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縁を活かす No.2473


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先生が5年生の担任になった時、

一人、服装が不潔でだらしなく、

どうしても好きになれない少年がいた。

中間記録に先生は少年の悪いところばかりを

記入するようになっていた。

ある時、少年の一年生のときの記録が目にとまった。

「朗らかで、友達が好きで、人にも親切。

勉強も良く出来、将来が楽しみ」とある。

間違いだ。他の子の記録に違いない。

先生はそう思った。


二年生になると

「母親が病気で世話をしなければならず、時々遅刻する」

と書かれていた。

三年生では

「母親の病気が悪くなり疲れていて、教室で居眠りする」

後半の記録には

「母親が死亡。希望を失い、悲しんでいる」

とあり

四年生になると

「父は生きる意欲を失い、アルコール依存症となり、

子供に暴力を振るう。」

先生の胸に激しい痛みが走った。

ダメと決め付けていた子が

突然、悲しみを生き抜いている生身の人間として、

自分の前に立ち現れてきたのだ。


放課後、先生は少年に声をかけた。

「先生は夕方まで教室で仕事をするから、

あなたも勉強していかない?

分からないところは教えてあげるから」

少年は初めて笑顔をみせた。

それから毎日、少年は教室の自分の机で

予習復習を熱心に続けた。

授業で、少年が初めて手を上げたとき、

先生に大きな喜びが沸き起こった。

少年は自信を持ち始めていた。


クリスマスの午後だった。

少年が小さな包みを先生の胸に押し付けてきた。

後であけてみると、香水の瓶だった。

亡くなったお母さんが使っていた物にちがいない。

先生はその一滴をつけ、夕暮れに少年の家を訪ねた。

雑然とした部屋で独り本を読んでいた少年は、

気がつくと飛んできて、先生の胸に顔を埋めて叫んだ。

「ああ、お母さんの匂い!

今日は素敵なクリスマスだ」

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毎年この時期にお届けしているお話です。

相田みつをのこの詩が思い起こされます。

『だれにだってあるんだよ

ひとにはいえない くるしみが

だれだってあるんだよ

ひとにはいえない かなしみが

ただだまっているだけなんだよ

いえばぐちになるから』


そんな悲しみをお互いが慮りながら、優しさに溢れる世になることを願って。


このお話の全文が載っている『心に響く小さな5つの物語』(致知出版社)がお薦めです。

https://online.chichi.co.jp/category/BOOK/872.html


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