見出し画像

2020年読書日記35

『泣き虫しょったんの奇跡 完全版』 by 瀬川晶司

「しょったん」とは著者である瀬川晶司さんのこと。瀬川さんといえばプロを諦めてサラリーマンを経験後に再度挑戦してプロになった棋士。この本のあとには映画もなりました。それほどにも、この挑戦は過去に例を見ない前代未聞のできごとであったし、プロ化の過程がドラマチックだったわけです。将棋の世界はわたしもよく知らなくてこの本で知識を得たのですが、確かにプロ棋士になること、プロで続けることがいかに厳しいのか。藤井聡太二冠のように脚光を浴びる天才もいれば、一方でうだつのあがらない落ちこぼれもいるわけで。いや、将棋だけではないですね。プロの世界はみな同じ。

本書がなぜ共感を得たのか?=つまり売れたのか? ぶっちゃけ言えば、一度破れた夢を諦めずに挑戦して叶った成功譚がドラマチックだから。将棋界では原則26歳までに合格しないと一生プロになれない。そんな制度があり、瀬川さんもそのルールに阻まれていったんは脱落。でも……将棋を捨てずにむしろ楽しむ感じで継続していたらアマNo.1になり、プロにも勝てるようになり、そこから前例のないプロ編入試験に挑めるようになり……。

で、見事プロになるわけですが、プロ化あたりを綴った枚数はそれほど多くはなく、むしろそれ以前、ちょっと変わった少年時代から修行時代の方に筆が集中しています。そこでは、好きなことを応援する両親や恩師のこと、また夢を追求することの大切さなど、かなりベタなことが書かれていますが、瀬川さんの人柄やエピソードによって「臭くない」仕上がりになっています。「夢」とか「あきらめない」とかって、とかく一般論に陥りがちなのを、身につまされるようなことも隠さない具体的な描写によってリアリティをもたらしています。だからおもしろいし、共感を得られるし、つまり売れるしってことです。単なる成功譚ではない、一人の少年の成長の記録としておすすめの一冊です。

なお、瀬川さんはプロ入り前はNECのグループ会社でSEをやっていました。その縁でプロ入り後はBIGLOBEでブログを開設してくださって、いまも続いております。

瀬川晶司のシャララ日記https://segawa-challenge.at.webry.info/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?