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名古屋出張 ミユキの想い出

名古屋方面の仕事をいくつかしているせいで、月に何度か名古屋を訪れる。
新大阪から新幹線で50分、コンパクトな関西圏の中であっても神戸の端の方に行くのと大差ない時間距離だ。それでも3年くらい前はもっと頻度が多かったので、時々は泊まることもあった。
当時、定宿に使っていたのは駅前のミユキという名のホテルだった。真新しい高層ビルが林立し、いつでも人混みで溢れ、活気に満ちるこの名古屋駅周辺の中で、ミユキのある太閤通口はなんだか友だちのテンションについていけてない地味な娘のような駅前だったし、その中でも特にミユキはどこか悲しげな、寂しげな雰囲気を漂わせていた。
初めてミユキを訪ねたときのことを今でも覚えている。当日に予約を入れて、日付が変わりそうな夜深くに訪れると、空いていたので広い部屋にしておきました、と鍵を渡された部屋はベッドが2つ置かれたツインルームだった。
一人暮らしでもできそうなやけに広い部屋で、小さなテレビと古びた浴室、うまく繋がらないWi-Fiと、なんだか懐かしさと親しみやすさを感じた。
いくらだったか忘れたけど、コロナ前でも異常に料金も安かった。何十年ぶりに新しい支店をつくるプロジェクトを切り拓いていく一員として、キラキラした都会的なホテルよりも、野武士感や旅人感がマッチしていて、ここでいいなと思ったのだ。
無事に支店もでき、名古屋駅前の小さなオフィスから、栄に事務所を構えることになり、名駅の居酒屋でグダることも、その帰りにミユキの寂れた一室で有料チャンネルを垂れ流すことも、なんだか遠い過去になってしまった。
ただ新大阪に向かうプラットフォームに立てば、すぐそこにミユキの名前と緑色の何ともいえない外観と対面する。
そして、またいつか、ミユキに会いに行くだろうことをそっと、心の奥底で、約束を交わすのだ。

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