小麦麦芽と小麦のもんだい
このところよく見かける「小麦のビール」。
大手メーカーも、大手傘下のクラフト(クラフティ)ブルワリーも、インディペンデントなマイクロブルワリーも、「ビールは苦いから好きじゃない」層を取り込むべく、苦くなくて飲みやすい小麦のビールを造っている。
まえおき:小麦のビール
小麦のビールには、大雑把に3つの系統があり、それぞれ特徴がある。
(1) ヴァイツェン、ヴァイスビア
(2) ヴィットビア、ベルジャン・ホワイトエール
(3) アメリカン・ウィートエール
ひとつめ、ヴァイツェンおよびヴァイスビアは、言わずと知れたドイツの伝統的スタイルである。
ヴァイツェンはそのものズバリ「小麦のビール」、ヴァイスビアは「白いビール」を意味する。前者はドイツ全般、後者はバイエルン地域の呼称で、まあ中身は一緒だ。
小麦麦芽を原料に用い、スパイスは使わず、酵母の働きでクローブやバナナのような香りを作り出す。香りの甘さに対して、味わいはすっきりとして後味も軽く、非常にドリンカブル。
ドイツの小麦ビールには他にも、ケルシュ/ヴィースが有名だが、いったんここでは語らない。
ふたつめ、ヴィットビア、英語でベルジャン・ホワイトエールは、ベルギーの伝統的スタイルである。
ヴィットビアは「白いビール」の意。
発芽していない小麦を用い、コリアンダーシードとオレンジピールで香りつけする。発芽していない小麦は糖化酵素(アミラーゼ)が非活性のため糖化しにくく、酵母が食い残し、滋味深く(悪く言うと雑味が多く)白く濁ったビールになる。飲みやすいとは言われるが、その味わいは意外とこってりしている。
ヴィットビアの伝統は一度完全に途絶えたらしいが、ヴィットビア再興の父ピエール・セリス氏により復活。かのヒューガルデン・ホワイト(フーハールデン・ヴィット)は、リバイバルした最初のヴィットビアである。が、現在は世界最大手飲料メーカーのひとつアンハイザー・ブッシュ・インベブの傘下にあり、世界一有名なクラフティビールのひとつである。
さいごのアメリカン・ウィートエールは、アメリカンな、つまりホップを効かせた小麦のビールである。(アメリカンと付くスタイルはたいてい、大量にホップを使う。)
ウィートは小麦のことである。
ホップを効かせ過ぎたものは、ホワイトIPAとかウィートIPAとか呼ばれたりする。
小麦麦芽を使うが、小麦麦芽か小麦かとかはどうでもよく、ホップこそが大事。
ほんだい:小麦麦芽と小麦のもんだい
長い前置きを経て、ようやく本題に入る。
ここで問題として扱うのはベルギー「風」ホワイトエールである。
ベルギー風ホワイトエールは、ヴィットビアを模している。
ヴィットビアは、発芽していない小麦を用いることに、スタイルを確立するポイントがある。
しかし! 多くのベルギー風ホワイトエールは、小麦麦芽を用いている(その理由は効率である)。これは大手のクラフティに限らず、インディペンデントなマイクロブルワリーでも割りと多い。
小麦麦芽を用いているため、厳密にはヴィットビア/ベルジャン・ホワイトエールとは呼べない。なので、はっきりと「ベルジャン」と名乗らない場合が多い。
はっきりとは名乗らないが、ヴィットビアと関連があることは大いに匂わせている(インスパイアされた的な表現がよく用いられる)。
それでいいのかベルギー風。
未来へ……
定義にこだわり過ぎるのは良くない。
良くないが、"伝統に"とか"本来の"とかは無視してはいけないとも思う。
うーん、まあ、特に未来に繋がる話はないなあ。
ビール飲んで寝よ。
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