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野人エンキドゥとは誰だったのか

※ギルガメシュ叙事詩にざっくりと沿ってはいますが、叙事詩丸無視の適当な妄想独り言です。

紀元前2600年頃に存在したとされる、シュメール初期王朝のウルク第一王朝第五代王ギルガメシュ。彼を語るうえで外せない人物が野人エンキドゥである。
神が暴虐なギルガメシュを止めるために作り出した生命と語られているが、彼は本当に物語だけの人物なのだろうか。ギルガメシュ王と共に、彼も実は存在していたのではないだろうか。
ここでは彼の存在について、神秘をそぎ落とした妄想を語っていきたい。

物語を作る上で、モデルとなった人物がいるというのはよくある話である。ギルガメシュ王は実在したという噂が本当のものとした場合、史実の彼にも親しい友がいたのかもしれない。
その友はどこから来て、一体誰だったのだろうか。
エンキドゥは物語の中でこう語られている。(ラピス・ラズリ版ギルガメシュ王の物語より引用)

その全身は毛におおわれ、女のような毛髪で装われ、その毛髪は、麦の女神ニサバのようにふさふさと伸びていた。彼は人も国家も知らず、身なりは動物の神スムカンのよう。
かも鹿たちと一緒になって草を食み、動物たちと一緒になって水場に押し寄せ、野獣たちと一緒になって水で心をなごませていた。

この文章から連想される容姿や生き方を見ると、長い年月獣と共に生きていた人間と言えなくもない。実際に狼に育てられた人間がいるくらいなのだから、この時代にもそういった存在があってもおかしくはないだろう。
(狼に育てられた少女のアマラ・カマラといった方がイメージが付くかもしれない。※この狼少女の話は真実かどうか怪しいところがあるのであくまで参考程度に)

ならばエンキドゥは獣に育てられた子なのか。そうではない。
一時的に獣と生きざるをえなかったのではないだろうか。
何故。
エンキドゥは荒野にいたと記載されている。狩人が仕掛けた罠を破壊し、彼の仕事を邪魔したため、この狩人はギルガメシュ王にエンキドゥのことを訴えた。そうしてギルガメシュ王の命により、娼婦シャムハトがエンキドゥの元へ行き、彼に人としてのたしなみを覚えさせたのである。
恐らく育てられたのであればそれだけの穴や網といった罠を器用に破壊し動物を逃がすような知識はないだろうし、色々あってシャムハトに人としてのたしなみを覚えさせられるにしても、それは一体何年かかる事なのか。
そうなったとき、彼には何か事情があり獣のように生きなければいけなかったが、シャムハトと出会い、人の営みを再度送れるようになったのだろうと考えられる。
例えば、事情があり記憶を失っていたとか、いた集落から追放または脱走し、帰ることができず荒野を彷徨っていたとか。そういったのっぴきならない事情で獣同然で荒野を彷徨っていた時、運よくウルクに拾われて、腕っぷしが強かったためにギルガメシュ王と仲良くなった、という可能性も考えられる。

そしてエンキドゥがどこの誰だったのか、という部分に関しては近年新たに見つかった欠けた物語の一部、フワワとエンキドゥは友人だったという部分を元に妄想を続けたい。(フワワはフンババという場合もあるが、ここではフワワという名称を使用する)
恥ずかしながらウルクの王がどんな人物だったのかは分からないが、ただ腕っぷしの強い素性も知れない野人とそんなに力比べをするようなフランクな人なのか?という疑問がある。普通自国の王と謎の人物を合わせるだろうか。一般的には一見さんお断りなのではないだろうか。
そうなった場合、彼らが出会えた理由は、エンキドゥに相応の価値・ないし地位があったと考えたほうがいいのではないだろうか。

そこで鍵になるのがレバノンの森である。エンキドゥとフワワは幼い頃の友人だったらしいというのだから、恐らくエンキドゥはレバノンの森からウルク近くの荒野までやってきたのだろう。
ギルガメシュとエンキドゥが杉の森へ行く際、エンキドゥが道案内をする流れになっている。つまりエンキドゥはレバノンの森までの道を知っているのだ。それはすなわちそこに居たと考えてもいいだろう。ここから考えて、エンキドゥはレバノンの森出身の人間だったのではないだろうか。
そしてレバノンの森にいるフワワ、その存在は、そこに住まう民族のことを指しているのではないだろうか。
森の番人などと言われているが、急に住処の木を伐採すると言われればたいていの人間は抵抗するし怒る。そしてその伐採者を連れてきたのが諸事情ありレバノンの森から消えた元知人だったのならなおさら怒る。
森と共に生きている原住民、それがフワワという民族だったのではないだろうか。
フワワは殺されそうになり、木を与えると言ったとき、エンキドゥは殺すことを進めたところを考えると、エンキドゥはフワワの民が憎かったのかもしれない。
可能性を上げるならば、エンキドゥがフワワの民族の次期トップになる予定だったところを、良く思わない人間によって追放(暗殺されかけて捨てられた)された、とか。望まぬ状態で住処を追われることになり、獣同然で生きることとなったのであれば、滅ぼしてやりたいと思う気持ちも生まれるかもしれない。

そしてフワワの民は強さや戦いが重要視される民族だったのではないだろうか。要は戦闘民族である。
エンキドゥが強いのも、そういった場所の出身であるという理由であれば納得も行く。そして、そこの出身であれば彼ら独自の戦い方も知っており、立ち回りもしやすいだろう。まさにレバノンの森を攻略するに最適な人材である。

さて、無事にギルガメシュ王と共にレバノンの森を滅ぼしたエンキドゥだが、暫くして彼は死んでしまう。
当時の寿命はそこまで長くなかっただろうとは思うが、さすがに彼の死因は罰ではないだろう。
例えば、今まで外との交流もなく森の奥で過ごしていた人間が行動範囲を広めたことにより感染症にかかったり、レバノンから追放された時に暗殺されかけていた場合、その傷が悪化したり、獣と共に生きたときについた寄生虫が原因で体調を崩したり等、彼の死因は色々思い浮かぶ。
ありがちだが、自分を裏切ったフワワの民への復讐を遂げ、満足したら限界が来た。なんてこともありうる。
そんな様々な事情がありエンキドゥは死に至るのだ。

まとめると、野人エンキドゥはレバノンの森のフワワと呼ばれる戦いに長けた民族の出身であり、諸事情あり土地を追われた。あてもなく獣のように荒野を彷徨っていたところ、たまたまウルクに拾われ、レバノンの森出身と判明し、ギルガメシュ王はレバノン杉を求め、エンキドゥの持つフワワの情報を元にレバノンの森を攻略。土地を追われたエルキドゥは自分を捨てた民族への復讐を果たしたが、その後早くして亡くなってしまった。

ギルガメシュ王はその後エンキドゥの死を嘆き悲しみ、不死の旅へと出る。
おまけの妄想であるが、例えばエンキドゥが民族の長、または彼がそれに値するだけの人物だった場合、ギルガメシュ王は死ではなく、裏切る民を恐れ国から出たのではないだろうか。
なにせギルガメシュ王は暴虐な王であった。初夜権なんてものを使用するような人物だ。恨みを買っている場合も多い。
エンキドゥがレバノンの森を追放された時、例えば暗殺されかけていた場合、自分もいつかそうなるのではないだろうかと不安に思うのではないだろうか。なぜなら前科がある。思い当たるところがありすぎるだろう。
エンキドゥがウルクにやってきて大人しくなった王であったが、エンキドゥが死んだらまた元の王に戻るのではないだろうかと国民が危惧する可能性はある。
そうなった場合、暴虐から解放され自由の味を知った国民はきっと王へ反乱するだろう、下手をすれば殺すだろう。フランス革命しかり、自由への反乱は激しいものが多い。まぁこの時代で王政の廃止とまでは考えないだろうが。
そんな恐怖を抱きギルガメシュ王は亡命したのかもしれない。
しかし、彼は戻った。自分で戻ったのか、誰かに見つかって連れ戻されたのかは分からない。だが良き王として国を治めたと書かれているのだから、少なくとも、後の人間がそう判断し、物語を書いてくれるほどの人気があり立派な王として晩年を終えたのだと思う。
そしてエンキドゥもまた、彼を良き王に導いた存在として、国を豊かにした存在として国民に人気があったのかもしれない。

物語を土台に膨らませた妄想なので、誰が本当に存在していたのか、真実はどうだったのかは神のみぞ知る。

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