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非公表裁決/借地上の建物の取壊費用を不動産所得に係る必要経費に算入することができるか?

土地の所有者が、借地人を立ち退かせるために借地上の建物の取壊費用を負担した場合に、その取壊費用を必要経費に算入することができるかが争われた事案の裁決例です。

最近の公表裁決例には、類似の事案において、借地上の建物の取壊費用を土地の所有者の不動産所得に係る必要経費に算入することを認めたものもあるのですが、この裁決例では必要経費に算入することが認められませんでした。

結論を分けたのは、借地人に建物の取壊費用を負担することができる資力がないことが明らかであったか否かという点のようです。

必要経費に算入することが認められた公表裁決例は、借地人が債務超過の状態にある相続財産法人であって、借地人に建物の取壊費用を負担する能力がないことが明らかな事案であったのに対して、この裁決例は、借地人に建物の取壊費用を負担する能力がないかどうかが明らかではない事案であったということです。

この裁決例では以下のような判断がされています。

請求人は、本件各借地人が経済的に困窮しているため、本件建物の収去義務を確実かつ迅速に履行する保証がない旨判断し、本件各和解契約を締結した上で、自己の負担で本件建物を取り壊したとする。しかしながら、当審判所の調査及び審理の結果によれば、請求人は本件各借地人の資産状況及び支払能力などを裏付ける客観的な資料をいずれも確認しておらず、また、本件各借地人のうち少なくとも1名にはその当時一定の所得があったことが認められることからすれば、請求人が本件取壊費用を負担せざるを得ない事情があったとは認められない。

土地所有者が土地の賃貸借契約を解除して建物収去を請求することができる状況であることを前提とすると、土地所有者は強制的に建物を取り壊して、その費用を建物所有者である借地人に請求することもできますので、その債権について貸倒損失が認められるような場合に限って、取壊費用を必要経費に算入することができるようにすべきという考え方のようにも思われます。

そのような考え方にも一理あるとは思うのですが、この裁決例の事案では、建物の取壊後に土地上に賃貸用不動産を建築しており、請求人としては、建物の取壊しが遅れることによる逸失利益も考慮した上で、早期に建物の取壊しを実現するために取壊費用を負担したのではないかとも思われますので、それを必要経費に算入することができないというのは酷な気もしますね。

あと、この裁決例の事案では、請求人は借地人の1人と借地上の建物の借家人に解決金を100万円ずつ支払っているのですが、それについては特に問題となっていません。請求人が申告時に取壊費用だけを必要経費に算入して、解決金については必要経費に算入しなかったとも考えにくいのですが、原処分庁は特に問題とはしなかったのでしょうかね?

土地所有者(請求人)が土地の賃貸借契約を解除して建物収去を請求することができる状況であることを前提とすると、法的に負担する必要がないものを負担したという点では取壊費用と異ならないようにも思われるのですが、取扱いを異にしたとすれば何故なのか気になるところではあります。

なお、この事案では微妙なところですが、和解条項の記載ぶりや和解の方法によって必要経費に算入することができるかどうかの結論が変わってくることもあり得ますので、和解を成立させるにあたっては、税務上の観点からの検討も必要ではないかと思います。

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