医療から見た強度行動障害に関する覚書

吉川徹先生(児童精神科医、愛知県医療療育総合センター)の講演の私的なまとめです↓

強度行動障害とは?

・強度行動障害は医療ではなく福祉や行政の用語。
・医療度判定スコアや強度行動障害判定基準表(新法)が順に整備されてきた。
・「有病率」。福岡市は190人。0.013%。神奈川県98人。0.11%。
・60~80%は自閉スペクトラム症。中等度以上の知的障害。
・福祉と医療の連携。通院による薬物療法が原則。居住の場所の提供は医療の範囲外。

・頻度が上がるのは中学・高校。卒業直後に比較的落ち着くケースもある。
過敏な感覚に対して限度を超えた刺激を繰り返し受けてきたことによる強度行動障害⇒刺激に対する憎悪や恐怖の増強も
・緩やかな刺激への馴化。または、パニックやメルトダウンからの立ち直り方法の早期確立が大事。

強度行動障害を予防する

・「人と遊ぶ」を学びそこなって、「人で遊ぶ」ことが習慣になっていると強度行動障害につながる。
・楽しくない遊びは断る。「人と遊ぶ」ことを学ぶ
・遊びの要求に関する基本のコミュニケーションを学ぶ。お伺いを立てて、断られたら引き下がるパターンを。※性的要求も同様。
・行動レパートリーの乏しさ。人生に必要な活動が嫌いになっている。退屈を紛らわす活動レパートリーの乏しさ⇒同じ行動や不適切な行動を繰り返す。

・「できること」より、「やりたくなること」を目指す。興味や関心の拡大を手伝うこと(共同開発)が支援の根っこ。※一人開発も大人になると有効な場合も。
・何を目指すのか。完成した大人より、挑戦したい大人へ。
就労と自立は目標にするとこじれやすい。結果として付いてくるもの
・余暇活動を育てていくこと。できれば続けていけて、仲間がいて、(就労につながる)市場があって、身体も動かす趣味を。※お節介かも?
意思決定支援ではなく、「欲望形成支援」では?(國分功一郎)

課題と報酬の関係の理解不足がある。「仕事」による退屈しのぎができたり、「報酬」によって生活の質が上がったりする。
・目指してはいけない状態がある。奴隷労働や強制労働。
・健全な労働に必須のスキル。2ステップ(課題→報酬)のスケジュール理解と、2つのもの(報酬のありなし)から1つを選ぶスキル。
・スキル獲得できないと、全ての活動に「快」がなければいけなくなってしまう。

・行動障害の発症率の上昇。かんしゃく、カタトニア、適応障害etc…。
人づきあいが行動のアクセルにもブレーキにもなりにくい。好きなものが増えにくい(嫌いなものは増えやすい)
・動機の不足を補う危険な方法。強制や罰、ルーティン(常同性)の悪用、理念への傾倒で自分を縛る(ex.大人は仕事をしなくてはならない)。
韓国映画『マラソン』(2005年)。「チョウォンの脚は?」「100万ドルの脚」。2007年に日本でもTVドラマ化

強度行動障害が起こってしまったら。

・何が起こっているのか突き止める。その行動の機能は何?
・応用行動分析。行動主義心理学の臨床応用。
・ストラテジーシートの活用
維持や進化している行動は環境から肯定的なフィードバックを得ている。減少している行動はその逆。
・学習の歴史を辿ることが、行動分析の効率向上のために重要。

強度行動障害への医療的支援

・医療は学習に向かない。生活場面への一般化は難しい。行動の形成は生活場面で。
・治療の基本は環境の調整と新たな行動レパートリーの獲得。薬物療法?

入院治療

・一時的な避難。家族や福祉が対応する時間や余力を稼ぐ。
・薬物の減量。入院すると落ち着くので、増量することは少ない。
・「偶然」その行動がなくなることも。

ほとんどの入院では隔離や身体拘束が実施される。
・退院後に行動障害はむしろ悪化することもある。

・入院目的を擦り合わせる。できれば病院で事前ケースカンファレンス。入院中にケースワークを進める。
・入院前の地域の支援体制はそのまま維持する必要があることを確認する。福祉だけじゃ足りないから医療を「足す」だけ。
入院時点で退院日を決めておく! 治すための入院ではないから。帰る場所がなくなることを絶対に防ぐ。

再入院は無駄ではない。レスパイトが必要。医療側も「関わり続ける姿勢」を見せることが重要。
・長期経過すると入院ニーズが消失するが、一部の人は定期的なレスパイト的入院する。入院間隔が広がっていくことも。
・入院中の配慮。隔離中に「退屈」させない。

薬物療法

知的障害児の13%に抗精神病薬が処方されており、うち半数に年306日以上の長期処方。対症療法。
主に攻撃的な行動「易刺激性」に対して有効。リスパダールとエビリファイが承認されている。
・逃避としての攻撃には薬物が効きやすい。・逃避の一種の八つ当たりにもある程度効く。
・遊びとしての攻撃には効かない。要求の表現としての攻撃にも効きにくい。⇒代わりの要求手段や満足を得ないと収まらない。

・遊びとしての反復行動に対しても薬は使いたくない。
・やっていて楽しそうに見えない反復行動には、抗うつ薬(SSRI)の(大量)投与が有効。
・カタトニア様退行。DISCOのカタトニア特性項目。⇒基本は環境調整。また、ごく軽い身体プロンプト。ロラゼパムは止めにくい薬。
・ADHDが併存しているケースについては、効く確率は下がるがコンサータなど4種類ある。
・昼間起きれてて夜眠れない睡眠障害には抗精神病薬が無難。短期間なら睡眠導入剤も。

・薬を飲んでいる人に対して、効果が出ていることを確認する必要がある。効き目を確かめることに対する支援も大事。
・抗精神病薬のイリギスの研究結果。無理やり止めた3人に1人が大丈夫だった。
・中止に失敗した例。住居の出入りが厳密に管理されている。夜勤のベテラン職員や常勤職員が少ない(スキルが低い)。お薬で眠くさせるのは化学的拘束…!

Start low, go slow(少量から開始してゆっくり増やす。副作用が出ても悪影響が出にくい)

地域での暮らしをさ支える

・医療がかかわるアドバンテージとディスアドバンテージがある。
薬物療法を行うと認知機能が低下する。再学習を阻害する
・ひょっとすると集団生活が最も似合わない人たちかも。
人に添わせることの苦手さ。刺激に対する過敏さ。

・支援拠点整備。か~む(福岡市)。移行型グループホーム併設。
・行動援護ハウス。ケアホームのバリアフリー改修事業。ハウジングアイチ「凸凹わが子を育む住まい」。
・空間を積極的に分ける。広いスペースである必要はない。退屈しのぎが必要。

・福祉領域の人材育成がカギ。
強度行動障害支援者養成研修。H25年より。
・強度行動障がい者支援助成金(愛知県岡崎市)。年額300万。入所施設→生活介護に対象拡大。強度行動障害者支援事業(名古屋市)。
地域自立支援協議会。個別支援会議に早期に医療もかかわらせてくれ。

・診療で心がけていること。福祉や教育、家族に「自分たちでやっていくしかないんだ」と思ってもらうこと。医療は期待外れだけど、自分たちはやっていくことができるんだと思ってもらうこと。でくの坊。

愛着障害や独占欲の強い人について

・「関係が密になるほど要求が増してしまう」←人で遊ぶパターンが定着しているのかも。
自立した活動のパターンと人と遊ぶパターンのバランスが重要。人と遊ぶ時間は減らせないので、DVDを観ている時間等をどうやって増やすか。

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