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第6回たくみちゃん杯_審査を終えて

共催イベント、大谷能生さんの新刊『〈ツイッター〉にとって美とはなにか』出版記念トークが終わり、第6回たくみちゃん杯開催と相成りました。

転換中、村上裕がローテーブル上にびっしりと組んだ音響機器を、ずーっとサウンドチェックしていたのが印象的でした。そしていつものようにくじ引きで対戦順を決めました。

第1ラウンド、第1ブロック先攻、河野さん。僕も初対面です。黒系統の服装に黒のニット帽で、小型キーボードを小脇に抱えての登場。「初めまして河野といいます。何をやるイベントか分からなくて…」(会場に笑い)。
最近、曲をつくり始めたので最近作った曲の弾き語りをしようかなということで、ナップザックから小型キーボードを取り出す。ここで、「電池が逆のようで…」といっておもむろにキーボードの乾電池を向きを変えて入れ直し、また会場に笑い。これはわざとなのだろうか…? とにかくかなり場が和んでどんな歌が飛び出すかと耳を傾けると、ラブソングのバラードだった。苺のあまおうの歌をつくりましたとのことで、歌い始める。
クリスマスを過ごすカップルの情景。これからも長く一緒にいたい。季節が巡ってあまおうが実り、そういった一つ一つの想い出が懐かしくなるくらいに長く。
という大意の「あまおう」という曲だった。

河野

第1ブロックの後攻、村上裕さんだ。

愛用の旗にくるまってスタンバイ、「よーい、スタート」で、間髪入れず生声のフリースタイルラップを始める。以下に書き起こしたい。
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喧噪の中で騒ぎ立てる音が
まだ聴こえているうちに
なんか、を、ないを、なにも、分からないまま生きている誰もが、
そうだと、するけれども
言葉が、波動が、音がなんであるかを
歌が、波動が、音がなんであるかを
聴こえているうちに
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ラップをしながら機材セットの方へにじりよっていき、電子音楽をスタートさせる。ばっと。旗を脱ぎ去り、ファルセットのコーラスを歌いながら肉体を震わせて踊る。ワンコーラスしてまた機材テーブルに戻り、ジェネレーターを起動させメロディーを重ねる。
ここで4分経過の笛。

村上裕

なんかすごいよかった。
審査である。第1ブロックは奇しくも音楽対決みたいになり、非常に難しい。比べようのないものを敢えて独断で比べてみるというのがこのたくみちゃん杯なのです。
場の雰囲気は村上裕が塗り替えていた。まず、ローテーブル上のびっしり並んだ機材がごちゃごちゃしていてかっこよくて、これがゴロゴロとはけたり出たりするのもよい(テーブルにはキャスターがついている)。4分に収まりきらないような即興が、笛の合図できっかり終了するという清潔さも好き。
であるが審査するうえでは、河野さんの先攻の、印象を思い出さないといけない。となると「乾電池が逆」というハプニングがすごく印象に残っていて、なんでだろうと考えると、このパフォームの中では複数の時間が折り畳まれていることを意図せず想起させたからではないか。
整理すると
歌詞世界の中の時間① クリスマスで、「君」と過ごしている今
歌詞世界の中の時間② あまおうが実るという年周期の時間
歌詞世界の中の時間③ 「君」との思い出が懐かしくなる人生周期の時間
現実の時間① 事前にこの曲をつくっている時間
現実の時間② 4分の中で演奏する時間(乾電池が逆、みたいなその場の出来事も入り込む)
ということになるだろうか。この複雑さってすごく面白いなと思って、非常に迷ったのであるが河野さんを第2ラウンド進出とした。

第2ブロック 先攻、よしのももこ
手をぶらぶら振りながら、身体をゆする。ベージュのズボンに、おじさんの紙人形が紐でたくさんぶら下がっている。わりと執拗に身体をゆする。
おじさんの紙人形はすごく小さいので、よく見ないと分からないのだが、スーツを着ていて政治家のような印象を受ける。(あとで聞いたらやはり岸田内閣のにんげんだったらしい。)ヤッホーと言う。だが、本気では「ヤッホー」と言わない。しるし程度の声量で、ポーズとしてのヤッホーである。
そして羽織っているシャツの左胸ポケットから、もこもこした、持ち手のある物体を出す。これでまず自分の左肩を「斬りつけ」「いてっ」と言う。次に左足、右足を「斬りつけ」(いてっ)、顔も斬りつけ、
(この物体は実質はもこもこしたぬいぐるみなので明らかに何も斬れない)
立っていられなくなり正座の形に、最後に切腹の形で腹を切り、(うあー、と言って死ぬ)「終わりです」と言って立つ。

死んだあと、1分くらい無言で静止していると良かったんじゃないかと今映像を見返して思った。

よしのももこ

第2ブロック後攻 喫茶みつる
椅子に座って、井上陽水の「リバーサイド・ホテル」をスピーカーから流す。そして準備OK、開始。学ランを装っていて、顔面を黒い水泳帽でマスクのように覆い隠す。「リバーサイド・ホテル」の歌詞に、パントマイムのように当てた振付で踊る。サビ部分は、1フレーズごとにカヌーを一漕ぎするような動き。このときの、半ば脱力しているような動きがよかった。
曲の2番になると観客席の方にどんどん進出していき、ねそべったりする振り付けも入る。背が高いので、空間を大きく占める。椅子の下に入ってきたので驚いて飛びのく観客もいた。最後また前方ステージに戻り、椅子を頭の上に逆さに載せて終了。

喫茶みつる

審査。二人とも、絶妙に脱力された動きで具体と抽象のあわいのようなところで何かを表象していることが共通していると感じる。よしのももこがぬいぐるみの包丁で自分を斬りつける仕草をするコミカルな動きから僕は、「身体を傷つける行為を禁止」するというたくみちゃん杯の規則を想起した。規制されている中でなお、それをコミカルなものに転化して表現すること、全体の、力の抜けたしかし最後には切腹という意味性の強いジェスチャーを持ってきたブレンド感が、見たことのないものだったのでよしのももこを2ラウンド進出にした。喫茶みつるは、使用する曲の構成に踊りの内容が合わさりすぎているなあと感じた。

今思ったことだが、第5回たくみちゃん杯@buoyでのスカボローフェアの踊りと、足して2で割る感じになるとよくなるんじゃないだろうか。

第1ラウンド第3ブロック先攻 手塚美楽
ナポレオンズがマジックショーのときに流す音楽とともに登場し、床にあおむけに寝る。見世物が始まる期待感が沸き上がり、また、仰向けの様が人体切断マジックのスタンバイを想起させる。共演者のよしのももこが、カップラーメンやお菓子が紐でぶら下がった棒を持って、それらのお菓子を手塚の顔の上で揺らす。もう一人の共演者であるPARAスタッフの西田さんが、手塚の肩を掴んで床に抑えつけているので、手塚がお菓子を取ろうとするが手が届かなく、取れない。このような、微笑ましいような滑稽なような動きが曲の間続いた。見ていて、これはベッドメリー(赤ちゃんの頭上の玩具)なのかな?と気づいた。最終的に紐が切れてお菓子が顔の上に落ちてきた。「終わりです」と言って、終了。

手塚美楽

第3ブロック後攻 羽鳥直人
「お願いします!」という合図を司会者に出し、始める。「皆さん元気ですか⁉」という声を前列の客席に投げかけて、みんなのパフォーマンスが「めちゃくちゃいい、最高だった」とほめる。長い手足を生かしてぴょんぴょん動いたと思いきや、手をついて四つ足の形になり、ブルブルブルと唇を震わせた。3回。この予測不可能な、エイリアン的動きに思わず笑ってしまう。また素早く立ち上がり、甲高い笑い声を上げ、お腹がすいたなあ、という発話からまた四つ足でおにぎりの具の話、うまいおにぎりの握り方の話になった。おにぎりが崩れちゃうときは、海苔をまいてあげるといいよ!というのを四肢を大きく広げてジャンプから縮んで表現しているのが白眉だ。おにぎりには愛情がこもっているという旨のことを呟きながらだんだんと収束して、終了。

羽鳥直人

審査。羽鳥さんのパフォーム、僕はすごい好きですよ、ということをまず述べて、でももう少し長い方がいいと評しました。4分使い切るくらいでいいんじゃないかと。ブルブルのところが大変面白くもっと見たいと考え、それはたしかだが海苔のくだりなどは映像で確認したらここもたいへん良かった。が、ベッドメリー、お菓子への欲望、マジックショー的構成、これらの重なり合って生まれる抜けのある合成イメージ、手塚美楽を第2ラウンド進出とした。

第1ラウンド第4ブロック先攻 カキヤフミオ
上下白の服。正面にA4の紙に印刷したテキストを2枚貼り、テーブルを設える。ガラスの一輪挿しに生けてある薔薇(?)のドライフラワーと、演出家危口統之氏の著作をその上に置き、台座のようになっている。窓のそばで紙コップを二つ使った糸電話のような楽器を鳴らす。糸部分は金属線でできていて、指でそれを擦ると鶏の鳴き声のような音が響く。次に窓をひとつ開け放し、部屋から出ていく。
ついていった方が良いのかどうか、困惑する観客もいる。ただ僕は、観る者はこの部屋にい続けてよいという印象を受けた。すると窓から、カキヤさんの、呼び声のような大きな声が聞こえてきた。

カキヤフミオ

後攻 酒井風
「ここは2階」から始まるインプロヴィゼーション。空気、ナイキ、外気と、とめどなく言葉を連射する。 プロジェクターからなにかの検索画面?が出ている。 即興的に出てきた発話からキーワードを拾って検索ボックスに入れるようになっているらしい。手振りはインスピレーションをドライブさせるような機敏な動きで、歩き回る。発話の生成。

酒井風

審査。カキヤフミオの糸電話は、繋がらない届かない声の象徴だろうか。ただし、糸(金属線)の方を擦って音を出しているというつまり繋がりの部分にフォーカスしているのだろうか。そして一輪の薔薇はヨーゼフ・ボイスが話し合うときの象徴でもあるので、見る/見られるの関係を脇に置いて共同体的に話をしようという意思なのだろうか。
酒井風のパフォームは、前に映っている画面に現れるテキストが、かなり早く目まぐるしく変わるのが面白かった。全部は到底読めないし、酒井風の発話も矢継ぎ早に連想された単語を連射していく。
カキヤさんがいなくなったあとの、部屋の中でみんなが困惑している感じが鮮やかな空間で、不在のカキヤさんの声だけ聴こえてきてその声はおそらく、この世をあとにした危口さんに向けられているのだろう。(GoProの映像にも、そのときの空間のビビッドさは残っていた)カキヤフミオ第2ラウンド進出。

第1ラウンド第4ブロック1番手 山口静
激しい感じと柔らかい感じとどちらがいいか、と訊かれたので激しい感じと答えた。イヤホンから聴こえている(であろう)音楽に合わせて、執拗に踊る。腰を支点にして小刻みに上体を動かしたり、肩を中心に上肢が円弧を描いたり。どことなく武術の型っぽく見えるときもある。ときおりバレエのように円く挙げた両手がアクセントをつける。1分強踊ったところで鋭く叫び声を上げる。見ている我々には聴こえていないけど山口さんにだけ聴こえている音楽が、踊ることの原初的な欲求を蓄積させているのだということがこのとき気づかれた。4分を踊り切り、笛の合図で終了する。

山口静

二番手、LICCA。「マルチタスクをやります」と言って、ポエトリーリーディングのような発話をしながら歩き出す。内容は、
生まれた夜空に光のブーケをトスしてカモメがキャッチでキッチュなヤングと惹かれた同士が等身大…(1フレーズ不明)地球の底より宇宙の外側、力でこじ開け急いでかぶせて鍋の蓋。コトコト煮えたら鳴門を投下し空気が割れても元には戻るが時代的にはおかしいんだっけ。グリコパピコ美味しいんだって。

LICCA

葉書を観客に配る。その葉書には、今発話している内容の詩が書いてあり、またその下にLICCA個展、とある。日付が過去なので、すでに完了した個展の案内葉書なのだろう。配り終えたらストレッチをする。パイプ椅子を持ってきて、その上に乗る。片足で立つ。ずーっとこの詩の暗唱を続けている。ペットボトルの上に葉書を載せたりもしている。疲れた様子で仰向けに寝そべるが暗唱はやめない。4分が経過して笛の合図で終了。詩の内容が面白く、ラフな身体とのギャップも良い。発話がもう少しだけ正確な方がよいか。

三番手、たくみちゃん。しゃがんだ状態から始める。ゆっくりと立ち上がり、そこから第一歩を踏み出すまでをなるべく長く引き延ばそう、と思っていたのだったが、粘り切れずわりとあっさり一歩を出してしまった。意味なく「デメ」と言ったり、誰かと会う驚きを「ワー」と表現したり。意味の取られない発話というか口から出る音が分節化され日本語になっていく様をやりたかったのである。ステップの軽い/重いと、発話の軽い/重いを、もう少し分離して遊べるとよかった。

たくみちゃん

審査。審査が始まって少ししてたくみちゃんのパフォームは完成した(と、今映像で確認して感じた)。ここまでを含めると、ならたいへんよいと思った。山口さんのパフォームについて、「僕たちもききたい、ん?、僕は聴きたい、僕たちも聴きたいと僕は思った」などと言っている。
そう、僕たちも聴きたいなあと思って踊りを見ていたら、「アア!」という叫びが発されて、ああ山口さんの中では積みあがっているのだと思わされたのである。そのあとの踊りも、情熱的な感じとドライな感じ(音楽が聴こえないこともドライさの一因だろう)が両方在ってよかったと思う。山口静の第二ラウンド進出。

休憩を挟む。休憩中は大谷能生さんのDJが鳴っている。場が暖まっている。

第2ラウンド、第1ブロック一番手は河野さん。
別の曲を披露してくれるとのこと。ゴミ袋をレジャーシート代わりに使い、みんなで車座になって、曲に耳を傾ける。タイトルは「A」。色々な楽器を弾く「誰か」の歌。音楽の可能性自体を歌い上げる。

河野

二番手、よしのももこ
ズボンについている人形を観客の一人に渡す。そしてまた、太極拳的なスイングの動きが始まる。あとで分かったことだが、人形のおじさんは岸田内閣の面々であるらしい。また、Tシャツにカラーでコピー用紙に印刷されたビルの画像が貼ってある。(最初僕はこれがオーバーオールかと思って、この第2ラウンドで気が付いた)スイングの動きが、第1ラウンドのときと微妙に違う。そして静止して、「ヤッホー」。繰り返すそのヤッホーの声はだんたんか細くなる。
ビルの服を着て体操し、か細い声の「ヤッホー」発話につながるというのは、スケール感が色々混在していてすごくよいと思う。政治家の小さな紙人形と、絶対に切れないぬいぐるみの包丁での切腹。

よしのももこ

三番手、手塚美楽。スマートフォンから流れる、剣の舞の曲とともに登場。さっきパフォームしたばかりのよしのももこが、ポテトチップス1袋を持って、手塚美楽から逃げ回る。客席の間を縫って、二人とも楽しそうであり、力の抜けた遊戯性が好ましい。よしのさんはいい役者だと思う。

手塚美楽

審査。河野さんの曲は「音楽を信じている感じが伝わってきてよかった」などと評してしまった。音楽への信頼をそのまま主題としているというのは、シンガーソングライターの王道だ。この3つも面白い組み合わせのパフォームだ。二番手のよしのももこの軽妙さは、実は政治への態度表明にもなっているのではないだろうか。そして三番手の手塚美楽であるが、「もしかして第1ラウンドでの赤ちゃんがこの第2ラウンドで成長して運動会に出ているのか?」ということに審査中気づいた。であれば、次どうなるんだろう、と気になったことが大きく、手塚美楽を決勝進出とした。

第2ブロック先攻、カキヤフミオ。自作の短編小説の朗読をスピーカーから流す。目の見えない人と耳の聴こえない人の二人組の話だ。大谷能生さんがサックスを吹く。合わせて踊る。カキヤさんの出で立ちは黒いサングラス、そのあとは布での目隠しとなり、視覚を遮断しているようだ。サックスは徐々にトーンを下げて、囁くような音色となる。カキヤさんの第2ラウンドのパフォームは、表現をする喜びが溢れている。ただもう少し余白があった方がよいかと思った。

カキヤフミオ

後攻、山口静。
トップスを一枚脱いだ。照明を暗くして、大谷さんの伴奏とともにスタート。床での動きが多いシークエンスから始まり、力強く緩やかな動きから、サックスの弾むようなメロディに導かれるように小さな動きの重なるシークエンスへ移行する。鍛えられたパフォームで、都会の夜って感じがして、いくらでも観られるのだが、それが「ピーッ」というホイッスルの音で幕切れになることもたくみちゃん杯の良さである。
第1ラウンドとは毛色の違う感じだが安定したショーイングで、山口静の決勝進出となった。

山口静

再エントリー枠。一番手。村上裕。
パンツ一丁で登場、持ち時間のスタートで間髪入れずラップを開始する。跳ねるようなフローとともに肉弾が、跳ねる。床にかがみ込むかと思うと次にはジャンプする。シャウトボイスからファルセットボイスへ、それが「見上げてごらん夜の星を」の曲になる。そこに大谷さんが先導してリズムを入れると、ステップがまた変調して、「打ち壊せ!パーティだ!」という爆発的な謎テンションで大団円を迎える。

村上裕

二番手、羽鳥直人
みんながなりたいもの、モイスチャーマントヒヒになりたいって言ってる。
いろんな幻の動物みたいなものを名づけまくり、動きまくる。これは強い酒を片手に3時間ライブで観たい。

羽鳥直人

三番手、酒井風
とまどいながら始める。メロディー的な発生から、次第にサックスの音と同期して言葉を紡ぎ出すようなアプローチである。何かを探すような目線と呼吸は、苦しさを感じさせもした。楽器と言葉のぶつかり合いは面白い。

酒井風

四番手、LICCA 
この再エントリー制度は、大谷さんのサックスとの出会いの中で各出場者がなにをするかが見どころであった。LICCAは大谷さんに正面から対峙するポジション多めから、軽やかなステップで観客の方に近づいてきて「なんで私は「な」から始まる言葉が好きなんだろう、っていうのもなから始まる」からの一連の「な」から始まるフレーズを重ねる。そのあとは村上さんの機材ブースににじりよっていき、何かを機材に語りかけたり。円を描くように歩いたり。手はインド舞踊のようにも見える動きをコンスタントにしている。変化にとんでいて、見事4分間を使い切ったが観ていて飽きない。

LICCA

サックスの音は、金管楽器なので空気が爆裂するような存在感をだすが、二つの爆裂が屹立するような様が見事で、村上裕を決勝に進めた。

決勝ラウンド、一番手 手塚美楽
お菓子を3つ抱えて登場(カップ麺とポテトチップスとメロンパン)。スマートフォンからクラシック曲が流れる。1、2ラウンドとは打って変わった優美な動きで、3つのお菓子を床に配置する。まずカップ麺に行き、手をカップの縁に沿わせたりして戯れる。全ての動作は床に横座りをしたまま行っている。カップ麺は床に置き、最終的にはポテトチップスを慈しむように胸に抱いて、第1ラウンドからの「成長譚」が、ここに帰結する。

手塚美楽

二番手 山口静
決勝は、村上裕とコラボレーションして踊る。部屋を暗くしてスタート。椅子の上にゆっくり立ち上がる。村上さんのメロディーがキーボードから流れる。村上の旗を身体に纏っている。椅子から倒れるように降りて旗から出てきて、床を使って踊り、脚のバネを使い、手を掲げたり、また寝転んでコップをぐしゃっとつぶす。

山口静

三番手 村上裕
「大谷さん、またやらないっすか」と言ってコラボレーションが決まる(誘い方がカジュアル!)。今回すごい悲しい感じのをやりたいです、とオーダーしている。おもむろに服を脱いでパンツ一丁になる。腹太鼓を打つ。準備万端なようだ。
スタート。すぐにポエトリーリーディングを開始、戦争について。大谷さん、サックスとDJで合わせる。サックスの盛り上がりに呼応するようにコーラスをし、自然に四肢を揺蕩わせる。キーボードのメロディーが減速して止まり、また始まる。4分を歌い切り踊り切る。

村上裕

僕の最後の審査が始まる。手塚さんのパフォームはハッピーエンドなんだなあ、とこのときは思ったけど、今にして思うと本当にそうか?成長とともに失われたものも描いている。第3パフォームだけ少しあっさりしすぎていた気はする。でも良い作品だと思った。
山口さん。明るいところでやるともっと乾いた見え方になっただろうな、と。旗、椅子、床、コップ等を使いよくわからない動きをするのが、蛍光灯の光の下だとまた違う見え方になるだろう。これはこれで抽象的でよいが、第1ラウンドのシンプルなアプローチを繰り返してもよかったのではないか。
村上裕は圧巻の安定感だった。機材がびっしり組まれたローテーブルがもう一度ごろごろと出てくるのを個人的には期待したが、身一つのパフォーマンス、トイメンに大谷さん、はたいへん良かった。演奏者が両端から空間を挟み込むかたちだ。空間全体を音楽世界で包み込み、自分自身その中で踊るという形式の強度。これを、いつでもできる、つまり準備ができているという凄みが、やはりあるのだなあ。優勝は村上裕さんとさせていただきました。

巡り合わせの中でPARA神保町/美学校に集まって、くじ引きという巡り合わせで順番を決めてトーナメントを行う。一つ一つの出来事に意味がある。というか意味を見出してしまう。意味なんてないという解釈もときにはできるし有用だが、こうして言葉でわれわれは意思を疎通する以上、一つ一つの出来事に果たして意味は発生する。そしてある世界が立ち上がるのだろう。話をしたり音楽を聴いたり踊ったりするという、一見他愛もないことがやはり人にとっては幸せなことだ。



































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