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アンテ2連覇!新時代到来の予感。

金色の紙吹雪の中、Wリーグ優勝杯を両手に掲げたのはこの日を最後に引退するトヨタの三好選手でした。

その三好選手は試合直後のコート上でのインタビューに優勝の場に相応しく「最高のバスケット人生でした!」と声高らかに語られました。
アリーナにいた私も自然と笑顔が溢れました。



4月16日(土)、17日(日)代々木第一体育館で行われたWリーグプレイオフファイナルではトヨタ自動車アンテロープスと富士通レッドウェーブの対戦となり、トヨタが第1ゲーム74-69、第2ゲーム87-71と連勝して昨年に続いてWリーグ女王に輝きました。

富士通はWリーグのレギュレーションにより敗戦が3敗でトヨタの2敗に続いて少ない負け数なのですが、不成立試合が4試合あるため勝ち点でレギュラーシーズン5位となりプレイオフではセミクォーターファイナルからの登場で日立ハイテク、トヨタ紡織、そして皇后杯の覇者ENEOSを破ってファイナルに勝ち上がりました。

一方トヨタはセミファイナルで勢いのあるシャンソンを退けてのファイナル進出です。

長年君臨してきたENEOSのいないファイナルで、ディフェンスからのトランジションバスケットを展開する富士通と強力インサイド陣を擁しリバウンドで優位を持つトヨタとの対戦は見応えがありました。
そのWリーグファイナル2連戦の戦術の検証をしたいと思います。

第1ゲーム。富士通のトヨタ対策


Wリーグプレイオフファイナル第1戦は富士通がトヨタ攻略はこうして実践するんだというお手本を見せてくれました。    

トヨタは今シーズンここまでエブリン、ステファニー、長岡、河村そしてルーキーのソハナという高さとフィジカルの強さを兼ね備えた優秀なフォワードがインサイドとリバウンドを支配することで試合を有利に進めてきました。外からは 3ポイント成功率51.95%のシューターの三好がいてポイントガードにはシュート力とハンドリング能力に優れた山本がいます。オフェンスの基本はインサイド、リバウンドにありますが外郭のシュート決定率が高いため対策しにくいチームです。



一方ディフェンスはマンツーマンでスクリーンに対してオールスイッチで対応してローテーションをしています。
スイッチディフェンスはズレが少ない利点がある一方でミスマッチができやすいという欠点もあります。

このトヨタに対して富士通はディフェンスでは山本や三好に対してパスを入れさせないようにディナイして守り、インサイドのソハナや長岡にボールが入るとダブルチームで守るようにしていました。そのためトヨタはオフェンスでボールが回らず攻めあぐねる場面が多くありました。



また、リバウンドでもボックスアウトを徹底していました。高さで劣る富士通はトヨタを相手にこの日のリバウンドは37本(OR 7本DR 30本)。対するトヨタは38本(OR7本DR 31本)と互角に渡り合っています。
トヨタは富士通に対してリバウンドの優位性を活かせていなかったのです。

さらに、トヨタのスリーポイントもこの日5/17本(29.4%)です。レギュラーシーズンのスリーポイントの平均が7.8/20.7本(37.4%)ですからしっかり守れていたのかもしれません。
しかし確率の悪かった原因はディフェンスだけではなかったかもしれません。富士通もこの日スリーポイントが4/21本(19%)で入っていないからです。



ファイナル初日のこの日、ゲーム序盤は両チームとも外のシュートタッチが不調でした。緊張感でシュート確率を落としていたかもしれません。

レギュラーシーズンより代々木第一という大きなアリーナで行われていることや5550人の観客の中での決勝戦という雰囲気に慣れなかった可能性は否めません。

富士通のオフェンス


さて、富士通はオフェンスでディフェンスリバウンドやエンドインバウンス、ターンオーバーから速攻でも得点しています。

さらにハーフコートオフェンスではピックをしてトヨタにスイッチディフェンスをさせてソハナなどのビッグマンと町田や篠崎とのスピードのミスマッチを利用してオフェンスを作っていました。



第1クォーター残り6分27秒
富士通は5アウトのアライメントです。
トップ篠崎、左コーナーに内尾、ウィングオコエ、右コーナー町田、ウィング宮澤でした。
トップ篠崎は右サイドに寄って宮澤のピックを受けてドリブルします。三好からスイッチしたソハナが付いてきたらリトリート(ドリブルして下がる)してソハナを釣り上げます。スクリーナーの宮澤は右ローポストにロールします。左ウィングオコエは篠崎のリトリートに合わせてトップに動いて篠崎からのパスを受けるように見せます。
トヨタディフェンスは篠崎にソハナ、オコエにエブリンがつき、右ポスト宮澤には左コーナーを守っていたステファニー、篠崎についていた三好は遅れて遠いサイドの内尾にローテーションしました。

この時、左サイドにスペースができました。

篠崎は左ウィングにリフトした内尾にスキップパス、さらにトップ左手に移動して内尾とのパス交換からスピードのミスマッチで左トップからソハナを抜いてドライブ、ヘルプに来たエブリンのファウルを誘ってレイアップ、エンドワンです。
9-4。富士通がペースを掴かみました。

また、富士通の町田は篠崎のカールカットにパスを通したり、宮澤と合わせのパスを出したりと持ち前のパスセンスで富士通の得点を演出します。

第2クォーター残り1分4秒
左コーナーでボールを持つ町田はマークの山本をフェイント一閃エンドラインドライブを仕掛けます。そこに逆サイドからミドルラインをカットしてきた宮澤にバウンズパス。宮澤のシュートが決まります。これぞルイ-アース。
前半41-31

トヨタの反撃、勝負の綾


第3クォーター終わってトヨタは54-61で7点ビハインドでした。

前半のオフェンスではスリーポイントとペイント、リバウンドでも富士通に後手を踏んでいましたが、それでもソハナのミドルレンジ、特にエルボー、フリースローラインからのシュート決定率は高く、また、ステファニーがハイポストで受けてディフェンスをクローズアウトさせてからソハナがバックドアを狙うハイローは効果的に決まっていました。



第4クォーターからトヨタはディフェンスのマッチアップを変えました。ポイントガードの町田にブロック王ステファニーをつけたのです
3X3でオリンピックを経験している彼女ならば町田のアジリティについて行けます。そして起点の町田を抑えることで富士通がトヨタのスイッチディフェンスを利用することによって作ってきたオフェンスのリズムを崩すことに成功しています。

第4クォーター最初の富士通の攻撃は町田のジャンパーをステファニーがブロックしています。そこからアーリーオフェンスからソハナとステファニーの合わせによってトヨタが得点しています。反撃の始まりです。

ソハナのミドルと山本の3ポイントでトヨタが追いついた後は一進一退が続きます。

そこから先に抜け出したのは富士通でした。残り4分28秒のオコエのポストプレーから得点して67-69です。

ところが富士通は勝負どころでミスが出てしまいます。

続いてオコエのスティールから得意の速攻に持ち込みますが2対1のアウトナンバーから町田がこれを落としてしまいます。



さらにサイドインバウンズからオコエのダウンスクリーンを使って左コーナーから篠崎が上がりパスを受ける→トップの町田→左ハイポストオコエ→左ウィングからカッティングした篠崎にオコエの絶妙なパスからレイアップを狙いましたが篠崎がドリブルミスしてボールを蹴ってしまいました。

点差が動かないまま富士通のタイムアウト明け残り1分45秒、トヨタ山本が3ポイントを射抜きました。70-69

1点差、町田はドライブからフリースローを得ますが2本外してしまいます。

レギュラーシーズン90%を越えるフリースロー成功率を誇る彼女でも焦りがあったのかもしれません。

最後は山本のドライブからバスケットカウントを得てトヨタが価値ある初戦をモノにしました。74-69

第2ゲーム。ソハナ、山本の躍動

翌日の第2ゲーム、トヨタはストロングポイントのリバウンドを活かすことができました。
ペイントで2枚ついてくる富士通ディフェンスに対してハイポストのソハナがマークが緩いエルボー、フリースローラインでペリメーターシュートを狙い、外の3ポイントをセットプレーから積極的に放ち、インサイド陣がリバウンド、セカンドチャンスを担うというトヨタにとって良いバスケットが展開できました。



一方で富士通は早い段階で宮澤、オコエがファウルトラブルとなり、リバウンド、インサイドで体を張れなくなったことがゲーム運びに大きく影響を与えました。

トヨタはホーンズセットから3ポイントを狙うオフェンスを展開することが多かったように思います。

第1クォーター残り17秒
トヨタの攻撃、左サイドトップに山本、ホーンズ左エルボーにソハナ、右にステファニーです。ステファニーが山本にピックに行きます。ソハナは右ローポストに移動しスペースを空けます。山本は右エルボーにドライブ、ステファニーは左ウィングにポップします。山本からのキックアウトパスが通ってステファニーのオープンスリーが決まりました。トヨタの19-14



トヨタの得点源のひとつはソハナのミドルシュートです。特にハイポストからシュートアテンプトがよく決まりました。驚くほどのルーキーの成長です。ステファニーのローポストからハイポストのソハナに入れるハイローならぬローハイが有効でした。

そしてもうひとつの得点源が山本の3ポイントです。この日は4/5のは高確率でした。

第2クォーター残り3分18秒、2分54秒
ステファニーのオフェンスリバウンドからキックアウト
山本の左ウィングから3ポイントメイクしました。
続いてディフェンスリバウンドからアーリーオフェンスで三好から左山本→左ローポストエブリンに繋いでトレイルして(遅れて)トップに来た三好にエブリンからキックアウトして現役最後の3ポイントを沈めました。

富士通のファウルトラブル


このゲーム第2クォーター残り4分で宮澤が3つ目のファウルを犯し、しばらくコートから出てしまいます。
また、オコエは第3クォーター残り2分で町田とのピック&ロールでダイブした時に長岡と接触してしまう不運(だと思う)で4つ目の笛を吹かれてしまいます。

富士通は第3クォーターで13点差あった点差を9点差まで詰めたのでインサイドの宮澤、オコエの2人のファウルトラブルはディフェンスにおいてもオフェンスにおいても大きな足枷となってしまいました。


今後のアンテロープスに期待


トヨタは第4クォーターエブリンのバスカンの後、残り9分にはオールコートプレスを成功させそこから4連続得点と11-0のランで富士通を引き離しました。

これが大舞台での経験の違いなのでしょうか。
ゲーム1で勝負どころでミスを犯した富士通に対して、隙と見れば果敢に攻めきるトヨタのゲーム2でした。

この連戦で強いトヨタ自動車アンテロープスを目撃しました。2連覇達成。



三好は引退しましたが今シリーズ活躍した山本、ソハナはまだまだ若く、伸びしろもまだまだあるように見受けられます。

新しい時代の幕開けなのか?

今後のアンテにエールを送りたいと思います。



photos by ちとからぁ

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