場合、ファイル全体の保存期間に合わせて保存期間を延長する必要がでてくるのです。そうであるにもかかわらず、保存期間が延長されていなかったり、行政文書ファイルの保存期間自体が適切に設定されていなかったりということが生じていて、これを解消するために、担当部署がなぜそのような設定にしたのか、保存期間表のあてはめのところから確認して、適切な保存期間が設定されるようにしていくのです。

 裁判所の裁判文書の管理について、最高裁判所の定めた事件記録等保存規程によれば、民事通常訴訟事件の記録の保存期間は5年ですが、判決の原本の保存期間は50年とされ、取扱いが違うので、ファイルを別に分けてあるはずです。その結果、判決の原本は保存されているけれど、その事件の記録自体は廃棄済みという状態が発生し、世間の関心を集めたり、その判決がきっかけとなって法令改正があったりしたような事件でも、記録が残っていないということがあって、世間の耳目を集めたのはご承知のとおりです。

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/tsuutatsu/01kitei/040525zikennkirokutouhozonnkitei.pdf

 保存場所の問題もあるにはありますが、国立公文書館で文書のデジタル化がすすめられていることを考えますと、判決の原本と事件記録を一体にしてデジタル化して判決の原本の保存期間と同じ期間保存するという運用に変えていくことも考えられるのかもしれません。もっとも、そこには国家予算の問題がありますから、なかなか簡単ではないとは思われます。

 横道に逸れているのに、さらにその中で横道に逸れているように思いますが、記録の意味でも記載しておくべきと思って書きました。
 次は保存と廃棄・移管の話です。