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非公表裁決/過払金に関する裁判外での和解が「債務の免除」に該当するか?

貸金業者である請求人が国税を滞納していた契約者(本件滞納者)と裁判外で締結した過払金に関する和解が徴収法39条に規定する「債務の免除」に該当し、請求人が第二次納税義務を負うことになるかが争われた事案の裁決です。

請求人は、本件滞納者との間で過払金の返還に係る解決金として20万円を支払う旨の和解(本件和解)をしたのですが、原処分庁が計算した過払金の額と20万円の差額について、請求人が本件滞納者から徴収法39条に規定する「債務の免除」を受けたことになるかが問題となったということです。

原処分庁が計算した過払金の額がいくらであったかは、マスキングされているため分からないのですが、請求人が予備的な主張として、本件和解の時点における過払金の額は57万7607円を超えることはない旨の主張をしていますので、それを上回る金額であったことは間違いないことになります。

審判所は、本件和解の時点において原処分庁が計算したとおりの過払金が発生していたことを認めた上で、以下のように、請求人が本件滞納者から、当該過払金の額と20万円の差額について徴収法39条に規定する「債務の免除」を受けたものと判断しました。

ロ 検討
(イ) 徴収法第39条に規定する債務の免除について
 前記1の(3)のハの(ハ)のとおり、本件和解は、請求人が本件和解金を本件滞納者に対して支払うことを停止条件として、本件滞納者が請求人に対して本件過払金返還請求権及びその他の一切の請求権を放棄する内容を含む契約であるところ、上記(2)の口のとおり本件過払金返還請求権が存在する等の本件における事実関係を上記イの(ロ)に当てはめれば、本件債務免除は徴収法第39条が規定する債務の免除に該当すると認められる。
 そして、本件債務免除は、本件和解金の支払を停止条件とするものであり、本件和解金が支払われることでその効力が生じるところ、前記1の(3)のハの(ホ)のとおり、請求人は、平成29年1月27日に本件和解金を支払っている。以上のことから、同日に、本件債務免除は効力を生じ、請求人は、本件和解によって徴収法第39条に規定する債務の免除を受けたと認められる。
(ロ) 請求人が受けた利益の額
 徴収法第39条は「これらの処分により受けた利益」と規定しているところ、上記(イ)のとおり、請求人は、本件債務免除を平成29年1月27日に受けている。そうすると、請求人は、上記(2)のロの(ハ)のとおり、平成29年1月27日現在で本件滞納者が有していた本件過払金返還請求権■■■■■■■について債務免除を受けたと認められるから、当該金額が、請求人が受けた利益の額となる。
ハ 請求人の主張について
 前記3の(4)の「請求人」欄のとおり、請求人は、徴収法第39条に規定する債務の免除に該当するためには、合理的な理由のない利益が与えられたことが必要であるところ、請求人及び本件滞納者は、期限の利益喪失後の引き直し計算の方法について確定した判例が無く、複数の計算方法が容認されていた状況下で、裁判手続を選択した場合の判決内容を含めた帰結や、時問的・黄用的な負担を踏まえて裁判手続によることなく本件和解による解決を図ったものであり、本件和解をしたことにつき合理的な理由が存在したのであるから、請求人は、本件和解によって、徴収法第39条に規定する債務の免除を受けたとはいえない旨主張する。
 しかしながら、徴収法第39条は、文言上「債務の免除」と規定するのみで他の要件を付加していないのであり、上記イの(イ)の徴収法第39条に規定する第二次納税義務の制度趣旨からすれば、第三者に利益を与える典型的な法律行為そのものである債務の免除に当たりさえすれば、同条に規定する債務の免除に当たるというべきである。加えて、請求人は、複数の計算方法が容認されていた状況として、期限の利益の再度付与が認められていない裁判例を挙げているものの、本件では、返済金を通常利息に充当する旨が本件滞納者に伝えられていたと推認される一方で、請求人が挙げる裁判例では、それと同様の事実関係が認められないことなどから、請求人の主張には理由がない。

本件滞納者が本件和解の時点における過払金の額が原処分庁の計算のとおりであるという認定を前提とすると、結論として徴収法39条に規定する「債務の免除」にあたるということはやむを得ないのかなとは思います。

請求人は、本件滞納者からの申出に応じて和解をしただけのようですし、本件滞納者が国税を滞納していると知っていた訳でもなかったのだと思いますが、第二次納税義務が成立するためには、詐害行為取消のように詐害の意思は必要とされていないですからね。

今更ながら第二次納税義務って強力ですよね。

ただ、「第三者に利益を与える典型的な法律行為そのものである債務の免除に当たりさえすれば、同条に規定する債務の免除に当たる」と判断している部分については、少し疑問も残ります。

というのも、徴収法39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡・・・債務の免除その他第三者に利益を与える処分」というのは、①第三者に「異常な利益」を与え,②実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものとはいえないと評価することができるものを意味するものと解されていて、「債務の免除」が問題となった最近の裁判例(東京地裁令和2年11月6日判決)でも以下のように判断されているからです。

徴収法の定める第二次納税義務は、主たる納税義務が申告又は決定若しくは更正等により具体的に確定したことを前提として,その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して補充的に課される義務であると解され(最高裁昭和48年(行津)第112号同50年8月27日第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁)、かかる第二次納税義務の趣旨に鑑みれば、無償譲渡等の処分とは、①第三者に「異常な利益」を与え、②実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものとはいえないと評価することができるものを意味すると解される。

特に、過払金については計算方法によって金額に大きな違いが出ることがある(例えば、複数の取引を一連の取引として一連計算をする場合と別の取引として別計算を行う場合とでは、過払金の額に大きな違いが生じます。)のですが、和解の時点において最高裁判決等で確定していた訳でない限り、貸金業者に有利な計算方法によって計算した過払金の額を基礎として和解をしても、それは、徴収法39条に規定する「債務の免除」には当たらないと解すべきではないかと思います。

あと、訴訟上の和解では、債務者側が一定の金額の債務の存在を認めた上で、その一部を支払ったら残りは免除するという条項を含む和解をすることも多いのですが、そのような和解条項というのは、債務の金額に争いがある中で、便宜的に入れられることも少なくありませんので、常に徴収法39条に規定する「債務の免除」に該当すると解すべきではないのではないかとも思うところです。

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