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秋晴

悲しい話だけど、わたし自身は悲しいだけじゃなくてあたたかい気持ちでもある不思議な感覚です。わたしの中でいったん区切りをつけるためにも書きました。それでも悲しくて読みたくない人もいると思いますが、どうかお許しください。

これを書いた2日後にととちゃんは旅立った。

病気だとわかった時、余命を知った時、ほんとうにショックだったけど、それでもまだ、亡くなってしまうのはもう少し先のことだと思っていた。

その日わたしは、実家から仕事に行って実家に帰った。それは、治療が始まったばかりのととちゃんの様子が心配だったからだ。看取るためではなかった。

わたしが思っていたよりも早くその日が来てしまうことをなんとか飲み込んだところだったけど、それよりもずっと早く来てしまった。

わたしが仕事に行っている間、母は家にいて夕方ごろ姉も様子を見に来ていた。姉が自宅に戻ったあと、駅までわたしを迎えに来てくれていた母と一緒に家に帰った。

わたしが帰った時、ととちゃんは起き上がりはしなかったけどしっぽをパタパタと動かしてくれた。
その後、母と2人でキッチンに立って夕食の準備をしていたら、ととちゃんはいつのまにかわたしたちの足下まで歩いてきていた。

その時は少し調子が良くなったのかなって思っていたけど、今思うと最後の力を振り絞って近くに来てくれたのかもしれない。母がわたしを迎えに行くときに「お迎え行ってくるね」と声をかけたからわたしが帰ってくるのを待っていてくれたのかもしれないとも思っている。これは飼い主のエゴ。

夕食の準備が済んで食卓に移動する時、声をかけるとわたしの後についてトテトテと歩いてくれた。食事中もわたしたちの足元で寝転んでいた。

食事が終わる頃、2人の間あたりに置いてあったクッションに乗ろうとしていたのだけど、それが出来なかったので母が抱き上げてひざの上にのせた。

いつもと変わらない光景だった。
いつもだったら食事中に抱っこすると食卓の上が気になって仕方ない様子だったのがさすがに落ち着いていたけど、父が単身赴任で姉が結婚している我が家では、わたしが去年一人暮らしを始めるまでは、わたしと母とととちゃんの3人でのこういう風に過ごすことが多かった。

母が抱っこして数分後、突然ととちゃんの様子が変わった。ぐったりとして力がなく、舌が真っ白だった。わたしと母は病院や家族に急いで連絡した。だけどその間にととちゃんの息が止まったのがわかった。それでも声をかけ続けて病院に急いだけど、到着してすぐに死亡が確認された。
病院で身体を綺麗にしてもらった後戻ってきたととちゃんを見て、わたしは「かわいい」と言った。いつもは笑っているはずがこの日は泣きながらそう言っていた。

病気がわかって3日後のことだった。あまりに突然で夢であってほしいと思った。
だけど涙は紛れもなく現実で流れている。

家にととちゃんを連れて帰り、まだ柔らかくてどことなく温かいととちゃんをみんなで順番に抱いた。すやすやと窓際でお昼寝をしている時と変わらないように見えるのにもう目を覚ますことはないらしい。
ふわふわまんまるのままでかわいいととちゃんだった。

その日からわたしは母の部屋に布団を持って行き、母との間にととちゃんのベッドを置いて川の字で寝た。
寝る前や夜中に目が覚めた時、わたしたちはととちゃんの頭を撫でた。
時々ととちゃんを撫でようとするわたしと母の手が重なることがあってわたしはふっと笑った。
体はカチカチに固まっているしドライアイスや保冷剤で体を冷やしているから、いつもみたいな温かさはないはずなのに、ととちゃんを撫でるとなんだか落ち着いて眠れた。

そしてその5日後。自宅にペットの火葬をしてくれる業者さんに来てもらって、家族みんなで庭で最後のお別れをした。お散歩日和の気持ちのいい秋空だった。
この5日の間に届いたたくさんのお花と、ごはん、だいすきなおやつやりんご、梨、我が家に来た時からずっと使っていたおもちゃを一緒に入れてもらった。

1時間後、出てきた骨だけを見てもなおかわいいと思った。家族で骨を拾った。そのうちいくつかを家族で分けた。専用のカプセルに入れて持ち歩くことにした。

骨を持ち歩かなくても、生活の所々でととちゃんがいたことを感じている。
お散歩の時間になればととちゃんに呼ばれる気がするし、宅配便が来たらととちゃんが飛び出さないようにとドアをしっかり閉めるし、家族で食事をしているとすこし離れたところから羨ましそうに見つめられている気がする。
そのたびに、「そうか、もういないのか」って実感して寂しくなるけど、「ああ、ここにいたんだな」ってやさしい気持ちにもなる。

この繰り返しで、ととちゃんのことを思い出すことも減ってしまうのだろうと思う。そのこと自体がなんだか寂しいし、今はまだ泣いてしまうけどいつかは前を向いて生きていかなきゃなと思う。

寂しい気持ちは薄れても会いたい気持ちは変わらないように思う。ととちゃんをだいすきな気持ちも会いたい気持ちも大事に持ちながら、今からまた生きていくよ。ととちゃんに会えるまで、いつもニコニコのととちゃんみたいにできるだけ明るく過ごしていけるといいな。

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