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【プレイレポート】鬼の研究_序

序-あるいはキャラクター紹介-

――国内の山村にして遠野よりさらに物深き所にはまた無数の山神山人の伝説あるべし。願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。      
柳田國男 『遠野物語』序文より 

はぜ火

どこか遠くで、それともひどく近くで、かすれた音がする。
繰り返し、繰り返し、執拗に――
音、いや、声。
言葉にならない声が呼びかけてくる。

応えるように、身体の奥で何かが動いた。
温かい――いや、熱い。 
熱い? 
身体? 
これが、おれの、身体――なのか。 

ゆるりとまた意識が遠ざかる。微睡の中に戻ろうとしたとき、視界を何かが過ぎった。そう思う間もなく身体の奥から熱い赤いものが“そいつ”めがけて迸(ほとばし)った。赤いものに包まれ、そいつは跳ねる、踊る。 

――ああ、きれいだなあ、楽しいなあ… 

おれは、そいつをずっと眺めている。やがて、黒くなる。そいつも、視界も。 

はぜ火(と、のちに呼ばれるようになるもの) 
生まれたばかりの火薬の神。内側に炎を宿したつぎはぎだらけの鎧。或いは殻を纏(まと)った炎。
ウォーフォージド、地獄のウォーロック(書の契約)。 
PL チョモラン 

○はぜ火
「種族はウォーフォージドをやってみたいんです。イメージとしては、和物世界における“命が宿ってしまった鉄砲などの兵器”、『もののけ姫』なら石火矢とか」
「生まれたての黒色火薬の神、神は神でも概念の精みたいなやつで、それが鎧とかに宿ってウォーフォージドになった的な……」
 いきなりキャンペーンの芯となる柱がぶち立ってしまった。
 チョモランさんから提案されたのは、そんなキャラクターだった。
「関わり深いものが微妙にフワフワしてるから当日かどこかで設定とかDMに相談させてもらえればな~と」
 和物で器物の化け物と言えば、それは百鬼夜行の付喪神だろう。だが、器物が化け物となるには九十九年とも言われる長い時間を必要とする。
 なら、これは付喪神のように見えて、そうではない何かにした方が収まりが良い。それは、何なのか?
 種族としてウォーフォージドを選ぶが、その由来はエベロンのウォーフォージドとは完全に別のものだろう。むしろ彼はこの世界にただ一人の存在なのかもしれない。つまり、ウォーフォージドのデータを流用した人造クリーチャーだ。しかし、オリジンの根幹「戦いの為に作られた何者か」と言うところは共通出使える。
 その上で、選んでくれたのはフィーンド契約のウォーロック。
 契約相手の“フィーンド”は何者なのか?
 はぜ火は、どこから来て、どこへ行くのか。
 キャラ作成のチャット、アイデアを交したその一合でテーマが立った。
 今回のキャンペーンは、はぜ火の物語になるのだ。

DM: D16氏による補足

ひゐな

大木の股から翠(みどり)の滝のように、石斛蘭(せっこくらん)の大株が枝垂れ落ちている。 小鳥が飛んできて、その中に身を埋める。山火事の火の粉でも浴びたのか、翼がところどころ焼けこげている。 

と。 

――ああ、かわいそうに 

いつのまにか、歳のころ五つ六つばかりかと見える童女が木の根方に立って小鳥を胸に抱いている。 

――なぜこんな……ええ、火をつけてまわる奴輩(やつばら)が居る、と…… 

いたましげに呟きながら童女は細い指で小鳥を撫でる。
 
――安心おしよ、放ってはおかぬから 

その言葉が聞こえた瞬間、小鳥は何事もなかったかのように飛び立った。そう、羽を焼かれたこともなかったかのように。 

風が吹いて大木が揺れ、翠の滝が煽られた。それに驚いたか、木に安らっていたのだろう栗鼠や野鼠が駆け出して行き、そして童女の姿もどこにもない。 

ひゐな(と、のちに名乗るもの) 
山に生まれ山に棲むもの。石斛蘭の精。容(かたち)定まらぬもの。 
フォレスト・ノーム、土地の円環(森林)のドルイド。 
PL たきのはら 

○ひゐな(この時点では名前無し)
「今回も後ろであれこれやる方がいいなぁと。ノームで、少彦名命の眷属とか言い張りたかったり……」
 自然と共生する小型種族としてのノームはあちこちの民話に馴染む。
 もちろん、“蕗の下の人”コロポックルなども、ノームで表現できる。
 スクナビコナとコロポックル≒ノームの連想は『だれも知らない小さな国』から。
 幻術でその姿を装っている、フェイワイルドの住人でもあるという性質から考察すれば、『鼠浄土』、『おむすびころりん』のねずみなども、ノームたちのもう1つの姿なのかもしれない。つまり、転がったおむすびを追ってフェイワイルドに迷い込んだというわけ。
 かなり自然の精霊に近いイメージを再現するため、土地の円環のドルイドを選択。
 実は、ひゐなとはぜ火が行動を共にすることは、『もののけ姫』にあった手つかずの自然(シシ神)と人の開発(タタラ場)との対立がすでに内包されているんだよね。
 DMは何もしていないんだけど、どんどんキャンペーンの枠組が(採用するかどうかはともかく)持ち上がってくる、これだからDMは楽しい。
 開始時点ではぜ火は目覚めたばかりであり、そしてひゐなもまだ山や森の精霊として、名前も確定していない。ゆえに、この先どうなるかはまだわからない。

DM: D16氏による補足

迦楼羅

 「それでは迦楼羅(かるら)、拙僧はまず霊犬を借り受けに参る故(ゆえ)、其方(そなた)は暫(しば)し、この檜皮(ひわだ)の村にて構えておられよ」 
「忍慶(にんけい)どの、確かに仰せ仕(つかまつ)った」 

山村のはずれの簡素な堂に、親子以上にも年が離れて見える男が二人、居住いを正して向き合っている。墨染の旅装から、いずれも雲水(うんすい)、すなわち行く水・流れる雲のごとく諸国を経巡(へめぐ)る僧であると知れる。

かれらは鎮護国家を任とする護法の一派の退魔師である。諸魔を退けつつ里から里へと巡り往き、歳月を重ねゆくものである。諸魔とはすなわち、この世の綻びから人里にまで迷い出してくるものどもである。例えばこの世の生を終えたものが越える、陰深き渡瀬の先にあるという常夜(とこよ)の国の、あるいは魔界のあやかしのたぐいである。叶わぬ思いや未練に凝り固まるあまり、常のものでなくなった生霊死霊のたぐいも滅するべき魔とされる。かれら、すなわち護法衆とは、衆生(しゅじょう)を迷わせ害するそれらを打ち払い折伏しようとするものである。 

老僧は忍慶という。一派の役僧である。 
口にしている言葉はいかにもただならぬふうであるというのに、彼の皴深い面差しは、常に微かな笑みを含んでいるかのように柔和である。諸魔を退けるという荒行も、修め続けることで穏やかな徳を重ね磨いてゆくのだと思わせる好々爺である。
一方、迦楼羅と呼ばれたほうはといえば、激しすぎる修行のためか肉の削げ落ちた身体、整ってはいるが険を感じる厳しい面差し。表情のほとんど動かぬ顔は、凍てついた湖面を思わせる。身の傍に横たえた剣の柄(つか)は、そのまま降魔の法具、三鈷の形を成している。その剣の使い込まれたふうを見るに、こちらもいかにも百戦錬磨の武僧である。

やがて出立する忍慶を見送ると、迦楼羅はかすかに息を吐く。この度の役務は、檜皮村というこの山村の周辺を騒がす、猿の化け物の退治である。村に到着してあれこれと話を聞くに、人の手だけではとうてい退治が追いつかぬから、山ひとつ向こうの村から白い霊犬を借りてことにあたるとよかろうということになったのである。 

例えいくら齢(よわい)を重ねたからとて、猿ごときがそのように恐ろしくなるものだろうか。そうひとりごちながら、迦楼羅はうららかな陽の差す山を見上げる。

村人たちの間に一人立ち混じるというのが、実は迦楼羅にとっては少々気の進まぬことなのである。迦楼羅は常夜に棲むものたちの血を引いている。整いすぎた面差しと、白皙を通り越して蒼ざめた顔色から、それはすぐに見てとれる。

かれらの一派は出自を問わぬ。御仏の法に従い、世の理を保つことに心を向けるのでさえあれば、この世のものでなくとも構わぬ。そもそも御仏の力そのものが、この世の範に収まらぬものである。 とはいえ――

この世ならぬものの血を引く迦楼羅の姿格好を恐れてか、村人たちは迦楼羅だけが寝泊まりするようになった堂には近寄らぬ。世話役を仰せつかったらしき老婆がひとり、朝晩におずおずと戸口にやってきて、味噌と握り飯を置いていくのみである。これも修業であろうなあ、と、迦楼羅はひとりごちる。その間もその表情は相変わらず、凍てついた湖のごとく動かぬのではあるが。
 

迦楼羅
護法衆の退魔師。真言を唱え、印を結び、世にあまねき仏法の熾炎・雷音の力を宿す降魔の剣をふるうもの。 
シャダーカイのファイター(エルドリッチ・ナイト)。 
PL ふぇるでぃん

○迦楼羅
「さて、私は何をしようか。ファイターは決まっているんだけど……そういえば、和物で魔法使うとしたらどんな参考資料がありますかね」
「そうですねえ、『帝都物語』とか『陰陽師』。あと、ふぇるでぃんさんやぼくらの世代だと『孔雀王』ですよねー」
「ああ!」
 と言うことでこうなった。
 プレイヤーのふぇるでぃん氏は一番D&Dの経験があり、そして面倒見が良いために、先行する二人のキャラを見て前線に立てるクラスを選びつつ、自分がイメージしやすいキャラを作成。
 種族はシャダーカイ。影界シャドウフェル原住であるエルフの副種族だ。相談の上、これを“烏天狗”としてみた。
 伝承の天狗たちは、深山の“天狗界”≒フェイワイルドに住み、卓抜した神通力を使用し、山川を渡って、時に人を導き、時に人を惑わせる。
 自信に満ちて増上慢だが、清浄を求めて潔癖。
 これはつまり、D&Dでいうところのエルフと通ずるところがかなりある。
 鼻髙天狗というか大天狗がハイ・エルフ、下級の天狗(木の葉天狗、白狼天狗、烏天狗)はウッド・エルフ、シャダーカイで準用(ドラウは土蜘蛛にすべきかとこの時点では悩んでいた)。山を修行場とする仏教勢力とは、競合を経て協力者・庇護者としての立場を確保したのだろう。
 クラスについては、ファイターのエルドリッチ・ナイト。つまり、三鈷剣や法輪を武器として、真言を唱えつつ電撃を放ったりする。『孔雀王』でお馴染み“裏高野”的な退魔僧なので、背景は“侍祭”。
「いわゆる“僧”なのに信仰呪文使いじゃなくて秘術呪文使いなの?」と思われるかもしれない。
 これについて2つの観点から説明する。
 そのいち、密教について。
 マンガ『孔雀王』では主人公の孔雀は“裏高野”の退魔師であり、真言密教を使用している。密教の本来の目的はその儀礼や修法により行者が宗教的な理想を達成することだが、同時にそれは、現世利益をもたらす多様な加持祈祷や、体系的な神秘思想・学問を備えていた。こうした学究的な側面をD&Dで表現すると、それは秘術魔法、ウィザードのやり方に近い。また、『孔雀王』本編でもその描かれ方を再現しやすいのは秘術魔法だ。
 そのに、“侍祭”という背景について。
 5版では“背景”により、そのキャラクターの社会的な立ち位置と、クラス能力を別々に設定することが簡単になった。宗教組織の構成員であることを表現するとき、その構成員がすべてクレリックやパラディンというクラスである必要はない。
 旧版のOriental Adventureでは東洋風世界を表現するために、SamuraiやSoheiといったクラスが新設され、東洋風な特殊能力をクラス特徴として実装していた。
 だが、5版ではSoheiは“侍祭”の背景を持つファイターや、“兵士”の背景を持つクレリックという風に表現できる。PHBの範囲だけでも、中世日本伝奇ファンタジーの住人をかなり再現できるのである。

DM: D16氏による補足

《鬼の研究》
システム:D&D第5版
DM:D16
プレイレポート:たきのはら

〇キャラクター作成

 さて、始まった。
 ご存じの方もあるかと思うが、ダンジョンズ&ドラゴンズには『Oriental Adventure』という製品がある。1985年AD&D1stのサプリメントで、その後も2001年にD&D3版対応版として刊行されている。また、独立製品ではなくても各種追加ルールにて、サムライやニンジャといった東洋風のクラス、モンスターが発表されている。
 だが、僕たちの遊ぶのはOriental Adventureではない。
 『もののけ姫』のように神霊息づく世界で、
 『日本昔ばなし』のようにさまざまな妖異を語りつつ、
 『どろろ』のように旅を続けては化け物と戦う。
 そんなキャンペーンを遊ぼうと思ったのだ。
 とはいえ、すべてデザインしてからメンツを集めてたら間に合いっこない。
 プレイヤー諸氏にはコンセプトを伝えて、まずはキャラを作ってもらったのである。

DM: D16氏による補足


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