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彫刻刀が刻む戦後日本 展

町田の版画美術館で開催中の、日本の戦後の民衆版画に関する企画展を見にいった。町田は7年ぶりぐらいになるかな。

展覧会途中、初めて聞く人物の名前が多く、正直少し飛んでしまったところもあったが、それは細かい資料が並んでいたからで、調査に力を入れていたのだなと思った。なかでは最初の中国木版のところと最後の全国の子どもたちが学校で作った版画がたくさん並んでいるところがよかった。引退あるいは現役の学校の美術の先生などはみんな見に行ってほしい。

日本の多くの人がそうであろうが、私も子どもの頃に学校で版画を作った。マイ彫刻刀セットを持っていた。図工室で、木の板を渡され、先生から注意を聞いてから、ひたすら木の画面と格闘した思い出がある。出来はひどいモノだったと思うが、木を削り、インクを乗せて、ばらんでする、という動作や匂いが記憶に染み込んでいる。子どもの頃の版画体験は確実に自分の版画好きにつながる。そんな私にまで少し繋がる版画、彫刻刀の流れが、元々は中国木版に辿れ、そして同時代の学校の中には素晴らしい大作を作り上げていたところがあったことを知った。

娘も日本の小学校時代、面白い木版画を作ってきている。アメリカに住んでいた時、娘の学校の美術授業のアシスタントボランティアに入っていた。授業はとても面白かったが、気づいたのは日本とは異なり、学校で版画を扱っていなかったことだ。なので、日本の学校での版画授業について少し興味があった。

中国木版から民衆運動、そして教育現場での版画普及活動。私が学校で版画を作るまでの道のりにはさまざまな出来事があったことを知った。展示室は木版が飾られているので白と黒という静かなトーンで、華やかさはあまりない。しかし最後の部屋にあった白黒の大画面の大作シリーズには見入った。作品のストーリーを読み取ろうと、つい入り込んでしまった。

この町田の美術館は、わたしの中では特殊な美術館で、「特別枠」。なぜかというと、世界でも珍しく版画のみを扱うからだ。油彩、水彩などや立体は扱わず、版画に限定されているのに、展示室では毎回その世界の深さと広さを改めて感じることができる。ドイツやイタリアの古い版画から、現代の日本のものまで。一階の版画工房も広く、カフェはテラス席もついていて、メロンソーダ、ぜんざいなど居心地が良い。個人的には調査もしたいので、公開図書室があったらいいのですが。前から気になっている作家や動向について、調べたい欲が少し湧き上がってきた。消しゴムハンコも、探し出してみるかな。


等々力緑地が画題!
入口。梅雨の合間。
最後の部屋にあったこのシリーズが圧巻。世界観が強く、入り込む。