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《死者たちの宴》3-2. スカルヘイム城の探索


‼️注意‼️

 以下の文章はD&Dシナリオ、CM2 ーDeath's Ride(邦題『死者たちの宴』)を遊んだ時のレポートです。完全にネタバレしていると思われますので、これから遊ぶ方はご注意ください。

“死せざる者”

 命に別状はないとはいえ、未だ酷く傷を負った状態のアルマンドを、比較的に安全と思われる兵舎に連れて行って休ませる。また、アルマンドの状況から、この城にはまだ“命あるもの”が残っていないとも限らないと判断できたので、我々もひと息入れたあと、さらに城の探索を続けることにした。

 ーーしかし……
 ふと、思いあたったことがあり、私は“三つ目”に話しかけた。

 「そなたの来歴を詮索するつもりはないのだが……そなた、“負の生命力”の気配を色濃く纏ってはいるが、いわゆる動く死体(アンデッド)ではないのだな。先ほどの、“生命の理に反して動き回る死者を咎める”聖句が、そなたにまで影響を及ぼしてしまったらと思うと、気が気ではなかったのだが」
 「違う。俺は一度も死んじゃあいない。シャドウフェルの気に浸されすぎたせいで紛らわしいことになってるが……俺は負の生命力で動いてるわけじゃない。
 かといって生きてるわけでもない。生きてるってことは、命が尽きれば死ねるってことだからな。俺の生命は捻じ曲げられ、死ねなくなってるんだ。だから俺は生きてもいない。
 そういう意味じゃあ、俺はやっぱり“死に損ない(アンデッド)”なんだよ」

 そう答えて、“三つ目”は乾いた笑い声を微かにこぼした。その肩先で、捻れて飛び出した骨とも、鎧の一部ともつかなく見える、白々とした突起が揺れる。三つ目を穿った仮面の下から時折り見える“顔”の輪郭は、肉が崩れて溶けたものとも、形を持たず流れる影とも見える。
 そのような姿に変じてゆきながらも、死ねないーーということの恐ろしさを、今更のように思った。

 この男、よくぞ正気を保っている。

 「ずっとシャドウフェルに、たったひとりで閉じ込められていた。いや、“あいつ”だけは傍にいてくれたな。監視役だろうがなんだろうが、それでも俺には救いだった……」

 “あいつ”?

 聞き返そうとして、思いとどまった。
 そういえば、蠍人間どもと戦ったとき、“三つ目”の傍に、影が姿を成したような一頭の黒豹を見た気がする。きっとそのことだろう。

 ーー影の黒豹。はて……

 何か思い出せそうな気がしたのだが、ドーンが「そろそろ行こう、急がねば」と言い、“三つ目”も立ち上がったので、私も思いを巡らすのをやめた。

 そうだ、急がねば。

鶏の家令

 よほど気が急かれるのか、ドーンは手当たり次第に扉を開けては、慌ただしく室内を検めた。城のいくぶんかは既に突入前に“見て”あるので、検分は滞りなく進む。しかしわかったのは、今のところ城には、新たな敵も味方も死体もない、ということだけだった。

 あっという間に中庭を囲む建物を調べ終え、残るは天守塔だけとなった。“視点”を先行させた時には扉が閉まっていて見られなかった、室内の様子を確かめていく。

  広間を抜けて階段を上り、2階の部屋の扉を開けた、その瞬間。
 ばさばさという音、けたたましい叫び声とともに、飛び出してきたものがある。
 鶏。
 いや、翼と共に蛇の尾をばたつかせている。魔獣、コッカトリスだ。反射的にドーンが剣を振りかぶる。

 「待てドーン!」
 “三つ目”が鋭く叫ぶ。振り下ろしかけたドーンの剣の軌道が宙空で逸れたのは、“三つ目”が力場の塊をぶつけたのか。
 「よく見ろ、その鳥、怯えてるだけだぞ!」
 「しかしこれは穢らわしき魔獣ではないか!」
 「二人とも待ちなさい、私がこの子の話を聞くから」

 私もドーンのことは言えぬ。魔獣の姿に思わず一度は身構えたのだ。しかし、“三つ目”の叫びにハッとしてよくよく見れば、件のコッカトリスは目に涙を浮かべ、翼を打ち振り、我々に助けを求めているではないか。

 私は片手に聖印を握りしめ、空いた手でなるたけ優しくそのコッカトリスの羽毛に触れた。ジャーガルの恩寵たる読心の技を紡ぎながら、言う。

 「私はジャーガルの司祭、この城を解放しに来たものです。いったいどうなさったのですか、ああ、言葉を話す必要はありませぬ。ただ、思い浮かべてくださればよろしい、私にはわかりますから」

 そう、神の力に依りて紡ぐ読心の技は、相手の表層意識に浮かぶ思考を直接読み取るのだ。

 コッカトリスーーの、思考ーーは、涙ながらにこんなことを告げた。

 わたくしはこの城の家令、アムマイラと申します。
 少し前に、城は蠍人間と巨人どもの軍に囲まれ、壁からは死霊が湧き出してきて、ついには私の部屋に、みるからにけがらわしい男どもがやってきました。その男どもは、わたくしを見て「なんと見目麗しい、儂の配下に加えてやる」などと言うのです。
 ふざけるなと答えてやりましたら「やかましい女め、その口喧しさに似合った姿になるがよい、そうして誰にも言葉を聞いてもらえず殺されるがよい」と言うなり、わたくしに呪いをかけて、こんな姿にしてしまったのです。

 そうしてわっと泣き出すのをなだめながら聞き出した諸々から、どうやらこの城を襲ったのは《流血公》オルクスを信仰する一味であるのは間違いないこと、その軍には蠍人間や巨人どもだけでなく人間もおり、おそらくはオルクスの司祭が頭領であること、司祭の参謀か何かのように、ローブのフードを目深にかぶって顔を隠した魔導士がいることなどが知れた。

 アムマイラに呪いをかけたオルクスの司祭の風貌も、彼女の脳裏に浮かんだものをはっきりと見て取った。

 ――というより、彼がオルクスの司祭であるとわかったのも、アムマイラの記憶の中で男が身につけていた衣服や装身具の全てに、オルクスの邪印と思しきものが縫い取られたりかたどられたりしているのが見えたからなのだが。
 ただし、件の司祭の悪辣にして大兵肥満の顔つき体つきについては、恐怖と嫌悪にアムマイラの視野が歪んでいた可能性も、多少は計算に入れねばならないかもしれぬ。

 ともあれ、怯えきったアムマイラをなだめ、我々が来たからには、もう誤って殺害されることを恐れずともよいと言った。そして、我々はさらに生存者を求めて城を探索するので、隠れて待っていてほしいと告げると、アムマイラはまた泣きだしそうに震えはじめた。

 ーーあの、一緒に連れて行っては下さらないのですか

 不安はもっともではある。とはいえ、城内にはもはや、どこに敵が潜んでいてもおかしくはない。とても淑女を伴うわけにはゆかぬ。
 仕方ないのでいったん引き返し、兵舎で休んでいるアルマンドに、「これはオルクスの司祭に姿を変えられたレディ・アムマイラであるから、決して粗雑に扱うことのないように」と告げてアムマイラを預けた。
 アルマンドはなんとも怪訝そうな顔をしていた。淑女に対して失礼というものであろう。

魔剣

 しかし、邪霊のうろつく城で散々な思いをした者のもとに、コッカトリスの姿に見えるものを無理やり置いてゆくというのも、あまりに不親切ではある。アルマンドの前でもう少しアムマイラと会話をすることにした。城の者しか知らぬはずの諸々の話などができれば、アルマンドも納得するだろうし――新たな情報も得られるやもしれぬ。

 そこでアルマンドの前でアムマイラに、「コッカトリスに姿を変えられた」ときのことを尋ねた。曰く――

 ――私の部屋に来たのは、邪神の司祭らしき男と、邪悪な魔導士の二人連れでした。魔導士のほうはフードを深くかぶっていて顔は見えません。ただ、長衣の袖口から覗く手は骨のような白、そして老人のように枯れて痩せさらばえていました。声はしゃがれ、男とも女ともつきません。

 私をこの恐ろしい化け物の姿に変えてしまうと、この奥まった部屋が安全だと思ったのか、魔導士のほうがひと振りの剣を取り出しました。
 「これが世界の平衡を取る剣か」
 と、司祭は見るのも嫌そうに言い、実際その剣には手を触れることもしなかったのですが、魔導士の方は「そうだ」と言いざま、その剣を床に置き、自身の剣を抜いて、それを三つに叩き折り、その欠片をどこかに持ち去ってしまいました。

 「それは――まさか、湖のほとりで見つかった魔剣では…‼」
 
 アムマイラの思い浮かべた言葉を私がそこまで口に出したところで、アルマンドが叫んだ。

 聞けば、この城の周囲に怪しい暗雲が立ち込め始めたころ、ウェストレイクのほとり、アリコールの村で、いわくありげなひと振りの剣がみつかったのだという。
 城付きの神官、ジャレドの言うことによれば、その剣は神聖な力に満ち溢れており、暗雲と共にもたらされるシャドウフェルの気配と拮抗し、この地がシャドウフェルに飲み込まれる――いわゆる《シャドウフェル堕ち》するのを防ぐように働いているとのことであった、と。

 「ならば、オルクスの司祭がその剣を嫌ったのもむべなるかな。この地をシャドウフェルに堕とそうとした連中は、その穢らわしき企てを達成せんがため、剣を破壊したのだろう――しかし、何故、この地にそのような剣が……」
 ドーンの疑問の答えは、すぐに思い当たった。それこそ、私――《神の座を自ら降りし神》ジャーガルの神官である私がこの場にいる理由であったから。

 「《流血公》オルクスが動いたとなれば、この世界を奪われぬためには神々は対抗せざるを得ない。しかしそうなれば、世界を揺るがす大戦争にもつながりかねぬ。であるから、神々は間接的にこの地に力を及ぼし、人の手でオルクスの脅威を打ち払わせようとした
 ――神々は世界が”傾かぬ”ことを望んでいる。であるから、神々の意志は人が振るうべき剣としてこの地に現れたのだ」
 「じゃあ、つまりそれは神さまの寄越した魔剣ってことだな!」

 さらに世界の理を説こうとした私を、”三つ目”が遮った。
 「神の魔剣は三つに折られて持ち去られた、と。
 じゃあ俺たちはそれを見つけて取り戻さなきゃならない。よし、やることがわかってきたじゃねえか。まずはこの城を探して回るとしようぜ」
 

 

 


 

 

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