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転売はなぜ批判されるのか

転売がよく批判を受けている。
人気アイドルグループのライブのチケットが正規価格の何倍もの値段で売買され、運営側が本人確認の厳格化など対応に追われている。
また新型コロナウイルス関係ではマスクの転売が横行し、ついに法律で規制がなされるほどの社会問題ともなった。

今回は転売がどうして問題になるのか、批判されるのかについて考えてみたい。

経済学のごくごく初歩的な定理によれば、需要が高まると商品の価格は供給量との均衡点まで上昇する。
つまり元の価格が500円のマスクでも、5000円で買いたいという人の人数とマスクの個数が一致してしまえば5000円が市場価格となると言える。マスクの転売を行う人(=転売ヤー)は市場価格でマスクを売っているのだから批判される道理はないはずだ。

また、ライブの運営会社やマスクの製造業者にとってみても、チケットなり商品は定価で全て売れているのだから、その後転売ヤーがいくら儲けても自分たちの利益は変わらない訳で、関係ない問題とも言える。

だが現実問題として転売ヤーは世間から強く非難されている。

転売の何が悪いのか?

なぜ彼らは批判されるのか。
実際のところ、転売ヤーが批判されているのは”転売という行為”そのものではなく、転売という行為によって”不当な利益を得ている”ことなのかもしれない。

では、不当な利益とは何か。
私は”社会の倫理に反する事業で得た利益”ではないかと考えている。

では社会の倫理とは何か。どんな事業であっても慈善事業や道楽でない限り、究極の目的は生活していくためのカネを稼ぐことだ。しかし、本音と建前の使い分けが求められる社会においては、カネを稼ぐための建前が必要となる。この建前は事業によって様々であるが、大体は社会においての価値を創造するであったり、社会貢献、社会発展などだ。つまり社会の倫理とはこれらの建前でカネを稼ぐという究極目的を包み込むということになる。この建前があるからこそ、事業で利益を出し、その利益で暮らすことが社会から認められる。

しかし、転売にはそのような建前は存在しない。
あるのは「安く仕入れたものが高く売って儲ける」という本音だけだ。
だから社会から認められず批判を受けるのだ。

本音を言えば誰だって建前を使わずにカネを稼いでいい暮らしがしたい。
でも社会に納得してもらわないと何かと不便だからそれっぽい建前を作り、社会に貢献しているように見せているのだ。

その意味では転売ヤーは建前という檻に囚われずに稼いでるという意味で世間から嫉妬されているとも言えるかもしれない。
「アイツら、こちらが建前取り繕う苦労も知らないで楽して稼いでやがる」
みたいな感じで。

社会から認められる必要はあるのか?

では、社会から納得を受けること(=社会の倫理を守ること)は必要だろうか。個人的には自分が気にならないなら社会から納得されなくても構わないのではないかと思っている。しかし社会の倫理を守らないことによる不利益を被る可能性は否定できない。

例えば法律で規制を受けたりして、事業がある日突然継続不可能になってしまう可能性がある。社会の倫理に反する事業に対して社会は厳しい。古くはダフ屋が法律で規制されて消え、マスクの転売が規制されるようになったように…

また、自己の尊厳も問題になりうる。サラリーマンだと自己紹介するのと、転売を生業にしていると自己紹介するのでは人の印象は全然違うはずだ。今まで仲良くしてくれていたのに転売ヤーだと分かってから疎遠になってしまうなど、社会で陽の光を浴びながら生きるのがなかなか難しいかもしれない。自分の本当の仕事を隠して生きていくのか、転売ヤーだと公言して、それでも付き合ってくれる人だけと付き合っていくのか。どちらにしろ拒絶される可能性があるというのは悲しい。

これらはあくまで気になる人は気になるというだけで、それが不便だと思わないような人にとってはどうでもいいことだろう。自分が良ければそれでいいという人は好きに生きればいいと私は思う。

転売が社会に認められる可能性

また、転売であっても社会の倫理に反しないやり方もあると私は考えている。それが以下のような場合だ。

①利益を得ることが目的ではない場合
 転売の本来の意義とも言えるが、例えば不要になった品物があって誰か別の人が生かしてくれるなら売ってしまいたいという場合だ。自分で使わないものが他人の元で活躍できるというお題目ができる。この場合においては送料や梱包費、ちょっとしたお茶菓子代くらいを価格に含めても文句は言われないだろう。

②新たな価値を付け加えた場合
 これを転売と呼ぶかは微妙なところだが、例えば古着屋で安く仕入れたワンピースにワッペンを付けて販売するみたいな形だ。この場合は価値が低いものに手を加えて新たな価値を創造したというお題目ができる。アレンジの比率が高まればリノベーションだ。

私は転売の全てが悪いとは思わない。ただ、転売で売られているチケットは買わないし、不当に値段が釣り上った商品を買うのも馬鹿馬鹿しいと思うだけだ。イベントの主催者が転売をやめろというならやめた方が良いし、特に何も言ってこなくて買ってくれる人がいるというなら好きにすればいいと思う。

人がどのようにしてカネを稼ぎ、生活を維持していくかは、その人の人生そのものとも言える。自分を社会の中でどんな立場に位置付け、生きていくかはその人次第だ。ぜひ自分が納得できる生き方を見つけてもらえればと思う。

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