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カブ子、カブ代、カブ夫

カブちゃんを飼い出したことを会社の同僚に伝えたら、カブトムシを大量に育てている彼女から、メスのカブトムシをもらった。カブ子である。
それがちょうど一週間前。小さなお菓子のケースに入ったカブ子をうちに持って帰り、カブちゃんのいる虫かごに入れてあげた。
カブちゃんは基本夜型で、昼間は土の中や落ち葉の下に潜んでいる。夜になると、ゼリーの上で食事をしているが、とても静かだ。引きこもりっぽい。
一方で、カブ子は朝型だった。カブトムシはみんな夜行性だと思っていたが、カブ子は昼間でもゼリーを食べていたり、ごそごそ動いていたりしていた。カブちゃんとえらい違いだ。同僚からちょっと弱っているけど、と言われていたが、カブちゃんしか知らない僕らにしては、かなり活発で健康に見えた。
ところが、別れは突然やってきた。台風が来て、雨戸をぜんぶ閉めて、暗い部屋の中で過ごしていたその日、カブ子は明らかに動かなくなった。ひっくり返って、ぴくぴくと足が一本だけ動いていた。
次の日の朝に、完全に死んでしまったことを確認した。子どもたちは声をあげて泣いたという。特に息子が号泣したそうだ。一週間も過ごしていない昆虫に対して。
どんぐりの鉢の中に埋めてあげたという。
そして、カブ子が残念ながら召されたことを伝えると、同僚が今度はオスとメスをくれた。オスとメス一匹ずつだとなかなか子づくりしないが、もう一匹オスが増えると、その辺が活発になるのだと。
人間みたいだ。生物はそんなものなのかな。なんとなく気持ちは分かる。
ということで、本日カブ代とカブ夫を連れて帰る。
命がつながるといいなと思ってのことだが、せめて友だちになってくれればいい。
カブトムシの命は短い。夏が終わる頃にはみな死に絶えていくとのことだ。
一人夜中にゼリーを食べるよりも、そいつを奪い合ったり、分け合ったり、ちょっとタイミングを見計らったり、めっちゃガツガツ食ってるやんとか引いたり、おい、俺のぶん残しといてや、と小突いたり、そんなのがあったほうがカブちゃんのクオリティ・オブ・ライフは高まるはずだ。
そう信じて、家路を急ぐ。
子どもたちは寝ずに待っているらしい。

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