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《死者たちの宴》1‐1. 凶兆の守護天使



‼️注意‼️

以下の文章はD&Dシナリオ、CM2 ーDeath's Ride(邦題『死者たちの宴』)を遊んだ時のレポートです。完全にネタバレしていると思われますので、これから遊ぶ方はご注意ください。

予兆

 その日、死の神――《死者の王》にして《罪人を裁くもの》ケレンヴォーの神殿を、王城からの使者が訪なった。神殿の片隅にひっそりと設えた私の書斎に使者が届けてよこしたのは、この地・ハーツヴェイルの王太子妃でもある私の古い知人、《シルヴァリームーンの魔女》イリアナからの、随分と久々な、そして急な呼び出し状であった。

 彼女には似つかわしくない走り書きの筆跡に、私は何かただならぬものを覚えた。

 そこで引き返す使者に同道し、王城――ハートウィック城に急ぐと、すぐに妃殿下の個人的な図書室に通された。そして案の定、侍女に人払いを申し付けるイリアナの表情はひどく憔悴していた。

曰く。

 ハーツヴェイルの奥深くにある、トゥレイクヴェイル領との連絡が途絶えた。本来なら今頃納めにくるはずの税を送ってこないだけでなく、普段なら行き来の途切れないはずの隊商もやってこない。

 もとより巨人やオーガの棲む地を開拓して砦を築き、人の住む領土と成した土地、相応の危険はある。取り囲まれて身動きが取れなくなることも有り得るが、それならば神官や魔法の使い手が何らかの手段で危難を知らせてくるはず……

 しかしそれすらもない。
 きっとおそろしいことが起きているに相違ない。

 イリアナは瞑想し、神に伺いを立てようとした。彼女はシルヴァリームーンの貴顕の例に漏れず、その血に魔力を有した術師である。しかも魔術の神ミストラの魂から直接に力を授かっている。祈れば神から何らかのしるしが得られるはずであった――が。

「まさに魂を中空に放とうとした時、私のもとに守護天使が現れ、それを制止しました。
 その、(と言いかけて彼女はやや口ごもった)天使、は、こういったのです。

 ――彼の地は危険だ。死の暗い影がフェイルーンに落ちようとしている  
 ――お前が神の助力を仰げば“影でありし者”が呼応し、事態は進展してしまうだろう。彼の地に赴かぬお前が事件に関われば、取り返しのつかないことになる

 ……と」

 ですから、プラニダーナ師、私はあなたを呼んだのです。
 既に神の座になき神に仕える、あなたを。

神の座を降りし神

 私は深く頷き、「佳きご判断を為された」と答えた。

 私の名はプラニダーナ。
 《最後の筆記者》こと、はるか昔にその権能のほとんどを自ら手放して世界の表舞台から去った、ジャーガル神に仕えるものである。
 かつては多くの権能を司った神の力は時とともに薄れていったが、それゆえに純化した。

 《最後の筆記者》とはすなわち、生きとし生けるものがその活動を為し終えたときに、それを記録し、”既に定まりたるもの”として管理するものをいう。だが、”活動を為し終えて定まる”のは、人や獣の命のみに留まらぬ。そのような命あるものが為したこと――語られ、用いられ、記憶されたものは、記録されたなら、それは”定まり”《知》となる。

 《知》には良きものも悪しきものもない。ただ、扱いやすく多くの人に幸福をもたらすものであるか、扱いづらくひとつ間違えればそれによって多くの苦痛が生じるものであるかの違いがあるのみである。
 前者はあらゆる人々に見える場所に置かれねばならぬ。後者はめったな者には触れられぬように、深い墓所に納められねばならぬ。
 そうしてジャーガルの神官は、その知の管理への献身あるがゆえに、多くの知を集めるのである。

 そのような者――すなわち、死者の生前の行ないを記録するのみならず、ありとあらゆるものに関して、それらは記録され、定められ、注意深く取り扱われるべき《知》となり得るのだと知る者の数は、いかにも限られている。
 多くの者の認識は以下のようなものである。すなわち、管理すべきは死者とその生前の行ないのみであり、それは例えば《死者の王》ケレンヴォーの裁定を助けるのに役立つ、と。

 これではジャーガルを祀る神殿などは建立されようがない。世界の表舞台を去った神に仕えるとは、そういうものであるかもしれないが。

 ともあれ結局のところ、私は現在ケレンヴォーの神殿に間借りをし、かの神殿の文書管理を引き受けているのであった。

 そのようなわけであるから、知――すなわち“この世で生じたすべてのこと”を取り扱うにあたり、我が神の力は無限の深さと針のごとき鋭さを誇る。一方で神の座を退いた神の権能そのものは、針のごとく細く、小さい。私が我が神の助力を仰いだところで、我が神の身じろぎに気づくものはなく、よって影が呼応することもなかろう。

凶兆の天使

 「それだけではないのです」

 イリアナは形のよい眉を顰めて言った。

 「これまでも神に問を立てた時、天使が現れることはありました。麗しい面差しに輝く白い衣、白い翼を広げて私の元へ彼方より降り立つ守護天使の姿を、私は何度も見ております。
 でも、この度ばかりは、その姿は――」

 口ごもりながらイリアナが描写する、凶兆を告げる天使の姿は――凶兆の天使とはいえ――確かにこれまでに神から使わされた者たちの姿とはかけ離れていた。

 具体的にはこんな感じだった。
 (どこかで「オーキボンド」と言っているのが聞こえた。その音の意味を私は理解しない)


H4 - The Throne of Bloodstoneより引用

 そして、私はこの姿を"知って”いた。
 とある史書(と書いてシナリオと称する。その音の意味を私は理解しない)の中にこの姿は記されており、知識の神の徒たる私はその記録された記憶に触れられるのであった。

 「それはこの時代から異なる時、異なる場所に現れた、善竜バハムートの使い。しかしまぎれもなく凶兆の天使とも言えましょう。その時その天使は、忌まわしきデーモンロードーー《流血公》オルクスに関わる恐るべき事件を伝え、勇者たちを戦場に導くために現れたのです。

 ですから、その天使としての異形は――その姿こそがすなわち凶兆を伝える神の異言。トゥレイクヴェイルとの連絡の途絶の背後には、天界と地獄を揺るがすただならぬ事件があると考えるべきでしょう」
 (どこかで「ルッキズムよくない」と言っているのも聞こえた。その音の意味もやはり私は理解しない)

 ひと息に言って、私は静かにイリアナを見た。

 王太子妃は血の気の引いた顔で頷き、あなたをお呼びしてよかった、と呟くと、今度はきっぱりと顔を上げてこう言った。

 「それでは共に、王の御前にいらして、そのことをお話し下さい。

 私はこの守護天使の姿と言葉に恐るべきものを感じ、トゥレイクヴェイルに出兵しようとする我が夫を制止いたしました。しかし領主たるものが何もせぬわけにはまいりませぬ。義父であるグローマン王は、夫と私にそれぞれ名代を立て、トゥレイクヴェイルの事件を探らせるように、そして自分もまた名代を立てる、と告げました。

 プラニダーナ師、私の名代として王の御前にいらしてください。そして王と我が夫の、それぞれの名代と共にトゥレイクヴェイルに赴き、便りが途切れた理由を明らかにし、かなうならば、死の暗き影と影でありし者を打ち払ってください」

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