奈良学生演劇祭の感想

2021年12月4日(土)

こんばんは。

土曜日はお昼に近鉄奈良駅から歩いて15分くらいのところにあるホールで奈良学生演劇祭が開催されていたので観に行きました。

なんと、今回が記念すべき第一回目の開催とのことです。これはめでたいことです。

僕が過去に参加した京都学生演劇祭と同様に、優秀な団体が推薦されて全国学生演劇祭へと招待されるいわば全国の予選となる大会です。

奈良学生演劇祭に参加していたのはなんと3団体、この中から1団体が全国への切符を手にするという倍率の低さ。

羨ましいなと思いつつも、奈良に演劇の風を吹かせてくれたことに感謝を伝えたいです。

興る、ということは基本的にはいいことですからね。

さて、せっかく演劇を3本観たので感想をここに書き留めておこうと思います。

僕自身も演劇をやっていますので勉強のためでもあります。


●劇団D' 『叶うは苦楽這う中』

いやーかなり挑戦的な芝居でしたね。これを45分お前たちは飽きずに観れるのかという挑戦です。うーん、ちょっと厳しかったですね。もう少し演劇の利点を活かしてほしかったなと思います。

一番理解出来なかったところは、男は自殺したくせに死ぬ覚悟をもてずに生と死の狭間をうろうろしているところです。事故死とかの急死で、それを受け入れられずにさまよっているなら納得できるのですけどこの男は生前自ら死を選んだわけなのに何を今更渋っているんだと思うわけです。そういう意味で全く男の気持ちに寄り添えませんでした。

それから物語として何も起きない。迷い続けるまたここへ来るという話なのは十分わかりますが、それを延々と観せられる立場になってみてもらいたいです。やはりドラマですからある程度展開していってほしいわけです。本能としては死にたくない、でも人間の責任として死ななければならない、それを選択できずに先延ばしにしずっとさまよい続けるという内容ですが、その心情の揺れというのは外因的なものではありませんよね?あくまで自分一人で一人の中でうだうだと迷っているわけです。しかも今初めて男が抱いた感情ではなく常々思っていることです。それを我々が今観る価値はどこにあるのでしょうか。例えば、管理者に初めて出会ってそこで初めて人間の責任として死ななければならないということを知らされて男が葛藤するのならこれは立派なドラマだと思います(男が自殺の時点で説得力はありませんが)。しかしその管理者とやらも「いつまでそこに居るんですか」と何度も忠告しているかのように登場してきます。そして謎に苦しむコロス。2回目の登場では謎に優位に立っていましたが。うーん、そこもよくわかんなかったな。何がしたかったのか。とりあえず、展開が欲しかったなというのが主な感想です。

これを難しかったなで終わらすのは騙されているわけなのでそれではいけません。理解できないのは演者側に不備がありますから。それでもいい、やりたいことをやるのだというのなら止めませんが、観る人がいて初めて成立するのが演劇ですので、演出は観客目線でつけてあげるのがベターだと個人的には思っています。特に、役者の立ち位置ですが、やっぱりセンターに一人固定は圧がすごいです。もう少し横を使っても良かったと思います。それからコロスの立ち位置も男の斜め後ろ2か所と台の上の3か所しかないので、広い舞台に4点しか見るとこがありません。これは少しいやかなりもったいないと思います。特にコロスはもっと自由に動かせると思いますし、男も縛り付けられていないで逃げてもいいと思います。サスから抜けても地明かりにしても観客はこの男がずっと同じ場所にいるということは認識できます。男が責任として死に向かう時はコロスから逃げ、また本能が現れる時はコロスに近づくなど、二人の距離感で魅せられる部分がもっとあったと思います。男が動かないというのは退屈でしたね。演技に限界を設けてしまっていましたね。観客の想像力に委ねてもっと舞台を自由に動き回ってほしかったなと思いました。

何か良いことも書きたいのですが、本当に申し訳ないですがひとつもありません。演出として苦痛を与えるものには及ばずにただただ観るのが苦痛な作品でした。


●カチコミ『Fランの豚』

面白かったです。作り手が上手でした。はじめ家で飲み会しようってなって乾杯して就職の話とか恋の話とかし始めた時はなんてチープなありきたりなと思ってちょっと心配していましたが、あの嘉村?が出てきたあたりからちょっとこれは別もんやなと笑えるようになってきました。嘉村は後半に全く効いてこないし出ても来ないしほんまにワンポイントウケのためだけの配置でしたけどそれが結局アリにさせていました。嘉村は良かったです。きちんとウケをとるのはえらい。

それからキクマル水産の方、演技が達者で素晴らしかったです。空気の作り方がベテランでした。その場を支配しなければならない役できっちり不穏な空気で包むことが出来るのは腕だと思います。適役でした。

駅で止めに来た同期二人と最後のデュエルをするシーンですけど、最初のサムいデュエルがここで回収されていてまず良かったし、それに加えて普通に感動してしまいました。八島くんの情熱の芝居は観客の心をがっちり掴むパワーがありました。MVPには八島役の方を挙げさせてもらいました。

ツッコミどころはたくさんあるあっらい粗い劇なんですけどそのバカバカしさと、たまにチラッと垣間見える巧みさのおかげで45分飽きずにのめり込めました。

気になったのは偏見が偏見で終わってるところですかね。ネジ工場に内定が決まった子をネジ工場でイジるのですが、そこで終わってしまうとちょっと悪質になってしまいます。せめて、内定決まった子が反論するなり、着地としてネジ工場で働いておられる方々への侮辱となりかねない状態をリカバリーする必要がその系のイジりにはあると思います。

偏見で言うと、東京に対してもそうですね。というかそういう劇なのである程度仕方ないのですが、関西でやってるから受け入れられると思いますけどこの劇東京でやったら怒られると思いますよ。悪いのは東京じゃなくてキクマル水産の詐欺師なわけですから、それを東京になすり付けるのはいかがなものかと思います。東京という漠然とした憧れの街がいざ来てみると厳しい場所だったというのなら、一人の男に騙されただけでそこまでひっくるめるのは無理があります。通行人とかも加えていましたがそれでもまだ足りないと思います。ちょっと東京都民からすると、東京のせいちゃうわ!と萎えてしまうような幕切れだったかなーと思いました。

それと、やっぱ結末がわかってるのはおもんないですよ。どうなるんやろ、結局こいつは成功するのかな?が楽しいわけです。そら失敗するやろなーってもちろん客は思いますが、それを確定させたのがいけないと思います。それが、キクマル水産が電話中耳からスマホを離して実は電話は嘘だったと客にだけ知らせるシーンです。あれはほんとにいらない。なんであれ入れたの?その瞬間オチが確定してしまい、そこから残りのシーン全然ワクワクしなくなりました。なんや、やっぱ詐欺やんけ、という理解は、中井と客が同じタイミングで気づかんと絶対アカン。客だけ知ってて中井は気づいてないってそれ以降観る意味ないです。そのせいで駅のシーンせっかく感動的なのにイマイチ楽しめませんでしたし、バッドエンドがわかっているせいでバッドの落差がなさすぎてインパクトに欠けました。

もう面白いんやからあんなもったいないことせんといてください。

絶対耳からスマホ離すシーンいらん!お願いだから消してください。

どうなるんやろうなあワクワク、を最後の最後まで保てるようにしてほしいです。


●ノラ『光をひきて谷にゆくかも』

画として完成度が非常に高い。役者の質がぶっちぎりで高い。演出力が素晴らしい。美術として美しい。ただ、何の話かわかりませんでした。

ものすごく抽象度が高い脚本で、さっきと言ってること違うと思いますが、想像力にも限界がありますよ。断片的にシーンが連続し、なぜか桜が舞って終わったという感じでした。

ただ、投票はここに最高点をつけました。これは変わりません。完成度が明らかに別モンでしたので、これを評価してあげないのは違うなと思ってしまいました。ほんとは何の話か分からんかったんやけどね、高得点つけさせる技術だよね。美術かな。美術と演出に高得点つけました!そういうことで!

僕の想像力の限界で話すと、多分あそこは病院で、登場人物はその病院の関係者、まあそらそうやろって感じやけど、看護師やってる時もあれば患者のように見える時もあり、両方やってたのかもしれないけど、ま、大したことではないのかもしれない。そして、爆発のような爆撃のようなシーンがあり、歴史という言葉に対して敏感にさせるところからも戦争がどうしても匂ってしまう。戦時中の病院的な施設だったのかな。それなら初めの男の恋の長話は一体なんだったんだ?ま、考えてもわからない。伝えたかったことはパンフに書いてありました。これはこの劇を見るだけではわからないよ。それと、パンフに書いたら劇観る意味ないよ。うーん、ここのあんばいは難しいですよね。

プロジェクションが非常に綺麗でした。舞台上の空間すべてをスクリーンとし、役者や装置の凸凹に無理やり映すのは思いつきませんでした。最後、蝶が飛んだら最高なのになと思っていたらきちんと蝶が飛んでくれて、もう言うことないなと思いました。桜吹雪はあの時間あの量降り注ぐだけ仕込んだのがえらい。あの量振ってると気持ちがいい。でも、あんだけいろんな花が会話で出てきたのに最後は結局桜かーみたいなね、お決まりかよ的な安っぽさがちょっとあったかな。色んな花がビジュアルとして出てくればもっと賑やかに演出できたのではないでしょうか。花瓶に一本は寂しいからね。

あんだけのベッドを搬入できるなら大量の花もいけるはずや。お葬式くらい出してもええと思います。むしろお葬式感が出てよかったかもしれません。

まあなんにせよ、役者演出音響照明衣装などなどのレベルがかなり高いと思いました。そういう時はMVPに演出を選ばさせて頂きます。


こんなところでしょうか。

結果は既に発表されているようで、審査員賞(全国学生演劇祭推薦)がカチコミさんで、観客賞がノラさんだったそうです。

両団体のみなさんおめでとうございます。それからカチコミのみなさん全国頑張ってください。劇団D'さんも上演ありがとう。ボロクソ書いたと思うけど上演してくれることには感謝ですからね!京都出ろよ〜!

てなわけで奈良学生演劇祭お疲れ様でした。無事終わったようで何よりです。僕自身久しぶりに演劇を観て楽しかったと同時に創作意欲もわいてきました。

演劇観てる時が一番書きたくなるよね。

これはみなさんそうだと思いますけど。

そうですよね。

じゃこの辺で。

さようなら。

たきざきでした。また来ます。


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