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非公表裁決/相続開始日から短期間で満期が到来し、第三者に保険金が支払われた保険契約に関する権利が相続財産に該当するか?

相続によって保険契約者の地位については請求人が承継したものの、満期保険金の受取人の地位については第三者である被保険者が承継し、しかも、相続開始から短期間(2ヵ月以内)で満期が到来したため、満期保険金がその第三者に支払われてしまった場合において、その保険契約に関する権利を相続税の課税価格に含めるべきかどうかが争われた事案の裁決です。

被相続人の生前は、保険契約者も保険金の受取人も被相続人であったのですが、保険約款において、受取人が死亡した場合には被保険者を受取人とすると定められていたため、被相続人の死亡により、受取人の地位が第三者である被保険者に承継されてしまい、しかも、被相続人が死亡してから短期間(2ヵ月以内)、その保険契約の満期が到来してしまったことから、請求人は、保険契約者として解約返戻金を受け取ることができなかったということのようです。

相続人としては、満期日(平成28年6月21日)の前月(同年5月=相続開始日の属する月)の「効力発生応答日」(同月22日)までは、自由に保険契約を解約して解約返戻金を受け取れる立場にあったようですが、現実的には、そのような対応をすることは難しそうですよね。

マスキングされているため相続開始日が平成28年5月の何日であったかまでは分からないのですが、「効力発生応当日」の数日前であった可能性もあり、そうであったとすると保険契約の解約は不可能であったといってよいと思います。

そこで、相続人は、①保険契約を解約等することはできなかったのであるから、保険契約に関する権利を承継していないものと解すべきである、②仮に保険契約に関する権利を承継しているとしても、その権利に経済的価値はないので零円と評価すべきであると主張したのですが、審判所は、以下のように、そのような請求人の主張を排斥しました。

(イ) 請求人は、請求人の責めに帰すべき事由なく■■■■■■■■■■の存在を全く知らず、本件相続の開始後、短期間のうちに満期日が徒過し、■■■■■■■■■■に関する権利に係る解約権及び契約変更権を行使することができなかったのであるから、私法上、■■■■■■■■■■に関する権利を承継していないと解すべきであり、当該権利は本件相続税の課税財産に含まれないと解すべきである旨主張する。
しかしながら、請求人が■■■■■■■■■■に関する権利につき私法上承継していること及び本件相続税の課税財産に含まれることは上記イのとおりであるところ、請求人の主張する■■■■■■■■■■の存在の不知は主観的事情をいうものにすぎず、また、請求人が契約の解約や変更を行ったか否かは相続開始後の事情であるから、いずれも同イの判断に影響を及ぼすものではない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、上記(イ)と同様の事情により、■■■■■■■■■■に関する
権利を行使することができなかったため、■■■■■■■■■■に関する権利について、その経済的価値を見出すことはできず、その時価を零円とするべきである旨も主張する。
しかしながら、請求人は、■■■■■■■■■■につき、契約上、本件相続開始日である■■■■■■■■から月ごとの効力発生応答日である同月22日までの間は解約をすることが可能であったのであり(上記1の(3)のイの(n)のD) 、また、本件相続開始日である■■■■■■■■から満期日の前日である同年6月20日までの間は各被保険者の同意を得て満期保険金受取人を指定することも可能であり(同C) 、保険契約者としての権利を享受していたといえるから、■■■■■■■■■■に関する権利を行使することができなかった旨の請求人の主張には理由はない。また、相続財産の評価は、請求人が実際に解約や変更を行ったか否かにより算定方法が異なるものではないのであるから、請求人の主張は採用できない。

うーん、可哀想な気はしますが、しょうがないのですかね。
それなりの理屈が付けば、審判所では兎も角として、裁判所では戦う余地もあるのではないかと思うのですが、私にはちょっと思いつかないです。

なお、あえて裁決にケチを付けるとすれば、「請求人は・・・本件相続開始日である■■■■■■■■から満期日の前日である同年6月20日までの間は各被保険者の同意を得て満期保険金受取人を指定することも可能であり(同C) 、保険契約者としての権利を享受していたといえる」という指摘をしている部分です。

相続開始日からその月の「効力発生日応答日」(平成28年5月22日)までの間は、自由に解約をすることが可能であった訳ですから、請求人が保険契約者としての権利を享受していたという理解でよいと思うのですが、それから満期日(平成28年6月21日)の前日までの間は、被保険者(受取人)の同意がなければ受取人を変更することはできず、被保険者(受取人)が満期日の間際に満期保険金を受け取る地位を放棄するような同意をすることは期待できない訳ですから、請求人が保険契約者としての権利を享受していたとは言えないのではないかということです。

この件では、直接に結論に影響はしないのですが、仮に、相続開始日が平成28年5月23日以降であった場合であっても、上記のような裁決の判断からすると同じ帰結になってしまいそうですが、それはおかしいだろうと思います。

それにしても、保険って商品設計によっては相続が発生した場合に思わぬ税負担が生じることがあるので怖いですよね(小並感)。

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