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《死者たちの宴》3‐3. 穢れ為す者



‼️注意‼️

 以下の文章はD&Dシナリオ、CM2 ーDeath's Ride(邦題『死者たちの宴』)を遊んだ時のレポートです。完全にネタバレしていると思われますので、これから遊ぶ方はご注意ください。


オルクスの眼

 というわけで、天守塔に戻り、探索を続けた。
 が、扉を開けても開けても、無人の部屋か、戦闘で焼けた部屋か、物取りに荒らされた部屋があるばかり。生存者も、魔剣の欠片も残っている様子はない。

 ドーンがあまりに無造作に扉を開けるので、つい心配になり、「聖騎士は、扉の向こう側にある聖邪の気配を見ずして知るというが、先ほどのように姿を変じさせられた生存者を誤って斬ってしまわぬよう、先に気配を伺うべきではないか」などと言ってしまった。

 「おお、そうであった。そして、皆、備えよ。この扉の向こうには極めつけの邪悪がいる」

 ドーンは答えて寄越し、そして、一拍おいて扉を蹴り開けた。
 死臭と黴と湿った土の混ざった臭いが鼻をつく。

 部屋の中空に、ぼろきれに身を包み、元はヒトであったことが辛うじてわかる程度にまで歪みきった、おぞましい影がふたつ、浮いていた。アンデッドであることは論を待たないが、咄嗟のことで正体が思い出せぬ。

 私の目の前で、二つのおぞましい影は身じろぎした。おそらく“目”と”口”にあたるのであろう、底なしの深淵のような三つの穴が、それぞれの頭部と思しきあたりにぽかりと開き、歪む。
 不快な冷気が押し寄せ、先陣を切っていたドーンが微かに呻く。

 見てはならぬ、見られてはならぬ。あれはそういう“モノ”だ。
 
 だが、見ねば斬れぬ。
 見られねば神の威光をもって死者を打つこともできぬ。

 身震いしながらもドーンは室内にずかずかと踏み込む。虚無の牙が精神を削るが、聖騎士の堅固なる信仰の前にはそれがいかほどの脅威になろうか。私も一歩進み、聖印を高々とかざす。
 「万が一、危なくなったら、三歩下がれ。奴らの視線の通らない闇の帳を張ってある!」
 “三つ目”の低く掠れた声が響く。と同時に私の傍をすり抜けて、炎の矢が死者に喰らいつく。

 不浄の命が削り尽くされると、死者は床に落ちて動かなくなった。息を整えつつ、今度こそ真の死に引き取られたはずの死体を改めーー思わず私は後ずさった。

 「これはーーボダックではないか」
 
 オルクス信徒が我と我が身を贄としてオルクスに捧げて死ぬと、このおぞましい怪物に変じる。そして虚無と恐怖を周囲に振り撒き、生者の命を削るのだ。
 さらに恐るべきことがある。このボダックなる化け物の別名は《オルクスの眼》という。動く死者と化した信徒の目を借りて、オルクスは地獄に在りながら、この世の全てを”見る”のである。つまり――我らの存在と活動は、つい先ほど、《流血公》オルクスの知るところとなったのだ。

 だからといって、我々の為すべきことは変わらない。
 まずは生存者と――かなうならば魔剣の欠片を求め、城内の探索を進めるのみ。

城に残るもの

 相変わらず荒らされた後の無人の部屋が続いたが、ひとつだけ、骸が打ち捨てられたままになっている部屋があった。
 倒れていたのは兵卒で、おそらくはボダックの撒き散らす虚無に触れてしまったものだろう。死に際の顔は目を背けたくなるほど歪んでいた。
 顔を整え、死せる魂の安息のための祈りを唱える。亡骸が見つかったということは、死者の骸を悪しきものに変質させる暇がなかったものであろうとも思われた。いよいよこの先には生存者がいるかもしれぬ。

 その期待は結局は裏切られ、その後も“何もない”部屋ばかりが続いた。
 塔の中央部に宝物庫と思しき場所もあったが、そこでは近くの窓が無理に押し破られ、廊下は焼け焦げてその先の鉄扉が半ば熔け、扉の中はきれいさっぱり略奪されていた。
 ――この破壊のあと、なにやら巨大なものを捩じ込んで、さらに火炎で焼き払ったかのような……
 そんな芸当ができるのは、順当に考えると……いや、あまり考えたくはない、が。
 どうやらオルクス信徒軍には、悪竜も与しているらしい。
 
 なかなかぞっとしない事実をつきつけられつつさらに進むと、ようやく荒らされていない部屋に行き当たった。しかもありがたいことに、軍議の後が、机上に広げられた地図にきれいに残っている。

 「知れたぞ。城の生存者は、まずはアリコールの村へと向かい、ウェストレイクを船で渡って北岸のハイパスの砦にて体勢を立て直すつもりだ。直ぐに我らもそこへ向かおう」
 ドーンが勢いよく言う。
 もちろん否やはない。

 「アリコールってのは、例の魔剣が出現したところだよな――よし、急ぐぞ、とっとと行くぞ」

 ”三つ目”の声音も変わる。《魔剣》という言葉が出るたびに気配が何やら穏やかならざる色を帯びるのは――彼がこのような姿にされた経緯とも関わるのかもしれぬ。根拠はないが、ふと、そのように思った。

 それ以後は、廊下の隅に潜んでいたゾンビの群を打ち砕いた以外には、死者にも生存者にも手掛かりにも出会わなかった。

 少なくとも城にはもはや、脅威も守るべきものも残っていないと結論し、アルマンドたちの待つ兵舎に戻った。一夜が明ければ新たに神と交感し、これからの脅威に備えることもできるし、まず、レディ・アムマイラにかけられた呪いも解かねばならぬ。

 ――いや、最初は
 「レディを伴ってアリコールの村までの道中を行くのも何かと不用心。レディには失礼ながらこのまま抱えて村までお運びして、そこで解呪というのは……」
 と申し出てみたのだが、これはドーンに即座に却下された。

 「プラニダーナ、その――アムマイラ殿と意が通じているおぬしにはどのように見えているか知らぬが、それは鶏でなくコッカトリスの姿、行き合った人に化け物だと思われても仕方がない。
 それにおぬしの神について私は詳しくは知らぬが……その聖印は、邪印と誤解されかねぬ――」
 そこまで言ってしまってから慌ててドーンは口をつぐんだ。

 なに、わかっている。わが神に対する不敬を口走ったことさえ自覚していてくれればよい。不浄なる死者を打ち払うのに必要であるから、ずっと聖印を胸元に掲げていたが、私とて普段はこれを法衣の下に収めているのだ。
 聖印をなぜこの形と定めたのか、我が神のことながら、少しばかり恨みがましい思いはなくもない。

 ジャーガルの聖印は、巻物を咥えた髑髏であり、しかも《神の座を自ら降りし神》のことを知る者は少ない。
 私がコッカトリスを抱えて歩いていれば、不浄なるものと間違われても、確かに不平は言えぬのだ。

2024, 05, 21 《死者たちの宴》第3回セッション
システム: D&D第5版
DM: D16
ドーン・グレイキャッスル / ヒューマン / 13Lv パラディン: ふぇるでぃん
“三つ目” / ライトフット・ハーフリング / 11Lv ソーサラー/2Lv ウォーロック:チョモラン
プラニダーナ/ ヒューマン / 13Lv クレリック:たきのはら
 

 

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