CITY1について

 アリーナ級の会場を揺さぶりながら消費されてしまったサウンドとは別に、ダブステップは今もコンクリートで囲われた地下のダンスフロアで新しい血を受け入れながら進化を続けている。昨年、Dave Jenkinsが「UKダブステップ:復活の背景」というレポート(http://bit.ly/redbull-dubstep)の中で「新世代のプロデューサーたちはこれまでとは異なるビートやベースに影響を受けながらユニークなトラックを生み出しており、ウェーブミュージック、ガラージ、トラップ、ハーフタイム、グライムなどが、ダブステップのエナジーとフォーカスを活性化させている」と記していたことが、ここ日本の各地でも目に見えるようになってきた。

 この半年の間に、ダブステップの「復活」に大きな貢献を果たしている3つのレーベル、Gourmet Beats、Trusik Recordings、Subaltern Recordsからリリースを続けた日本人クリエイターを知っているだろうか。Goth-Trad率いるパーティBack To Chillを中心にDJとしての活動もしているCity1を紹介しよう。

 アメリカでラジオDJも務めダブステップ界ではレジェンド的存在のJoe Niceが主宰する、Gourmet Beatsの21作目として4月にリリースされた『Tribal Connection EP』は、ダブステップのイメージを越え、よりニュールーツに寄ったダブや、ジャングル的な躍動感をテッキーに表現したような曲など、彼のバックグラウンドの幅広さを聴かせてくれた。
ブログとして2010年にスタートし、多くのインタヴュー記事やテキストでダブステップをサポート、2015年からレーベルもスタートさせたTrusikからは、7月に『Buluu』をリリース。ヘヴィなビートとベースに、サイバーな音空間や神秘的なサウンドを編み込んだ。
 オンラインでベルリン〜ロンドン/ブリストル〜パリ〜ハンブルグで繋がるSubaltern Recordsからは、8月に『Speak Out EP』をリリース。この3作の中では最もダブステップの王道に近い3曲入りで、タイトル曲にはブリストルを中心に活躍するラッパーであり詩人Rider Shafique(11月に来日決定)が参加している。

 2011年に沖縄から上京し、国内コンピレーションやJ.A.K.A.Mのリミックス・アルバムに参加。ミュージシャンだった両親の影響で沖縄古典舞踊の太鼓を習い、トライバルへの憧れや低音に対する嗅覚を無意識に培ってきたというルーツを持ち、沖縄のチャンプルー文化を意識しながら独自のサウンドを模索してきたCity1。短期間に3つの海外レーベルからヴァイナルをリリースするのは単なる偶然か、それとも幸運なのか——City1に話を訊いてみた。

 「Gourmet Beats、Trusik、Subaltern以外にも、気になったレーベルには、5年くらい前からデモを送っていました。Trusikはレーベル側からSoundcloudや各国のDJがFMでプレイしてくれたダブを聴いてオファーが来たんです。ただ、当初から現場ではプレイしてくれてたのですが、具体的なリリースの話は特に無かったので、ちょっと諦めかけてた時期もあったのですが(苦笑)その後も、納得のいく曲を作っては送ってを繰り返していたら、昨年、各レーベルから『サインしたい』と一気にオファーをいただきました」という。
 ネットによくあるアドバイスで「デモは厳選した数曲に絞った方が良い」という点について、彼は「30曲くらい、納得いく曲をまとめて送りました」とあっさり答える。「好きなDJやレーベルに、Dropboxでまとめたリンクを送ると割とみんなチェックしてくれます。DJだとラジオで4〜5曲くらいプレイしてくれたりもするので、作曲は幅を意識しつつ」。また彼の場合は、Goth-Tradが海外でCity1の曲を何度もプレイしていることもアピールに繋がっているだろうと言う。「リリースが決まるまで、レーベルにはデモをしつこく何度も送りました(笑)。そのやり取りで特に感じたのは、打ち続けられる情熱があるか、スタミナを試されている雰囲気は常にありましたね。実際に会わずにサインすることになるので、本気の熱があるか無いかは試されている感じはしました」。
 リリース時期は、各レーベルの進行状況をふまえつつ連携をとりながら適度な間隔を開けて決定したそうだが、3作での曲の割り振りはどのようになされたのかを質問すると「各レーベルの反応を見たかった事もあり、特に色分けはせずデモを全部送りましたが、リリースしたいという曲は被らなかったです。レーベルのセレクションを見て、逆に『なるほど』と感じたところです」。
 チャンスを奪い合うわけでなく、自身のポリシーを頑に守りつつ互いのカラーを尊重して連携するのは、ダブステップ・シーンが今なお面白く、そして力強く続いている理由でもあるだろう。また、彼が各レーベルから「ユニークなサウンドだねと言われた」通り、bpm140前後でヘヴィなベースを土台にした“何でもあり”なダブステップの自由さが、この3作のリリースで証明されているように思う。
 連続リリースで注目を集め、現在では他レーベルからのオファーも格段に増えているという。この先は「あるアーティスト主宰レーベルのコンピレーションに参加するので、近々アナウンスがあると思います。アルバムも年内に仕上げられるよう進めていて、内容はダブステップではないのですが、それを通過したダイレクションにはなっているので、また別の一面を楽しんでいただければ」とのこと。

 また、日本のシーンについては「国内でも世界基準の動きをしているDayzeroとKarnageのレーベルVomitspitや、Back To ChillクルーのHelktramやMøndaigai、そしてBS0xtraクルーなど、次世代のリリースや活動が活発化している状況に対して、ダブステップがメインのイヴェントが少ないと感じているので、各地とも連携して何か出来ないかと思案中」と、まずは日本国内の状況を活性化させることが重要だと強く話してくれた。それにはクリエイターやDJだけでない、シーンとなるべき全体でのサポートとユニティが必要だ。筆者のようなライター、メディア、イヴェンター、ヴェニュー、カメラマンやデザイナー、その裏方まで……。そして、これを読んでいるあなたの参加も希望したい。興味のある方はCity1にメッセージを送ってみてほしい。


CITY1
soundcloud : https://soundcloud.com/djcityone
bookings : city1dubstep@gmail.com
Instagram : https://www.instagram.com/city1dubstep/
Facebook : https://www.facebook.com/DJCITY1


※web『ele-king』寄稿文
http://www.ele-king.net/columns/007105/

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