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非公表裁決/親族関係書類や送金関係書類の添付は国外居住親族を扶養親族とする扶養控除の適用要件か?

国外居住親族を扶養親族とする扶養控除の適用の可否が争われた3つの裁決をご紹介します。

あまり興味のある人も少なそうな事案の裁決なのですが、面白い論点が含まれています。

いずれの裁決も、請求人が、国外居住親族を扶養親族とする扶養控除を適用して確定申告を行っていたところ、原処分庁が、請求人の確定申告書に当該国外居住親族が「親族に該当することを証する書類として財務省令で定める書類」(親族関係書類)と「生計を一にすることを明らかにする書類として財務省令で定める書類」(送金関係書類)が添付されていなかったことを理由として扶養控除の適用を否認したという事案に関して、原処分庁が主張するとおり、請求人の確定申告書に親族関係書類及び/又は送金関係書類が添付されていなかったことを理由として、国外居住親族を扶養親族とする扶養控除の適用を受けることはできないと判断しました。

例えば、①の裁決(東裁令元-111)は以下のように判断をしています。

イ 所得税法第120条第3項柱書及び同項第2号並びに所得税法施行令第262条第3項本文は、上記1の(2)のハ及びニのとおり、確定申告書に非居住者である親族に係る扶養控除に関する事項の記載をする居住者は、当該親族に係る親族関係書類及び送金関係苔類を当該親族の各人別に当該申告書に添付し、又は当該申告書の提出の際に提示しなければならない旨規定している。そして、所得税法施行規則第47条の2第6項は、上記1の(2)のホのとおり、送金関係害類は、①金融機関の書類又はその写しで、当該金融機関が行う為替取引によって当該居住者から当該国外居住扶養親族に支払をしたことを明らかにするもの、あるいは、②クレジットカード等購入あっせん業者の書類又はその写しで同項第2号に規定する内容のもののいずれかであって、確定申告書を提出する居住者がその年において国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするものとする旨規定している。
 上記法令の趣旨は、国内に居住している扶養親族については市町村等と国税当局との連携により扶養控除の要件を満たしているかの確認を税務署において行うことができる一方で、国外居住扶蓑親族については事実確認や実態把握が容易であるとはいえない状況にあることを踏まえ、国外に居住している親族に係る扶養控除の適用を受ける際には、確定申告書等に法令で定められた親族関係書類及び送金関係害類の添付等を義務付けるものである。
ロ これを本件についてみると、本件各受取証明書は、上記1の(3)のニの(ニ)及び(ホ)のとおり、本件各親族が請求人又は一から現金を受け取ったことを本件各親族が証明する旨の書面にすぎないから、所得税法施行規則第47条の2第6項第1号に規定する金融機関が行う為替取引によって当該居住者から当該国外居住扶養親族に支払をしたことを明らかにする書類に当たらず、また、同項第2号に規定するクレジットガード等購入あっせん業者の書類又はその写しにも当たらない(上記1の(2)のホの(イ)及び(ロ))。そうすると、所得税法施行規則第47条の2第6項柱書に規定する「国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするもの」(上記1の(2)のホ)かどうかを判断するまでもなく、本件各受取証明書はいずれも送金関係書類に該当しないといえ、請求人は本件各確定申告書に添付等をすべき送金関係書類について本件各確定申告書への添付等をしていないこととなる。そして、当審判所の調査によっても、ほかに本件各親族と生計を一にすることを明らかにする送金関係書類の存在を認めるに足る証拠も見当たらない。
 したがって、本件各年分の所得税等の計算上、本件各親族に係る扶養控除の適用はない。

上記のような裁決の判断は、親族関係書類と送金関係書類を確定申告書に添付することが国外居住親族を扶養親族とする扶養控除の適用要件であるという理解を前提としているように思われるのですが、そのような理解には疑問があります。

親族関係書類と送金関係書類を確定申告書に添付等しなければならないということは所得税法第120条3項2号等に明確に規定されているのに、何を言っているのか?と思われるかもしれませんが、確定申告書に書類の添付等が義務付けられているということは、確定申告書にその書類の添付をすることが適用要件であることを意味する訳ではないのです。

過去の裁判例(大阪高裁平成10年7月31日判決)でも、当時の所得税法120条3項1号及び所得税法施行令262条1項2号において、医療費控除の適用を受けようとするときは、医療費についてこれを領収した者の領収を証する書類を確定申告書に添付等して提出しなければならない旨が規定されていたにもかかわらず、以下のように、その書類の添付等は医療費控除の適用の要件ではないと明確に判断されています(大阪高裁平成11年1月14日判決でも同様の判断がされています。)。

(一)被控訴人の主張
被控訴人は、次のとおり主張する。
(1)所得税法施行令262条1項2号は、医療費控除の手続的要件(領収を証する書類の存在、同書類の確定申告書への添付、申告の際の同書類提示)を定めている。
(2)本件では、右手続的要件を充たしていない。したがって、控訴人が、喜美に代わり、るうてるホーム診療所に支払った患者一部負担金1万800円についても、医療費控除は認められない。
(二)検討
しかし、被控訴人の前示主張は失当である。以下その理由を述べる。
(1)昭和42年分までの所得税
〈1〉昭和42年分までの昭和43年改正前の所得税法88条2項は、医療費控除の適用要件について、次のような規定を設けていた。
「医療費控除……に関する規定は、確定申告書にその控除を受ける金額その他その控除に関する事項を記載し、かつ、医療費の領収を証する書類を当該申告書に添付し又は当該申告書の提出の際提示した場合に限り、適用する」。
〈2〉昭和42年分までの所得税は、確定申告書に医療費控除に関して記載等がない場合には、原則として医療費控除の適用が受けられないことになっていた。しかし、医療費控除の性格ないしは納税者の手数を考慮した場合に、このような要件を課することは厳格に過ぎるきらいがあった。
(2)昭和43年分以降の所得税
〈1〉そこで、昭和43年の所得税法の改正により、医療費控除の適用要件を定めた前示88条2項が削除され、同年分の所得税についてはその適用がなくなった。本件係争年度である平成4年の所得税も、この点に変わりはない。
〈2〉このように、昭和43年分以降の所得税は、医療費控除について、確定申告書への記載等の適用要件がはずされている。したがって、確定申告書に医療費控除に関する記載等をしないで提出した場合や、確定申告書を提出しないで決定を受けた場合にも、納税者がその事実を立証した場合には、医療費控除が受けられる。
〈3〉もっとも、医療費控除の申告要件が廃止されたからといって、確定申告書の所得控除に関する事項の記載が省略されたわけではない。確定申告書には、従来と同様に、医療費控除に関する事項を記載し(所得税法120条1項1号)、また、所定の書類を添付又は提示しなければならない(所得税法120条3項1号、同施行令262条1項2号)。
しかし、納税者がこれを欠く確定申告書を提出した場合であっても、納税者側が所定期間内に更正の請求(国税通則法23条)をする場合や、納税者が税務署側からの増額更正処分を争う場合において、医療費控除を何らかの方法で立証して、所得控除を受けることができるのである。

平成29年度の税制改正によって、医療費控除に関しては所得税法120条4項で規定されることになりましたので、現行の所得税法120条3項は、医療費控除に関する規定ではなくなっているのですが、柱書の「当該申告書に添付し、又は当該申告書の提出の際提示しなければならない」という部分については従前から変更はありません。

そうすると、所得税法第120条3項2号等において、確定申告書に非居住者である親族に係る扶養控除に関する事項の記載をする居住者は、当該非居住者に係る親族関係書類及び送金関係書類を当該控除の適用を受ける各人別に当該申告書に添付し、又は当該申告書の提出の際に提示しなければならない旨が規定されているとしても、親族関係書類と送金関係書類の添付等というは、扶養控除の適用要件ではないということになるはずです。

したがって、ご紹介した裁決の事案についても、審判所が判断すべきであったのは、請求人が扶養親族であると主張する国外居住親族が、請求人と「生計を一にする親族」であるかどうかということであって、確定申告書に親族関係書類と送金関係書類の添付があったかどうかいうことは、事実認定の際に考慮される事情にはなるのかもしれませんが、直接的には関係がないはずですので、判断をする必要すらなかったのではないかと思われます。

もっとも、3件も立て続けに同種の裁決が出されていて、大阪高裁平成10年7月31日判決を把握していないということも考えにくいですので、審判所としては、上記のような問題点を認識しつつ、あえて親族関係書類と送金関係書類の添付等が適用要件であることを前提とした判断をしたのかもしれません。

下級審の裁判例というのは絶対的なものではないのですが、審判所は、課税庁に都合の良い裁判例と異なる判断をすることはまずありませんので、バランスはとれていないですよね。

扶養控除の適用を受けることができるかどうかの影響というのは金額的には僅少ですので、税務訴訟等にはなりにくいのかもしれないですが、なかなか面白そうですので機会があれば争ってみたいところではあります。

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