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「酔って候」より

維新後は、官を辞し、ひたすらに飲み、連日、新橋、柳橋、両国の酒楼に出没して豪遊し、ついに家産がかたむきかけたが、「むかしから大名が倒産したためしがない。おれが先鞭(せんべん)をつけてやろう」と豪語して、家令の諫めをきかなかった。
詩がある。
蛇足だが、つけくわえたくなった。
昨は橋南に飲み、今日は橋北に酔ふ
酒有り、飲むべし、吾酔ふべし
層桜傑閣、橋側にあり 家郷万里、南洋に面す
眦(まなじり)を決すれば、空闊、碧茫々(そらぼうぼう)
唯見る、怒涛の巌腹に触るるを 壮観却ってこの風光なし 顧みて酒を呼べば、酒すでに至る、快なるかな、痛飲放恣を極む 誰か言ふ、君子は徳行を極むと 世上解せず、酔人の意 還らんと 欲すれば 欄前燈(らんぜんともしび)なほ明らかに 橋北橋南、ことごとく絃声
この酒徒の生涯は、明治五年、四十六歳でおわっている。
多年の飲酒による脳溢血であった。

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