たくみちゃん杯
第3回たくみちゃん杯・開会宣言/審査を終えて
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第3回たくみちゃん杯・開会宣言/審査を終えて

たくみちゃん杯

 なぜたくみちゃん杯をやるかということについては、これは自分でもよく分かっていませんけど、一つの実験ですね。誰かと誰かがトーナメントで当たり、僕が審査をして独断で優勝を決めるという営みです。これを2018年から2回開催していて、今回が3回目となります。歴代の優勝者は初代がうらあやかさんで、第二回が望月亮佑くんです。優勝者の名前がこのようにリボンに記され、優勝カップに増えていきます。前回の優勝者望月くんから返還されたこの優勝カップに、今回の優勝者の名前も結び付けられて授与いたします。で、今回はこの状況なので、物理的に優勝カップを渡せないわけですね。たぶん後日お渡しするか、あるいは郵送するかと思いますが。
 ここに人間の生み出すことのできたテクノロジーの限界がありますね。こんなふうに情報の技術はものすごく上がっていて、ミクロではDNAを解析し、宇宙スケールだと人工衛星を通じて僕のiPhoneが今どこにあるかがピンポイントで分かってしまう。しかし、このカップを瞬間移動させるテクノロジーは今だありません。そんな当たり前の限界は常に感じながら、今日のこの試みを進めていきたいと思います。
 カップは、こちらからそちらへ移動させることはできない。では、移動させることができるものはなにか。この状況で僕たちは何を行き来させることができるのか。最近なんとなく思うのは、あんまり無理する必要もないよなと。カップひとつ移動させることができない我々にできることは当然限られている。
 でもできることはあって、今日ぼくは第3回たくみちゃん杯の優勝者を決めたいと思います。

審査を終えて 
 5月10日の昼下がり、本来ならば初夏のFL田SHで、中庭でビールを飲んだりなんかもしながらみんなで過ごしただろう。が昨今の感染症流行を受けて、全出場者と観客はZoomでのオンライン参加、というイベント形式になった。Zoomミーティングを設定したのちに出場者・観客の一人一人にリンクを送付。時間に追われながらの作業は一仕事で、なんとか13時前にミーティング設定できたときにはちょっと疲れていた。オンラインミーティングって手軽なイメージもあるけど、オフラインで会場に人がやってくるのを待ち受けている方がよっぽど楽、って思った。Zoomのギャラリービュー(全員の画面が見えるタイル状のモード)で2ページがいっぱいになったので、全部で40人くらいいたかな? この賑わい感が新しかった。呼びかけとして、いやな人以外はなるべくカメラをオンにしてください、と言って、3/4くらいの人が顔を見せてくれた。あみだくじアプリで対戦順を決めるのも一苦労。10分くらい手間取ってようやく対戦順が決まった。
 第一ラウンドAブロックは、清水恵み(美 対 IchikoFunai。ぎりぎりでZoomにやってきた清水さん。「ちょっとやりたいことがあるんです~」と言って、「ミュート機能をオフにしてください」。みんながZoom上で会話ができるようにする。「えーと、望月さーん?」と呼びかける。何を食べているのか、聞いたり。2種類のポテトチップス。それに対して、「味が混ざらないのか?」「いや、飲み込んでから次のを食べてるんで」などという気の抜けたやりとりがZoomのギャラリービューで展開される。あとは韓国の出場者Yeon Jeongに対して、そちらの気候はどうか、などのやりとりなど。これらはなんということもないことだ。だけど、この場を開くのにけっこうへろへろになっていた僕にとって、大げさに言うと癒されるようなひとときだった。後攻のIchikoFunai。部屋の中に三人のパフォーマーがいる(パリの朝7時前のアーティストレジデンス)。一人はジャンベ、一人はベースを弾いて、一人は真ん中に棒立ちしている。全員、黒いマスクをしている。Ichikoがカメラのすぐ前で布を切る。ダウナーな感じの雰囲気だ。お人形サイズの服ができて、それを真ん中のパフォーマーに画面上で合わせる。遠近感によってパフォーマーが服を着ている形になる、という趣向だ。次には布のドレスを本当に着せる。Ichikoの布切りばさみも画面上ではパフォーマーと同サイズの巨大なはさみのお化けになり、パフォーマーの足を切るような動きをする。最後にパフォーマーの腕とIchikoの指でハートを作って終わる。1回戦、いきなりスタイルが全然違う。しかも一組はパリから。この全然違う感じは空間を共有してないからできるのだろう。パリはきっと眠いだろう。これだ、これは面白くなりそうだ、と思った。が、「全然違う」のにどっちかを「勝ち」にしないといけない。悩ましいとはこのことだ。Ichikoのパフォーマンスは第2ラウンドでもまた観たい。きっと何か作りこんだものがあるんだろう。こっちかなぁというつもりで僕は喋り始めたが、「ただ何を食べているか聞いているだけなのにこんなに面白い」という事実に涙が出そうになってしまった。これはすごいことである。なぜ面白いのか。これはもう色々な要因があるわけだがとにかく、そう感じてしまった以上は清水さんの勝ちとせざるを得ない、と僕は思った。
 Bブロック。ひろきのパフォーマンス。彼は最近滋賀県に引っ越した。もし予定通りのオフライン開催だったらおそらく参加できなかったんじゃないかと思うけど、Zoomなので参加できた。よいことだ。滋賀県における「石」の信仰をまず話す。音声が途切れても大丈夫なようにフリップもつくっていて、気が利いてるなと思った。「この石を使ってぼくとあなたの距離を測ります」ということで、洗面器に張った水と石鹸を使って、石(手で包み込めるくらいのサイズ)を丁寧に洗っていた。これを観ながら、聖書にあるキリストが弟子の足を洗うパフォーマンス、そしてそれを踏まえたいくつかのパフォーマンス(もちろんヨーゼフ・ボイスがいる)を連想した。後攻は、オニャンコポン。前日にフォームから参加連絡が来た。誰だ。知っている人なのかどうかもわからない。ずーっとビデオはオフにしている。が、出場者全員いますか?の呼びかけにはチャットで答えてくれる。さて、顔も見せないオニャンコポンは何をやるのか。沈黙。そして一瞬、画面に白い布か何かを映し、隅っこをめくって髪の毛だけちょびっと出した。お、お。と思っていると、画面が切り替わってしまった。あれ?設定がおかしいのかな、と思ったが、どうやら、オニャンコポンはZoomから退室したようだ。消えた。人が消えるというパフォーマンスは、今まではマジシャンの領域だったろう。だが今回、人が消えるというパフォーマンスを初めて観た。戻ってくる、という可能性もあるだろう。なので制限時間の5分が経過するのを待つ。必然的に、ギャラリービューで他の出場者や鑑賞者が目に入ってくる。ぼーっと、オニャンコポンを待つでもなく待ちながら、同じようにぼーっとしている人たちを見る時間がそこに生まれていた。これかなりよかったな。ある人の後ろを、同居人が通り過ぎたりとか。で、審査に入った。喋りながら、足と石でライミングがある!ということに気づいたりした。審査していると、Zoomにオニャンコポンが戻ってきた。そのときは「意外と律儀だな」とか思ってしまったが、今にして思うとこれには大きな意味があったな。はっきりと、いなくなるをworkとして提示しているということになる。結果としてはひろきの勝ち。画面越しだと、ひろきが感じている石の表面の凹凸はもちろん感じられない。それが石を使って距離を測る、ということなんだなというポエジーに軍配を上げた。でもオニャンコポンの消えるパフォーマンス面白かったです。誰なんだろうな。
 Cブロック。たくみちゃん。「推敲」の故事を説明する。昔中国の唐で、科挙を受けるためロバで都へ向けて移動していた男。彼は詩人でもあり、「僧は推す月下の門」という一節をロバの上で吟味していた。そこで「推す」の代わりに「敲く」を思いついたので、推すと敲くとどちらが良いか、夢中になって推すふり敲くふりをしながらロバに乗っていたら、都の知事、韓愈の行列に突っ込んでしまったのだ。この説明を「推敲」しながら言葉遊びするというパフォーマンスであった。野口竜平。「まずギャラリービューにしてください」から始まる一連のインストラクション。白い紙を用意してください。そこに唾をたらす。唾を眺める。紙飛行機を折る。その紙飛行機を窓から飛ばす。白い紙の上の唾の塊は綺麗だった。そして、Zoomのギャラリービューの中で、みんながそれぞれの形の紙飛行機を折っている。これが、面白かった。見た目にもコンセプトも面白かった。野口君の勝ちにしようと思ったので、審査の際に自分のパフォーマンスの意図を説明させてもらった。言葉を推敲するという行為は、ロバに乗っていて行列に突っ込んでしまうくらいに孤独に没入してしまうものだ。SNSなどの情報空間では「推敲しない」言葉が脊髄反射的に飛び交うなあ、というのが最近気になっていた。みんなといながら独りである、という今回の特殊な状況で「推敲としてのインプロヴィゼーション」をやってみた。
 Dブロック。Bo Kimのパフォーマンス。空間はキッチンである。ハサミで自分の服に、縦に切込みをを入れる。下から肌は出てこない。何回もそれを繰り返し、ミルフィーユ状に何重にも着込んだ服が縦に裂かれてゆく。お腹からトマトが一つ出てくる。ナイフでトマトを切ってミキサーに入れる。布団を持ってきて、ミキサーをくるむ。布団ごと抱きかかえ、スイッチをオン。くぐもった音がする。できたトマトジュースを一息に飲み干す。
 このブロックは二人とも韓国のアーティストだ。Yeon Jeongのパフォーマンス。小学校の滑り台の前にいる。靴のヒールで、金属のスロープをゴーン、ゴーンと鳴らす。その靴を脱ぎ、紐を通す。ゴム軍手を手から取る。そのゴム軍手を使って自分の胸を打つ。まず軍手だけで。次に棒に軍手をつけ、その軍手を「肩たたき棒」のように使って。そして突っ伏した状態で滑り台を登る。足に括り付けられた靴を引きずりながら。二つとも、いくつかのマテリアルを使ったステティックなスタイルのパフォーマンス。韓国の公園とキッチン。海の向こうからの参加はありがたい。かなり判断が難しかったが、気になったのはキッチンだった。このキッチンで、このあとどんなことが行われるのだろう。そう思ってBo Kimの勝ち。
 第1ラウンドが全て終了し、休憩となる。
 進行アシスタント(リモート)の根本さんのtwitterより
 「たくみちゃん杯1回戦おわり休憩中。zoomのギャラリービューにたくさんのからっぽの部屋がならんでいてGOODです」
 休憩明けに『小僧』を上映し(これもさんざん配信にてこずった。あとあときくと、段取りのごたつきは家だからそんなに気にならなかったとのこと、よかった~)第2ラウンドへ。
 1回戦は、清水恵み(美 対ひろき。清水さん、複数のwebカメラとZoomアカウントを使って家の中を歩く。これを、ギャラリービューで見る。手に持っているカメラが階段に据え置きにしたカメラの前を通るとハウったりする。あと、清水さんの家には白い猫がいる。その猫を追いかけているのか? にゃーという鳴き声が時折聴こえてきて、カメラが拾うからディレイっぽくなる。開始時に清水さんは「声を出したり笑ってもいいからミュートじゃなくしてください」と、鑑賞者に声をかけた。そしてギャラリービューのなかに、清水さんのカメラ(アカウント)は全部で3つあって、見づらいけど20くらいの小さい窓(ウィンドウ)の中からその3つを注視する。これは、迷宮だ、と思った。ひろき。滋賀県にある、岩にレリーフのように掘られた仏像の説明。これを、手にマジックで図示しながら行う。仏像を盗もうとした人々が作った、岩の傷が点線状に仏を囲んでいるらしい。掌に示した仏像を、マジックの点線で囲む。なんか、むずむずする感触がある。掌にマジックで字を書く、という誰もがやったことのある行為を思い出すからだろう。これは、第1ラウンドでやった、石のディテールは画面越しに分からない、ということと対になっているな。審査中、清水さんちの猫がまた鳴いていた。ハウリングの音も聞こえた。ハウリングとギャラリービューの迷宮対、掌のむずむずが開く太い回路。どっちも面白いけど、僕は迷宮が好きだった。清水さんの勝ち。
 第2ラウンドの2回戦。野口竜平。「パソコンを窓に向けてください」という指示が増えた。そして、紙を用意して唾をたらし紙飛行機を折る。さっきと違う唾だし、折った感触がさっきと違う。今回は唾の位置がちょうどよく(?)折った時にちょっと湿っぽかった。そして、飛行機を飛ばす。Bo Kim。紫色の布で口から下を隠している。それをたくし上げると、布の裏側には黒いしみがたくさんついている。そして口いっぱいに何か頬張っている。ころん、と一個ずつ出してテーブルに落としていく。石だ。痛くはないだろうけど、かなりの量が口に入っていたようだ。そして、またさっきと同じミキサー。スイッチを入れる。ギュイーン、と大きな音がする、同時に何かを喋る。聞こえない。韓国語だろうか。ミキサーが止まるのは喋るのをやめるよりも少し早い。でも、聞こえない。PCのインプットが大きい音に合わさったからだろうか。ミキサーに水を汲み、コンロのフライパンに移し替える。さっきと同じキッチンだけど、統一感と意外性と両方があった。Bo Kimの勝ち。
 そして、新作映画『小僧2』の配信をなんとか遂行し(今回のイベントでなんだかんだ大きな要素だったと思う)、決勝戦へ。まずは清水恵み(美だ。ここで屋外に出る。最近はもっぱら、家の近所の林でほら貝を吹いているとのこと。清水さんが最近ほら貝を吹いているのは知っていたので、決勝戦にほら貝を持ってきたかあ、というのがじーんとした。鳥の声とほら貝のコラボ、みたいな映像が撮れたらしい。それをまず配信、とここでうまく音が出ないトラブルが起きてしまった。鳥の鳴き声が重要なので、音が出るまで5分くらい四苦八苦したか。最終的に音が出て、たしかに林に立っている清水さんとウグイスとほら貝の音が収録されていた。ボーッ、という長めのほら貝に鶯がホーホケキョと応えた。で、映像が終わって、ほら貝を実際に吹く。音はあんまり出ていなかった。次に、Bo Kimのパフォーマンス。キッチン・ミキサートリロジーという感じだ。土をミキサーに入れる。手で水道の水をやる。身を乗り出してミキサーの上から、土に、なにも画面越しには聞こえないが、おそらく何かを呼び掛けているように見える。あるいは、歌か。ミキサーの中の土を混ぜる。スイッチは入れず、手で振る。次に画面真ん中の鉢にあごを載せる。ミキサーの中の土を頭に載せる。そしてトマトの種を、頭の上の土に蒔く。霧吹きで頭に水をかける。入念に土を固める。そして帽子をかぶる。
 優勝は、Bo Kimさん。韓国のキッチンで、3回にわたって行われたパフォーマンス。いくつか出てきたマテリアル一つ一つの意味するもの、与える印象は観る人によって違うだろう。キッチンでのパフォーマンスには料理番組っぽさもあったり、キッチンという空間も象徴的だ。これをたくみちゃん杯で観ることができて僕は嬉しかった。
 オンラインのミーティングルームで部屋と部屋がつながる。「つながった」とはいえもちろんそれらは別々の空間である。フィジカルな情報の多くは共有されえない。だからライブ感の共有には限界がある。というか、無理だ。でもパフォーマンスの本質は、実はライブにないのでは、という仮説が立った。別々の空間で行われているからこその面白さがあった。「観客」にしても、面白がっているのかどうかがこちらからは全然わからない。というか、分からなくていいのだ。カッコ今回に関しては。そして終わった後、見てくれた人から「面白かったよ」という連絡をいくつかもらった。素直にそれは嬉しかった。おそらくそれらの人たちは「面白かったよ」と伝えないといけない、と思ったから伝えてくれたのだろう。これが実はすごいことかもしれないと気づいた。

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