見出し画像

非公表裁決/取引先の接待や従業員の慰労のために支出した飲食費が必要経費に該当するか?

医師である請求人が、取引先等の接待のために支出した飲食費や従業員の慰労・親睦を図るために支出した飲食費が必要経費に該当するかが争われた事案の裁決です。

いずれも感覚的には必要経費として認められてもおかしくないような費用だと思うのですが、審判所は、以下のように必要経費には該当しないと判断しました。

A 本件費用Bについて
請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄の口のとおり、別表2の順号7から16まで及び別表4の順号19から32までの各費用の接待の相手方は、当時本件医院の最大の取引先であった■■■■や同業の医師等であり、業務遂行の必要性や直接性はあるし、別表3の順号19の支出は、本件医院の従業員との忘年会のための費用であり、福利厚生費であるから、必要経費に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件費用Bは、請求人が支出した接待を伴う飲食店又は通常の飲食店の飲食代であるところ、本件総勘定元帳には、別表2から4までの各「本件総勘定元帳」欄のとおり・・・本件各経費明細書には、同各表の各「本件各経費明細書」欄のとおり、それぞれ接待の相手方等が記載されているものの、本件費用Bについては、接待の内容としては、飲食代や食事会、忘年会、食事、新年会といった記載があるのみであり、当該接待の相手方が本件医院の取引先や同業の医師等であったとしても、当該記載内容からは、当該飲食代が、本件事業に係る業務との関係性が明らかではないだけでなく、客槻的にみて、業務の遂行上必要な支出であるとまでは認めることはできない。そして、請求人は、本審査請求においても、本件事業に係る業務との関連性等につき、当審判所が具体的な立証を求めたにもかかわらず、本件費用Bの支出が、本件事業に係る業務に関連し、また、業務の遂行上の必要があったことを示す証拠を提出せず、その他、本件費用Bの支出が、客餓的にみて、本件事業に係る業務と直接関連し、また、業務の遂行上必要であったことをうかがわせる証拠はない。
B 本件費用Cのうち別表2の順号17の費用について
 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のハのとおり、■■(眼鏡小売店)及び■■■への接待の目的は、本件医院の診療時間が延びた場合に、両店舗にも営業時間を延長してもらえるようお願いをし、患者の薬や眼鏡等の対応をお願いするためのものであるから、別表2の順号17の費用は、必要経費に該当する旨主張する。
この点、本件費用Cのうち別表2の順号17の費用は、上記ロの(ハ)のとおり、お菓子代(お土産代)と認められるところ、同表の同順号の「本件総勘定元帳」欄及び「本件各経費明細書」欄のとおり、本件総勘定元帳と本件各経費明細書には、「■■■■■|又は「■■・■■■■■■■」及び「おみやげ」との記載があるのみであり、当該記載内容からは、本件事業に係る業務との関連性が明らかではないだけでなく、客観的にみて、業務の遂行上必要な支出であるとまでは認めることはできない。
さらに、請求人は、本審査請求においても、本件事業に係る業務との関連性等につき、当審判所が具体的な立証を求めたにもかかわらず、別表2の順号17の支出が、本件事業に係る業務に関連し、また、業務の遂行上の必要があったことを示す証拠を提出せず、その他、上記支出が、客親的にみて、本件事業に係る業務と直接関連し、また、業務の遂行上必要であったことをうかがわせる証拠はない。

うーん、厳しいですね。

この事案では、上記の判断の対象となった「本件費用B」や「本件費用C」とは別に、医療法人を設立しなければ分院を開設できないはずであるのに、分院長をスカウトするための接待交際費として3年間で1000万円以上を必要経費に算入していて、そのことが「本件費用B」や「本件費用C」の判断にも影響を及ぼしているようなのですが、それにしても取引先の接待や従業員との忘年会・新年会でもダメというのは厳しい判断ですね。

ただ、この裁決に限らず、審査請求や訴訟では、個人事業主の接待交際費等の必要経費該当性について、かなり厳しい判断がされる傾向にはあるように思います。

例えば、弁護士会の役員活動費用について必要経費に該当することを認めた東京高裁平成24年9月19日判決も、日弁連事務次長の父親の逝去に伴う香典や弁護士会事務員会の活動費への寄付については必要経費に該当しないと判断していますし、やや特殊な事案に関するものではあるのですが、東京地裁平成17年12月22日判決は、「警察署の外郭団体等や県庁職員OB会等との懇親会費、警視庁警察学校職員との暑気払い、事件紹介者・依頼者との飲食及び弁護士会等の懇親会の2次会、3次会費用としての飲食代、国会議員や市議会議員等の後援会や大学、大学院等のOB会費等の会費、国会議員や市議会議員、警察署外郭団体等に対するお祝いや、事件依頼者及び紹介者等とする者への香典・お祝い等の慶弔費、贈答品費」を含む接待交際費について、以下のように、その全てについて必要経費に該当しないという判断をしています。

しかし、日常の交流・交際やそこから生まれた人的信頼関係を機縁として仕事を依頼される場合のあることは、何も弁護士業に特徴的な事柄ではなく、自由業における業務一般に広く当てはまるものというべきである。こうした日常の交流・交際の費用を支出することが仕事を得る一つの端緒となることがあり得るとしても、それは支出の直接の目的ではなく、飽くまでも間接的に生ずる効果にすぎないものであり、外形的に見ても、これを個人的な知己との通常の交際と区別することはおよそ困難なものというほかない。前記所得税法及び同法施行令の規定の趣旨に照らすと、それが必要経費に算入されるためには、業務の遂行上必要なものであるか否か、その部分を明らかに区分することができるかなどの点について個別具体的な検討を要するところ、原告主張の接待交際費に含まれているゴルフ関連の支出はもちろんのこと、それ以外の上記支出についても、業務の遂行上の必要性を認め難いものであって、これを必要経費に算入することはできないといわざるを得ない。

そのような裁判例の判断を踏まえると、上記のような裁決の判断もあり得るのかもしれませんが、接待交際費というのは、事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図るために支出されるもの(東京高裁平成15年9月9日判決)であって、そもそも事業に係る業務との関連性を具体的に明らかにすることが難しい性格の支出のはずですので、事業に係る業務との関連性を「具体的な立証」することが必要だとすると、個人事業主の接待交際費が必要経費としてみとめられる余地は、殆どなくなってしまいそうです。

そして、そのような帰結が妥当なのかというと、事業を行う上で接待交際費がある程度は必要と考えられることからすると疑問があります。

確かに、線引きが難しいところだとは思うのですが、取引先や従業員との飲食費については、その金額や回数が合理的なものである限り、一般的には事業に係る業務との関連性があるものと思われますので、納税者が事業に係る業務との具体的な関連性を明らかにできなかったとしても、必要経費として認めて良いのではないかという気はします。

とはいえ、裁決や判決でそういう判断をしてもらえるかというと、残念ながら、あまり期待できないような気はしますので、個人事業主の接待交際費等の必要経費の該当性については、余程のことがない限り、税務調査で決着をさせた方がよいのではないかと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?