優しさ No.2297


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文字職人をやっていて強く思うのは、「元気のない人に元気の出る書を届けたい」と言うことです。

ある時、看護師をやっていた妻のつてで、難病と闘う子供たちに文字を贈るチャンスをもらったことがありました。

でも、命と必死に向き合っている彼らに軽々しいことは言えません。

「何を書いたらいいんだろう」とすごく悩みました。

訪れた病室にはツヨシくんと言う男の子がいました。

お母さんが出迎えてくれましたが、彼はずっと僕に背を向けていました。

「ツヨシくん、おじちゃんな、字を書いて元気になってもらおうと思ってきたんや」と話しかけると、

ツヨシくんは「おじちゃんが字を書いて僕の病気が治るのか」と言い放ちました。

すごくつらい気持ちになったんですが、そこでそばにいたお母さんがびっくりするくらい怒ったんです。

「なんてこというの!せっかく来てくれているのに!」と言って、お母さんはものすごく取り乱した様子で出て行ってしまいました。

僕はどうしようもなく「ツヨシ君、ごめんな」と謝りました。

するとツヨシ君が「違うよ、本当に僕を元気にしにきてくれたんならお母さんに字を書いてよ」って言ったんです。

「お母さん、僕が病気になってから笑わなくなっちゃったんだ。だからお母さんを笑顔にしてほしいんだよ」と。

僕、涙が出そうになりました。

「よし、じゃあお母さんのこといろいろ教えてよ」とツヨシ君に聞きながらお母さんに宛てた書を色紙に書いて、届けに行きました。

お母さんはナースセンターの横のソファーに座っていました。

僕に気づくと立ち上がって、「杉浦さん、このたびは本当にすみません。わざわざ来て下さったのに」とおっしゃいました。

「いやいや、お母さんこそ大変でしょう。

でもツヨシ君、お母さんの笑顔が見られなくなっちゃったのが一番つらいみたいです。

だからこれをもらってくれませんか?」

そう言って、僕が心を込めて書いた色紙を渡しました。

するとお母さんはボロボロ泣きだして、「ありがとうございます」と病室に戻っていきました。

帰り際にその病室をちょっと覗いてみると、ツヨシ君とお母さんは泣きながら抱き合っていました。


杉浦 誠司

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日本講演新聞(旧みやざき中央新聞)2020年3月16日号からのご紹介です。

先日もご紹介した杉浦さんがたいけんされたストーリーです。


病気になったことはつらいけど、

家族の笑顔が消えることも自分のせいになってしまうことはもっとつらいですよね。

ツヨシ君の優しさに心が洗われます。

今、少なからず健康であることに感謝したいと思います。


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