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マンチェスター・ユナイテッド CB考

1 はじめに

昨今のサッカー界は毎日のように戦術的変容を続けており、「昨日の常識は今日の非常識」とでも言えるような様相を呈している。昔は概ね20年周期でパラダイムシフトが起きるとも言われていたが、時代は変わったようだ。

そんな中で、CBの役割も変わりつつある。昔はサイズがあって屈強な選手が、ゴール前に来たボールをひたすら跳ね返すのが「CB」像だった。それが今では長短織り交ぜたパスで相手のプレスを回避し、中盤や前線にピタリとパスを通さないといけない。加えて背後の広大なスペースをカバーするスピードも不可欠な要素であり、以前と変わらずサイズと屈強さも必須だ。もはやスーパーマンのような選手でなければ務まらないポジションになってきた。

で、本題だが、愛するマンチェスター・ユナイテッドは今夏市場の補強においてCB関連の噂が絶えない。この文章を書いている時点ではレニー・ヨロの獲得が決まった状態だが、ジャレット・ブランスウェイトやマタイス・デ・リフトの噂が出ている状況だ。一時は獲得間近だと思われていたトディボなど、他にもいくつかの噂がネットをざわつかせてきた。

そこで今回は、「こういうCBが必要なんじゃないか」という私見を、個人的イメージを踏まえつつ文章化してみた。

♪夏だから〜 やっちゃおう!

2 現状

※ラストに「まとめ」あり

「こういう選手が必要だ」という話をする前に、現状をチェック。

この文章を執筆している時点で、CBの陣容は以下の通りとなっている。(アカデミーは一旦除外)

Jonny Evans (Norhtern Ireland/36歳/右利き)
Harry Maguire (🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿/31歳/右利き)
Victor Lindelof (🇸🇪/30歳/右利き)
Lisandro Martinez (🇦🇷/26歳/左利き)
Leny Yoro (🇫🇷/18歳/右利き)

加えてCBに対応可能な選手は以下2名。

Casemiro (🇧🇷/32歳/右利き)
Luke Shaw (🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿/29歳/左利き)

これら7名を並べた時、気になる点が2つある。
・中堅世代が少ない
Evansは言わずもがな、MaguireもLindelofも30代。Lichaを飛ばして次が18歳のYoroという組み合わせでは、流石に年齢構成に不安がある。30歳を超えたベテラン勢にフル稼働を強いるには負傷の観点から不安があり、Lichaも思ったより怪我が多かったことを踏まえるとフル稼働は計算できない。Yoroはまだ体が出来上がっていない状況であり、フル稼働させると今後の成長を阻害する恐れがある。
これらを踏まえると、怪我が少ない22〜28歳程度のCBが欲しい。戦力として計算できる上に1年間フル稼働を期待可能な選手が、今のユナイテッドには足りていないのだ。
・本職の左利きCBが1枚のみ
現状左利きのCBがLicha、本職ではない選手を含めてもShawのみが対応可能という状況。枚数が足りていないのは明白だ。
そもそもShawは左SBの一番手であり、Malaciaが怪我から復帰したとはいえ、左SBは層が薄い。右SBの一番手であるDalotが左SBにも対応可能ではあるが、Wan-Bissakaが移籍濃厚な情勢ではDalotを左SBとして計算することは難しい。
実際、左CBに左利きを置かないといけない訳ではなく、EvansやLindelofも右利きながら左CBは対応可能だ。それでも、より後ろからパスを繋いで攻撃を組み立てたいのであれば、左CBに左利きを置ければベター。Lichaの控えとなり得る左利きCBは欲しいところだ。

ここまでは現状の陣容が変化しないと仮定した場合だが、放出オペレーションが進んでいけば状況は変わる。
本職CBで2024-25シーズンも残留が決まっているのはEvans/Licha/Yoroの3枚。MaguireはEverton、Lindelofは🇹🇷行きの噂が出てきており、恐らく両名とも放出確定だ。
CB対応可能な2枚についても、Casemiroは🇸🇦行きの噂が高まっている。€3000万程度の移籍金という話まで出てきており、キャッシュ創出が不可欠な状況では彼の放出はクラブとしても既定路線だろう。

筆者は常々、CBについては2023-24シーズン終了時の陣容から1枚までなら減ってもいいと思っている旨を呟いてきた。KambwaraとVaraneがいてYoroは加入前なので、市場が閉じる前に5枚以上のCBがいればいいと思っている。MaguireとLindelofが放出されるとしたら、2枚以上は獲得してほしいという意見だ。
そうなると、今後の移籍市場の動きはこれまで以上に活発にさせる必要がある。もしくはMaguire/Lindelofのいずれかは死守すべく交渉する必要が出てくるのだ。
Casemiro放出についても同様だ。ShawをCBとして数えるのはSB事情から厳しいという話をした中で、CasemiroがいなくなるのであればCBも対応可能な選手を1枚は持っておきたい。現時点で噂に上がっているUgarteはコパアメリカでCBをこなしており、彼ならCasemiroの後釜に上手くハマるだろうが、追々考えていく必要がある。今回は本題ではないので割愛するが、Ugarteの話はこの辺にも影響してくる点は強調しておきたい。

まとめよう。
MaguireとLindelofが共に放出されると仮定した場合、以下の条件に適合したCBを2枚獲得する必要があるというのが、筆者の主張である。
①22〜26歳程度の中堅世代
②左利き
③継続して安定したプレーが可能

3 求められるスキル

※ラストに「まとめ」あり

前章で現状のMan UnitedのCB陣に足りていないものを挙げた。ここからはそれらの項目に加え、実際に試合に臨む際に何が求められているかを考えていく。つまり、「求められるスキル」を詳細化していく作業である。

まず第一に考えるべきは、今季のファーストチョイスは誰と誰のコンビになるかという話だ。
「左CBはLicha」というのは確定事項だが、右はどうするかが不明確。Yoroを通年使うには体が出来上がっておらず、Evansはあくまでもベンチからチームを支える役割を期待しているはずだ。そうなると、前章のまとめ①で述べた「22〜26歳程度の中堅世代」として即戦力になることを期待されるCBは、右CBとして獲得したいというアイデアが浮かぶ。
加えて、Lichaがいる場合には彼がコマンダーとして振る舞える選手なので、役割を確実に全うできる選手が良いとも言えるだろう。Varaneはこの役割をやらせたら世界最高峰だったので、彼とLichaの組み合わせは思い返すととんでもないコンビだったなと思う。
つまり、1人目に求めたいのは以下3点だ。
・22〜26歳程度の中堅世代
・右CBができる
・コマンダーより優秀な戦士

次に考えたいのはLichaの控え。怪我がちな彼の代わりに試合に出れる左CBだ。左利きなら尚良い。
Evansが対応可能というのは事実としてある。しかも彼はコマンダー的役割をこなせるし、右CBを優秀な戦士で固めるならEvansを左CBのセカンドチョイスとするのは悪くないとも言える。ただ、やはり年齢的な問題もあり、できたら20歳前後の若くて成長の余地があるCBが欲しい。
もちろん右CBとの相性も考える必要がある。Lichaがいる前提で右CBには戦士タイプが欲しいという話をしていたが、Lichaがいなくなってしまうとピッチ上にコマンダーがいなくなる。Yoroはコマンダーになる可能性は秘めているが、まだ経験が足りない。先述の通りEvansには無理をさせられない。
考えれば考えるほど必要なスキルは増えていくが、ひとまず以下の通りまとめておこう。
・20歳前後の若手
・左利き
・(Evansと組むと仮定して)優秀な戦士

ある程度まとまってきた。右利きと左利きを1枚ずつ、年齢は中堅と若手を1枚ずつ、そしてどちらも優秀な戦士となれるCBだ。
ここまで来ればあとは実名を交えてチェックだ。

4 具体的な補強プラン

※ラストに「まとめ」あり

ここまではある程度理想論を並べつつ、概念的な補強論を語ってきた。ここからは実名を挙げつつ可能性を探っていきたい。

まずは信憑性関係なく、とにかく噂に挙がっている選手を並べていく。
Jarred Branthwaite (🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿/22歳/左利き)
Matthijs de Ligh (🇳🇱/24歳/右利き)
Marc Guehi (🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿/24歳/右利き)
Jean-Clair Todibo (🇫🇷/24歳/右利き)
Jules Kounde (🇫🇷/25歳/右利き)
Ronald Araujo (🇺🇾/25歳/右利き)
Edmond Tapsoba (🇧🇫/25歳/右利き)
Aaron Anselmino (🇦🇷/19歳/右利き)
この中でも盛んに噂されているのはBranthwaiteとde Ligtの2人だろう。2人とも一部報道では個人合意したという話が出ており、決して遠い存在ではない。

興味深いのは、この2人が先ほど提示した「ユナイテッドのCB陣に足りていないピース」にピッタリとハマることだ。
Branthwaiteは若手の左利きで、左CBを担える。まだ経験が浅いためにコマンダーにはなり切れないだろうが、スピードがないEvansと組んだ際には不足するポイントを補完し合えるのは好評価ポイントだ。
de Ligtは24歳と中堅世代の右利きで、右CBを務められる。彼もまたコマンダータイプとは言えないものの、Lichaと組んで自分の役割に集中できる環境であれば、そもそものスペックは非常に高いので活躍が期待できるだろう。

問題は移籍金だ。
Branthwaiteは所属元のEvertonが財政的に非常に苦しい状況となったことで、恐らく是が非でも換金する必要がある選手となってしまった。もちろん彼の市場価値と推定される€4500万に加えて「🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿人で20歳」というプレミアを考えると大幅な値引きは想定しかねるが、それでも基本金として€5000万を下回る形で交渉をまとめられる可能性は出てきたと言えるだろう。€4500万+€500〜1000万 add-onという額が現実的か。
de Ligtはどうか。こちらの市場価値は€6500万と推定されている。Ajax→Juventusの移籍の際には移籍金が約€8500万、Juventus→Bayern Munichの移籍の際には移籍金が約€6500万と、これまでは若さを考慮して市場価値に対し高めの移籍金が支払われてきた傾向がある。ただ、もう24歳ということを考えるとこれまでのように市場価値+αで金額を求められる可能性はそう高くないと思われる。一部報道で出ていた「€5000万〜€6000万」辺りが妥当な額ではないだろうか。
つまり、一番安く済んでも€1億というとんでもないお金が必要になる。もちろん即金で払う訳ではないだろうが、中盤の補強にも動く必要がある中でそんな金額を用意できるとは思えない。

こうなってくると、上記2名の中でも優先順位を決めた上で、より移籍金が安価で済むCBを検討の俎上に置く必要が出てくる。
まずは優先順位。これについては再三言っている通り「Yoroはファーストチョイスと見做しても良いのか」という懸念がある。まだ体が出来上がっていないのに負傷癖ができてしまっては問題なので、ある程度休ませる試合も用意する必要があるだろう。そうなると、前述の通り継続して試合に出れる中堅世代の右CBが必要だ。
ただ、ここで気になってくるのが「未来のあるCBをこの役割で使うのか」という疑問だ。この役割はYoroが育ったら必要なくなってしまう。de Ligtという名前はここにハマるのだが、Yoroが育ったら用無しでは年齢を考慮すると良心がない。そもそも世界屈指の選手であるし、その選手が数年経ってお払い箱ではあまりにも厳しい話だ。
となると、特に噂される2名の中で優先すべきはBranthwaiteだろう。個人的には右CBには右利きを置いてほしいが、別に左利きでも右CBはこなせる。Lichaを休めさせられる上にリーグ屈指のトッププロスペクトである彼がやってくるのであれば、全く文句のない陣容になるだろう。

で、中堅世代に右CBでYoroと併用する役割の選手を補強する話だが、これは移籍金安めで市場に出ている選手をサクッと獲得してほしいという話だ。

試しに現在フリーとなっているCBでめぼしい選手を並べてみると以下のようになる。
Mario Hermoso (🇪🇸/29歳/左利き)
Scott McKenna (🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿/27歳/左利き)
Joel Matip (🇨🇲/32歳/右利き)
Mats Hummels (🇩🇪/35歳/右利き)
Ricardo Rodriguez (🇨🇭/31歳/左利き)
Sergio Ramos (🇪🇸/38歳/右利き)
Merveille Bokadi (🇨🇩/28歳/右利き)
Simon Kjær (🇩🇰/35歳/右利き)

フル稼働はせずともある程度の稼働を求めるなら、上に挙げた名前の中ではHermoso/McKenna/Matip/Rodriguez/Bokadi辺りだろう。移籍関係のニュースを全て追い切れている訳ではないので断定はできないが、Hermosoは🇮🇹方面から話が来ていてMatipはLeverkusen行きの噂が出ていることを考えると、現実的な選択肢としてMcKennaは挙がってきてもおかしくない。
McKennaは2020-21シーズンにノッティンガム・フォレストに加入。2023-24シーズンはFCコペンハーゲンにローンされており、ローンバックと同時に契約が切れた格好だ。お世辞にも足下があるとは言えないタイプだが、空中戦で跳ね返す役割ならプレミアリーグでも十二分に通用していた。Evansと組ませた時の背後のケアも不安は残るが、フリーでこの年齢の選手を獲ってYoroと併用すると考えれば、まずは枚数を確保するという点でも彼の獲得は理にかなっているだろう。
現時点で彼の獲得に乗り出していると噂されているのはCelticとRangers。🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿の二大名門クラブであり、出場機会もある程度保証されるだろう。それでも、獲得に動く意義がある。
もちろん彼でなければならない理由はない。フリーにも優秀な選手はいるということだ。de Ligtの獲得にお金を使った結果として中盤の補強が疎かになっては大きな問題なので、ここは有効に使っていきたい。

まとめよう。
現時点で噂が出ている選手の中で言えば、優先順位が最も高いのはBranthwaiteだ。そして、そこでお金を使ってしまうことを想定した時、Yoroと併用しつつ中堅世代のCBを獲得するとした場合に、フリーの選手を活用するアイデアがあってもいい。そして個人的にはScott McKennaを推したいという話である。

5 まとめ

長々と述べてきたが、結論は前章ラストに記載した通りだ。

そもそもLindelofとMaguireは放出されるのだろうか。Lichaが全く負傷しない可能性もあれば、Yoroの体が出来上がっている可能性もある。Ugarte獲得でキャッシュが底をつく可能性もあるし、Rabiot獲得でUgarteはパスするとなればBranthwaiteとde Ligtを両獲りするお金が残っているかもしれない。

何の制約もなければVirgil van DijkとRuben DiasとDaniloとMarquinhosが来てほしい。でもそんな訳ないし、数多の制約の中でフロント陣は最適解を生み出そうとしている。

サポーターは文句と理想論しか言えない。それでも声を上げることは歪んだ愛情表現かもしれないが、でもそれがサポーターだ。今回の文章の中でも現実的ではないことを沢山記している気がするが、クラブは現実を直視して、我々の知らないところまで気を配って決断していくのだろう。

フットボールは変わり続ける。
変わり続ける世界で、我々のマンチェスター・ユナイテッドはどんな未来を描いていこうとしているのか。そしてその先で、何を掲げようとしているのか。

我々と彼らで掲げた小指が、中指に変わることのないように。
マンチェスター・ユナイテッドは、タイトルがよく似合う。

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