嫌な奴になったら友達が増えた話


私は女子校に通っていた。

「ごきげんよう」なんて優雅な挨拶は無かったしオタクとギャルと体育会系と自分を持っていないヘラヘラした人間でほとんど構成されていた。

勿論私はオタクだった。


やはりというかなんというか、そこにはいじめやカーストがあった。私は1年春の時点で早々にカーストの下、いじめを受ける位置に居た。

中学時代にもいじめを受けていて、そちらと比較してしまうと(今思えば)軽いものではあったが受けている当時は本当にしんどいものであった。

私が退学しなかったのは、部活が楽しかったりクラスにも仲の良い友人(以下、A子とする)が出来たりと様々な要因があるが、1番は私のプライドが天より高かったことであろう。自分が他人のせいで高校中退するという事が許せなかったのだ。

2年生になり担任が変わると、全員そちらへの嫌悪が高まり私へのいじめは無くなった。

ギャルや体育会系とは最低限の会話をする程度、似たようなオタクと話をして日々を過ごすような可もなく不可もない陰キャの生活をしていた。

しかし(詳細な時期は失念してしまったが、たしか)2年生の終わり頃であったか、別の友人(B子とする)が「A子、苦手なんだよね」と私に言ってきた。

理由を聞くと「人を馬鹿にする/見下している」「自分が出来ると思っている」「自慢が多い」等々、出るわ出るわ、不満の大爆発であった。

しかしその話を聞いて、確かに、と納得する事があった。

テストの点を聞かれ、私の方が高ければ「死ね」、私の方が低ければ「馬鹿」と罵られていた。駅で立っていたら男に声を掛けられて無視しちゃった〜と愚痴風自慢を聞かされた事もあった。そして(私は絵を描くオタクであるので)A子と共に絵を描いていた時に「あんた(私)って手だけは上手いよね、手だけは勝てない」という謎マウントを取られた事があったのを思い出した。

いじめを受け、数少ない「友達」という存在に酔っていた私は気付いた。

「あれ?もしかして私は都合のいいサンドバッグか何かだと思われている?」

100年の友情も冷めてしまう瞬間というのはあるのだと思った。腹が立って仕方なかったのだ。

私のプライドは天より高い。神の居る場所にも届き得るのではないかと心配になる。(バベルよろしくそのプライドを叩き折られてしまったら立ち直れない程度には脆いものであるが)

そのプライドを傷付けられた。それが許せなかった。

しかし集団で何かをしてやろうとは思わなかった。それはいじめだと理解していたし、周囲を巻き込むのは面倒だと思ったからだ。


私は一人でなんの前触れも無くA子を避けた。

会話をしない。目も合わせない。話し掛けられても「あぁ」と生返事をして立ち去る。

クラスの全員が私とA子はお互い1番の友人である事を知っていたので、それは衝撃だったのであろう。やたらと「どうしたの!?」と聞かれた。都度彼女たちに説明をすると納得する者も居れば「今更!?」と笑う者も居た。いや気付いていたなら言ってくれ。

私がA子を避けた途端、彼女たちは私とも会話をするようになった。話を聞くにA子は他の子や部活でも自慢やマウント取りをしていたらしい。私は元々カーストの下にいたが、A子と離れた事によって何故か少し上に来てしまったらしい。(それでも平均よりは下だが)

私は皆と挨拶できる程度の仲になった。

A子は私以外と話はするがある程度の距離を置かれていた。(私が気付いていなかっただけかもしれないが)

3年生になり、「まあもう流石にマウントとか取らんやろ……」くらいの軽い気持ちで再び会話をするようになった。別に趣味の話をするでもなく、必要最低限は話す程度に留めた。それがいけなかった。

普通に話し掛けてくるしなんならマウントも取られた。

また会話をしなくなった。


私も愚かであるし最低な事をしていると思うが何故向こうはまたマウントを取れると思ったのか甚だ疑問である。

その後普通に会話もなく卒業し、互いに県外に進学した。

同窓会は私は行ったがA子は居なかった。安心した。A子と同じ部活だった女子(彼女もA子を嫌っていた)が笑いながら「まだA子ちゃんのこと嫌いなの?」と聞いてきた。逆に好きになるとでも思っているのだろうか。

頷くとまた笑った。酒が入って上機嫌だった。


多分私と彼女の関係性は「(仲が良いというわけでもないが言葉にするならば)友達」という程度だと思う。しかし、A子との事が無ければ特に関わらなかったと思う。クラスの半分程度はそんな人間ばかりだ。私は一人の親友を切り捨てた事で、大勢の薄っぺらい友人ができた。

別に後悔はしていないし、また時間が戻されたとしたらそもそもA子とは友達にはなっていないと思う。他のクラスメイトとも別に仲良くなろうとはしていないだろう。

私は自分のプライドの為に平気で他者を切り捨てる人間だし、クラスメイトの多くが友情の崩壊を面白がる人間であった。

でも友人はそれなりに居る。

多分B子に言われないまま、私が愚鈍な女であればA子との交流は続き、友人は増えることもなく、知らず知らずの間にクラスの鼻つまみ者にされていたのかもしれない。


私は嫌な奴になった事で友達が増えてしまったのだ。


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