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非公表裁決/外国法人に対する係争中の金銭債権が国外財産調書に記載すべき「国外財産」に該当するか?

請求人が韓国の銀行を被告とする訴訟で請求していた金銭債権が、国外財産調書に記載すべき「国外財産」であるかが争われた事案の裁決です。

メインの争点は別にあって、上記の争点は、税額への影響も限定的な付随的な争点に過ぎないのですが、審判所の判断に疑問があったので取り上げさせて頂きました。

事案の概要は、以下のとおりです。

①韓国の銀行(本件銀行)の元支店長が、平成19年11月から平成21年12月までの間に、請求人とその親族(請求人等)の各預金口座(本件各新規口座)から金員を横領した。
②請求人等は、平成23年3月に、韓国のA地方法院に対し、本件銀行を被告として、元支店長が横領した預金の返還又は損害賠償を請求する訴訟を提起した。
③A地方法院は、請求人等の請求を全部認容する判決(本件第1審判決)を言い渡した。
④本件銀行が、本件第1審判決に対して控訴したところ、B高等法院は、本件銀行が請求人等に対して合計58,082,185,665ウォン(請求人等が本件各新規口座に入金した金額の合計43,445,422,743ウォン+遅延損害金の合計14,636,762,922ウォン)の和解金(本件和解金)を支払う和解勧告の決定(本件和解勧告決定)をおこなった。
⑤請求人等と本件銀行は、いずれも本件和解勧告決定に対して異議申し立てをしなかった。
⑥本件銀行は、平成26年10月に、本件和解勧告決定に従って、請求人等の代理人であった弁護士法人(本件弁護士法人)に本件和解金を支払い、本件弁護士法人は、同年12月に、請求人等に対し分配金(本件分配金)を支払った。
⑦請求人は、平成25年12月31日分の国外財産調書を提出期限までに提出しておらず、また、平成26年分の所得税等の確定申告において本件分配金の全額を所得金額の計算の基礎に含めていなかった。
⑧原処分庁は、本件分配金のうち一部が遅延損害金であって、雑所得の総収入金額に算入すべきであるとして、所得税の更正処分を行い、平成25年12月31日分の国外財産調書を提出していなかったから、「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」(国送法)6条に基づく過少申告加算税の加算特例(本件加算特例)が適用されるとして、過少申告加算税の賦課決定処分を行った。

そして、本件加算特例の適用について、請求人は、民事訴訟において本件銀行に対する預金返還請求権の存否が争われており、平成25年12月31日時点では確定していなかったのであるから、当該預金返還請求権は国外財産調書に記載すべき「国外財産」に該当せず、したがって、本件加算特例は適用することはできないと主張したのですが、審判所は、以下のように本件加算特例を適用すべきであると判断をしました。

イ 本件における「国外財産」(国送法第5条第1項)について
(イ) 国送法第6条第1項及び第2項の規定は、納税者による国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る所得税等の課税逃れが増加し、その課税の適正化が喫緊の課題とされていた状況を踏まえ、国外財産の保有について、納税者本人から調書の提出による申告を求めることとし、その提出のインセンティブとして、調書に記載すべき国外財産に基因する所得に過少申告があった場合の過少申告加算税を、調書の提出又は記載の有無により増減することとしたものである。
また、国送法第2条第7号は、国外財産とは「国外にある財産をいう」旨規定しているところ、同項に規定する「財産」とは、金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものをいい、既に存在する物権や債権のほか、いまだ明確な権利とはいえない財産法上の法的地位なども含まれると解するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、上記1の(3)のハの(ハ)のとおり、本件民事裁判は、乎成23年3月に提起され、①■■以外の請求人等の本件各横領金相当額の預金返還請求権、②■■の本件各横領金相当額の預金返還請求権、③■■以外の請求人等の本件各横領金相当額の損害賠償請求権、④■■の本件各横領金相当額の損害賠償請求権という両立しない4つの訴訟物の有無をめぐって、訴訟係属後3年近くが経過した平成26年3月17日(本件国外財産詞書の提出期限)に至っても、控訴審で係属中であったのであり、これらの本件民事裁判の状況からすれば、平成25年12月31日の時点において、請求人の有する特定の権利及びその額が確定していたとはいえない。
しかしながら、上記(イ)のとおり、国外財産調書の提出が義務付けられる国外財産は、金銭に見積もることのできる経済的価値のある全てのものをいうのであって、民事裁判において係争中で特定の権利として確定していないことが直ちに調書の提出義務を妨げる事情となるとは解し難い。
また、実際にも、国外財産調書の記載は、権利としての厳密な特定までを求められるわけではなく(国送法施行規則第12条《国外財産調書の記載事項等》及び同規則別表第一参照)、国外財産調書を提出している限り、重要なものの記載が不十分でなければ、過少申告加算税が加重されることはないところ、経済的価値のある財産が複数の権利のいずれであるかを特定できない場合において、成立し得るいずれかの権利を記載した調書を提出しているときに、重要なものの記載が不十分として加算税が加重されるものとも考え難い。
以上に加え、上記1の(3)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり、平成25年12月31日の時点において、①元支店長の本件横領に係る本件刑事裁判における有罪判決が確定していたこと、②請求人は、本件銀行に対する預金返還請求権又は損害賠償請求権があることを前提として本件民事裁判を提起していたこと、③請求人が本件民事裁判において主張していた預金返還請求権又は損害賠償請求権の金額は11,988,576,896ウォンであったところ、請求人等の主位的請求を全部認容する本件第一審判決が言い渡されていたこと、さらに、④少なくとも本件各新規口座への入金額(本件各新規預金)が請求人等に返還されてもいなかったこと(当審判所の調査の結果)からすれば、請求人は、本件国外財産調書の提出期限において、平成25年12月31日時点で経済的価値のある本件銀行に対する預金返還請求権又は損害賠償請求権11,988,576,896ウォンを有していたと認識することが可能であったと認められるから、国外財産調書提出のインセンティブを与えられるべき立場にあったというべきである。
以上からすると、請求人は、本件銀行に対し、平成25年12月31日時点において、本件銀行に対する預金返還請求権又は損害賠償請求権という「国外財産」(国送法第5条第1項)を有していたということができる。

うーん、「いまだ明確な権利とはいえない財産法上の法的地位」も「財産」に該当するという判断はよいとしても、「本件銀行に対する預金返還請求権又は損害賠償請求権」が「国外財産」であるという判断はマズいような気がします。

というのも、国送法上の財産の「国外財産」の所在については、以下のとおり、国送法施行令10条1項、2項及び7項、国送法施行規則12条2項及び3項並びに相続税法10条1項及び2項により判断することとされているのですが、請求人が有していた財産が「本件銀行に対する損害賠償請求権」であるとすると、その所在は、国送法施行令10条7項及び国送法施行規則12条3項6号によって「当該財産を有する者の住所」によって判断することになるため、「国外財産」に該当しないことになるはずだからです。

<国送法施行令10条>
1 法第5条第1項の国外財産の所在については、相続税法(昭和25年法律第73号)第10条第1項及び第2項の規定の定めるところによる。
2 相続税法第10条第1項第8号に掲げる社債、株式、出資又は有価証券その他財務省令で定める財産(以下この項において「有価証券等」という。)が、金融商品取引業者等の営業所、事務所その他これらに類するものに開設された口座に係る振替口座簿(社債、株式等の振替に関する法律(平成13年法律第75号)に規定する振替口座簿をいい、国外におけるこれに類するものを含む。)に記載若しくは記録がされ、又は当該口座に保管の委託がされているものである場合には、当該有価証券等の所在については、前項の規定にかかわらず、当該口座が開設された金融商品取引業者等の営業所、事務所その他これらに類するものの所在による。
3 前2項の規定による国外財産の所在の判定は、法第5条第1項に規定するその年の12月31日(次項及び第五項において「その年の12月31日」という。)における現況による。
≪4項~6項省略≫
7 前各項に定めるもののほか、国外財産の所在及び国外財産調書の書式その他国外財産調書の提出に係る手続に関し必要な事項は、財務省令で定める。

<国送法施行規則12条>
≪1項省略≫
2 法第5条第1項の国外財産の所在について令第10条第1項の規定により相続税法(昭和25年法律第73号)第10条第1項の規定の定めるところによる場合又は令第10条第2項の規定による場合は、同法第10条第1項第5号に規定する保険金には保険(共済を含む。別表第一及び別表第三において同じ。)の契約に関する権利を、同項第8号に規定する株式には株式に関する権利(株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利その他これに類する権利を含む。)を、それぞれ含むものとする。
3 法第5条第1項の国外財産の所在については、令第10条第1項及び第2項並びに前項に定めるもののほか、次の各号に規定する場所による。ただし、第2号から第4号までに規定する財産に係る有価証券が金融商品取引業者等の営業所、事務所その他これらに類するものに開設された口座に係る同条第2項に規定する振替口座簿に記載若しくは記録がされ、又は当該口座に保管の委託がされているものである場合には、当該有価証券の所在については、当該各号の規定にかかわらず、当該口座が開設された金融商品取引業者等の営業所、事務所その他これらに類するものの所在による。
一 預託金又は委託証拠金その他の保証金(相続税法第10条第1項第4号に掲げる財産を除く。以下この号において「預託金等」という。)については、当該預託金等の受入れをした営業所、事務所その他これらに類するものの所在
二 有価証券(金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第1項第16号に掲げる有価証券、同項第17号に掲げる有価証券(同項第16号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)及び同項第19号に掲げる有価証券をいい、同条第2項の規定によりこれらの有価証券とみなされる権利を含む。)については、当該有価証券の発行者(同条第五項に規定する発行者をいう。)の本店又は主たる事務所の所在
三 民法第667条第1項に規定する組合契約、匿名組合契約その他これらに類する契約に基づく出資については、これらの契約に基づいて事業を行う主たる事務所、事業所その他これらに類するものの所在
四 信託に関する権利(相続税法第10条第1項第9号及び前3号に規定する財産を除く。)については、当該信託の引受けをした営業所、事務所その他これらに類するものの所在
五 所得税法第60条の2第2項に規定する未決済信用取引等及び同条第3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利については、これらの取引に係る契約の相手方である金融商品取引業者等の営業所、事務所その他これらに類するものの所在
六 相続税法第10条第1項及び第2項並びに前項並びに前各号に規定する財産以外の財産については、当該財産を有する者の住所(住所を有しない者にあっては、居所)の所在

<相続税法10条>
1 次の各号に掲げる財産の所在については、当該各号に規定する場所による。
一 動産若しくは不動産又は不動産の上に存する権利については、その動産又は不動産の所在。ただし、船舶又は航空機については、船籍又は航空機の登録をした機関の所在
二 鉱業権若しくは租鉱権又は採石権については、鉱区又は採石場の所在
三 漁業権又は入漁権については、漁場に最も近い沿岸の属する市町村又はこれに相当する行政区画
四 金融機関に対する預金、貯金、積金又は寄託金で政令で定めるものについては、その預金、貯金、積金又は寄託金の受入れをした営業所又は事業所の所在
五 保険金については、その保険(共済を含む。)の契約に係る保険会社等(保険業又は共済事業を行う者をいう。第59条第1項及び第2項において同じ。)の本店又は主たる事務所(この法律の施行地に本店又は主たる事務所がない場合において、この法律の施行地に当該保険の契約に係る事務を行う営業所、事務所その他これらに準ずるものを有するときにあっては、当該営業所、事務所その他これらに準ずるもの。次号において同じ。)の所在
六 退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(政令で定める給付を含む。)については、当該給与を支払った者の住所又は本店若しくは主たる事務所の所在
七 貸付金債権については、その債務者(債務者が二以上ある場合においては、主たる債務者とし、主たる債務者がないときは政令で定める一の債務者)の住所又は本店若しくは主たる事務所の所在
八 社債(特別の法律により法人の発行する債券及び外国法人の発行する債券を含む。)若しくは株式、法人に対する出資又は政令で定める有価証券については、当該社債若しくは株式の発行法人、当該出資のされている法人又は当該有価証券に係る政令で定める法人の本店又は主たる事務所の所在
九 法人税法第2条第29号(定義)に規定する集団投資信託又は同条第29号の2に規定する法人課税信託に関する権利については、これらの信託の引受けをした営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在
十 特許権、実用新案権、意匠権若しくはこれらの実施権で登録されているもの、商標権又は回路配置利用権、育成者権若しくはこれらの利用権で登録されているものについては、その登録をした機関の所在
十一 著作権、出版権又は著作隣接権でこれらの権利の目的物が発行されているものについては、これを発行する営業所又は事業所の所在
十二 第七条の規定により贈与又は遺贈により取得したものとみなされる金銭については、そのみなされる基因となった財産の種類に応じ、この条に規定する場所
十三 前各号に掲げる財産を除くほか、営業所又は事業所を有する者の当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の権利については、その営業所又は事業所の所在
2 国債又は地方債は、この法律の施行地にあるものとし、外国又は外国の地方公共団体その他これに準ずるものの発行する公債は、当該外国にあるものとする。

これは条文を見るよりも、「国外財産調書制度FAQ」の「財産の所在判定表」で見て頂いた方が分かりやすいかもしれませんね。

因みに、請求人が有していたのが本件銀行に対する預金返還請求権であるとすれば、国送法施行令10条1項及び相続税法10条1項4号によって「国外財産」に該当することになりそうなのですが、あえて権利の性質が特定できないことを前提として、請求人が有する権利が「本件銀行に対する預金返還請求権又は損害賠償請求権」であると認定した訳ですから、その権利が「国外財産」であると判断するためには、損害賠償請求権であっても「国外財産」に該当すると認められなければならないはずです。

請求人は、自らが有していた権利が「預金返還請求権」であることを前提とした主張をしていた訳ですし、本件第一審判決でも預金返還請求権に基づく主位的請求が認容されていた訳ですから、預金返還請求権であることを前提とした判断をすればよかったのではないかとも思うのですが、下手に事実認定を厳密にしようとした結果として、おかしな判断になってしまったように思えます。

さらに、この裁決では、本件加算特例の適用に関して、以下のように、「本件分配金」も「国外財産」に該当するという判断もしているのですが、平成26年12月31日時点において、「本件分配金」は、請求人の親族である個人に対する預け金債権であったはずですので、その所在は、国送法施行令10条7項及び国送法施行規則12条3項6号によって「当該財産を有する者の住所」によって判断されることになり、「国外財産」には該当しないことになるはずです。

また、本件運用益は、平成26年12月31日当時、請求人には支払われておらず、■■が■■において預かっていたと認められる(当審判所の調査の結果)から、本件分配金は、請求人の「国外財産」(国送法第5条第1項)に該当する。そして、請求人が、平成30年1月31日に原処分庁に提出した平成26年12月31日分の国外財産胴書には本件運用益が記載されていなかったと認められる(当審判所の調査の結果)から、本件運用益に係る過少申告加算税についても本件加算特例が適用される。

あと、形式的なところですが、裁決に関係法令として国送法施行令10条1項、2項及び7項、国送法施行規則12条2項及び3項並びに相続税法10条1項及び2項が記載されていないのも気になりますね。

単に請求人が財産の所在を争っていた訳ではなかったからに過ぎないかもしれませんが、上記のような判断をしていることからすると、それらの条文を確認することを怠っていたのではないかとさえ思えてしまいます。

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