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その辺にありそうなフィクション8「楽しみにしていた予定がなくなってしまった有休」

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有休の吉祥寺。つまりは平日の吉祥寺。それでも若者が多くいるこの街は土日ほどではないにしろそれなりに賑わいの雰囲気をまとっていた。

——そういえば一人でくるのは初めてだな。昔の恋人と来て以来だ。

古着やカフェ、そしてサブカル系統の諸々が好きだった昔の恋人は、音楽とか映画とか、私にたくさんのことを教えてくれた。
私も音楽や映画は元から好きだった。けれど自分で探究するようなタイプではないので今の私の知識は昔の恋人からの受け売りも多い。

そんな昔の恋人はサブカル好きの例に漏れず下北沢やら吉祥寺あたりの街が好きな学生だった。なので自ずと私も昔の恋人と付き合っていた頃はそれらの街に行く機会がわりとあった。
とはいえ改めて振り返るとそこまでの回数でもない。けれど、こうやって久しぶりに吉祥寺に来てみるとなんだか懐かしいなと思え、少ししみじみとした気分になった。

といっても私だってまだ二十三歳。再来月には二十四歳になるけれど、それでもまだまだ自分だって若者の部類だろ、と自分にツッコミを入れておセンチモードになりかけた心を正した。

そもそも今日は昔の恋人との思い出に浸るために家から遠い吉祥寺にまで来たわけではない。
今日の目的はハンバーガー。
今日は有休を取っていたけれど一日何も予定がなかったのでハンバーガーを目的に吉祥寺へと足を運んでみた。
そのハンバーガーは私の好きなアーティストがSNSで写真をアップしていて、それがとても美味しそうだったので前から食べたいものリストに入れていた。

私は好きな食べ物を聞かれたら迷わずハンバーガーと答えるくらいハンバーガーが好き。
マクドナルドやモスバーガーなどのチェーン店のハンバーガーもそれはそれで好きだけれど、私が特に好きなのは所謂グルメバーガーのこと。
肉厚なパティに濃厚なチーズ、シャキシャキなレタスに芳醇なトマト。それらを基本にお店個々にこだわり抜かれたソースや具材を交えつつ、最適なバンズで挟む。それを一口ほおばるとそれら具材たちが徒党を組んで最高の美味しさを口いっぱいに充満させる。こんなにも魅力的な食べ物が他にあるだろうか?と、語り出すと止め処なくなりそうなほど、私はハンバーガーが好き。
それにグルメバーガーの魅力はハンバーガー自体だけではないとも思っている。どのグルメバーガー屋さんも店の外装内装ともにすごくイケてる雰囲気のところばかりで、そんな店で過ごしていると自分自身も少しオシャレになった気分になれる。
——だからきっとこの気分だってオシャレに塗り替えられるはず。

もともと今日は予定があり、そのために有休を取った。しかも今日だけではなく、今日から明後日までの三日間も。

私は今日のために二ヶ月前には有休申請を済ませ、仕事を調整したり前倒したりと色々やりくりしてきた。けれどそういう積み重ねは崩れるのは本当に一瞬だと今改めて実感している。

本当は今頃、吉祥寺の比にならないくらい遠く、初めて行く場所で三日間過ごすはずだった。
けれど手元のGoogleマップはそれなりに馴染みのある吉祥寺を表示している。

—完—

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